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無口キャラとの接触

 次の日の朝、歳三は斑鳩の部屋で目を覚ました。


「………………」


 畳の上で力尽きたところまでは憶えているが、どうやら斑鳩が自分の布団に寝かせてくれたらしい。


 斑鳩の方は壁際で横になっている。


「……複雑だな」


 布団を譲ってくれたことを感謝するべきなのか。そもそもそんな状況に陥らせた斑鳩を恨むべきなのか。実に判断に迷う状況だった。


 眉間をかすかに抑えながら、ため息をつく歳三。


「目が覚めたみたいだな」


「! 起きてたのか」


「いや。寝てたけどさ。物音に反応する癖はなかなか抜けないんだよ」


「なるほど」


 そういう訓練を受けてきたのだろう。自分の意思で切り替えが不可能なほどに体に叩き込まれているのかもしれない。


 歳三も睡眠中でも敵意や殺意に反応して目が覚めるようには訓練している。


「昨日は色々楽しませてもらいました♪」


「………………」


「そんな怖い顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ」


「うるさい」


「はあ……寝顔はあんなに無防備で可愛いのにどうして起きてるとこんなにおっかないんだろーなー……」


「っ!」


「ぐぼへぁっ!?」


 考えるよりも先に歳三は斑鳩の顎を蹴り上げていた。


 あまりにも綺麗に決まり過ぎて、蹴った歳三も蹴られた斑鳩も舞っているようにも見える光景だった。


 もちろん、どう見えるかは置いておくとしても、蹴られた本人はダメージ甚大だ。


「私はもう行く! 仕事の方は後で回しておくからちゃんとやっておけ!」


「……いえっさー……暴力副長殿……」


「何か言ったか?」


「いえ。何でもナイデス」


「ふん」


 ギロリと睨みつける歳三の視線を受けて縮み上がる斑鳩。


 剣の腕もさることながら、眼力も新撰組随一の持ち主ではないだろうかと密かに思う斑鳩だった。



 歳三に言われた仕事を一通り終わらせてから、暇が出来てしまった斑鳩は西本願寺の中を目的もなく歩き回っていた。


「ん~。よく考えたら俺ってばここの全体像ってまったく把握してない気がするな……」


 などと思い出したのでちょっとした探検気分も兼ねている。


 自分が住んでいる場所で知らない部分が多い、というのは住む者として若干の気持ち悪さが残るものだ。


 自分の部屋と歳三の部屋、それから境内くらいしか今まで歩き回ったことがない。


 今回は一通りの居住区を目立たないように歩き回りつつ、普段誰も立ち入らないであろう場所まで歩いてみることにした。


 新撰組隊士と寺の住職たちを含めると百人以上が暮らしているこの西本巌寺の中でも、やはり誰も立ち入らない場所というのはあるらしく、そういう場所を歩き回ると本当に誰の姿も見かけなくなる。


「烝も天井裏じゃなくてこういう場所で落ち着けばいいのにな」


 などとぼやく斑鳩。


「およ?」


 少し離れた場所から剣を振る風切り音が聞こえてきた。


 どうやらこんな寂れた場所で誰かが訓練しているらしい。


 その場所まで近づいてみると、見覚えのある少女が一人で剣を振っていた。


 小柄な身体。左側でまとめた長髪。そして感情の読み取れない瞳。


「あれは確か、斉藤一っつったっけ……?」


 三番組長、斉藤一。


 確か以前そう名乗っていたのを思い出す。


「………………」


 一は斑鳩に気が付いて振り返る。


「よ、よお」


 何だか気まずくなりながらもとりあえず軽い調子で手を挙げる斑鳩。


「………………」


 一は斑鳩をしばらく見つめた後、再び元の方へ向き直り剣を振り続けた。


「ガン無視ですか……」


 いや、無視はしていない。


 いちおうかすかに頭を下げたような気もする。


 注意してみないと分からない程度のわずかな動きだったが。


「つーかこんなところで訓練してないでみんなと混ざればいいじゃないか」


「………………」


 大きなお世話だ、というような目で睨まれた後、再び素振りに戻る一。


「これは……」


 手強い、と肩を竦める斑鳩。


 そういえば無口キャラは一のデフォルトだと歳三が言っていたのを思い出す。


 つまりは斑鳩に対してだけではなく、誰が相手でもそうなのだろう。


「あ~……よかったら俺が相手しようか? 一人でやるよりは相手がいた方が色々便利じゃないか?」


「………………」


 一は斑鳩を睨んだ後、振っていた剣を斑鳩へと向けた。


「……殺す気でかかっても構わないなら」


「じょ、上等……!」


 二度目に聴いた声は、鈴のように澄んだものだった。


 向けられた剣先と殺気さえなければ、思わず聞き惚れていたかもしれない。


 もちろん、そんな暇はない。


 一は斑鳩が答えた瞬間、すぐに剣を振るってきた。


 まずは頸動脈を平突き。


「ど、わあっ!?」


 もちろん左之助の時のような棒ではなく、正真正銘刃のついた真剣での攻撃だ。


 狙ったのは急所。


 斬られたらまず助からない。


「な、何も急所を狙うことはないだろう!」


 あくまでも訓練のはずなのに、いつの間にか殺し合いになっている。もちろん斑鳩に一をどうこうする気はないのだが、一の方はばっちりがっちり殺す気満々のようである。


 むしろこれ幸い、みたいな。


「殺しても構わないと言った……」


「言ってねえ! いつのまにかすり替わってるぞ!」


 正しくは『殺す気でかかっても構わないなら』のはずだ。


「どのみちわたし程度に殺されるような奴は土方さんの傍には置いておけない」


「そっちが本音か!」


 モテモテだなああいつは!!


 などとぼやきながらも、一の剣筋を見極める斑鳩。


 かなりの実力者なのは確かなようだが、それでも歳三と比べると若干動きに鋭さが足りない。


 なので斑鳩にとっては反撃なしであしらえる相手だった。



 そんな訓練とも殺し合いとも言えないやり取りを十五分ほど続けた後、


「………………」


 先に片膝をついたのは一の方だった。


「こ、これで満足か……?」


 斑鳩の方も若干息を切らしているが、攻撃を続けた一と違ってあしらっただけなので体力の消耗は比較的少ない。


「………………チッ」


 帰ってきたのは無言の舌打ちだった。


「………………なんか、嫌われてるなあ、俺」


 そう言えば左之助と一は響都火災の際にあの場にいたらしいから、いまだに敵方だと思われているのかもしれない。


 左之助は疑いを晴らしてくれたようだが、一の方はまだ信用しきれていないというところだろうか。


「と、とにかくさ。俺は敵じゃない。だからそんなに睨まないでくれ」


「………………」


 一はまだ斑鳩を睨みつけたままだ。


「うあ……」


 どうすればいいのか分からずに困り果てていると、元気のいい足音が近づいてきた。


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