謎の黒装束
まあ、何かをしたいと思ったところで、今の斑鳩に出来ることは限られているわけで。
「地道に色々回っていくしかないんだよな~」
斑鳩は今、 第一の封印である星冥神社に足を運んでいた。
表向きは参拝客を装って。
「一見、普通の神社だよな~」
神社そのものの規模はあまり大きくない。
魔法師の聖地というが、一般人が立ち入れる範囲は非常に小規模なものらしい。
むしろ隣接している魔法師協会の建物の方が数十倍の規模を誇っている。
「魔力……みたいなのはあんまり感じないな」
魔力というならむしろ隣にある魔法師協会の建物の方がずっと強い魔力を放っている。
数百人の魔法師が生活している場所なのだから、当然といえば当然なのだろうが。
「あの爺さんみたいなのがいっぱいいるのかな……」
『あの爺さん』とは、斑鳩が前にいた組織の魔法師のことである。
翁とだけ呼ばれていたが、本名は不明だ。
あの山にいたただ一人の魔法師で、斑鳩から見れば何でも出来る神様みたいな存在だった。
魔法師とはああいうものなのか、と斑鳩は思っていたのだが、歳三に後から聞いた話だとそれは違うらしい。
少なくとも一般レベルの魔法師は一つの元素を使いこなすのがやっとで、四大元素を使いこなし、あまつさえ物質に魔法を込めるなんてことは最上位の魔法師の業らしい。
魔法や魔力は己の肉体を通じて発動させるのが通常の使い方であり、己の肉体を離れた物質に魔法や魔力を込めるのは、かなり高い技量が要求される。
腕利きの魔法師が名を連ねる響都の街の中でも、その存在は十人に満たないほどだ。
魔力を込めやすい物質として代表的なのは、宝石と年月を経た武器。そして特殊な加工を施された紙だ。
宝石は魔法のストックとして。武器は攻撃力の増加として。そして紙は呪符として使用される。
あの時斑鳩は仲間を逃がすために転移の魔法が込められた呪符を使用した。
いざという時のために持たされていたものだ。
任務のたびに持たされて、使う場合と使わない場合があるが、基本的には消耗品扱いだった。
しかし呪符とは本来、相当に高価なものらしい。
「あの爺さん、あんな組織に身を置かなくても呪符商売だけでひと財産築けたんじゃないか……?」
なんてことを今更ながらに思う斑鳩だった。
まあ翁にもあの組織に身を置くだけの理由があるのだろう。
それはともかくとして、本来の目的を思い出す。
「第一の封印っていっても魔法が根幹になってるわけじゃないのかもな~」
魔力そのものが封印の助けになっていることは確かなのだろうけど。
「う~ん。やっぱりわかんねー。こんなとこぶっ壊して本当に世界がどうこうなるのかね~」
はてさてと首をかしげる斑鳩。
「なりますよ~」
完全に独り言のつもりだったが、それに応える声があった。
「烝?」
聞き覚えのあるゆるい声。
声はすれど姿は見えず。
しかしそれこそが彼女のいる証拠でもある。
歳三曰く気配もキャラも薄い監察方。
究極の照れ屋キャラ山崎烝。
「何でこんなところにいるんだ?」
姿を探しても無駄なことは分かっているので声だけかける。
「ん~。たまたま仕事現場がバッティングしただけですよぉ~。ボクは別件でこっちにきてましたし」
「そうなのか?」
「まあ斑鳩さんの行動を監視してただけなんですけど」
「………………」
信用ねえなあ、などと肩を竦める斑鳩。
「あ、誤解しないでくださいね。斑鳩さんを疑っていたわけじゃなくって、斑鳩さんが無防備に市街を歩き回っていればあの人たちが接触してこないかな~なんて期待してただけなんで」
「あ、そういうことか」
それでも複雑な気分だった。
つまり餌扱いされていたらしい。
まあ疑われるよりはマシかもしれないが。
「成果は今のところ芳しくないですけどね~。それはそれとして、ここの異常を感じ取りたかったらそんなやり方じゃ駄目ですよぉ」
「ん?」
「えっとですねぇ。世界っていうのは安定を第一条件として存在しているんで、世界の存在に組み込まれた人間の感覚ではその異常を感じ取れない仕組みになってるんですぅ。だから人間以外の感覚で感じ取らないと」
「???」
言っている意味が分からず、さらに首をかしげる斑鳩。
「だからーー」
烝がさらに説明を続けようとしたとき、空気が下方に揺れた。
「!?」
下へ下へと大気そのものが圧迫される感覚。
「あっ!」
しかしその標的は斑鳩ではなく烝だった。
神社の木の枝に身を隠していた烝が地面へと落とされる。
「烝!?」
ただ落とされただけではない。圧迫された空気の弾丸を受けて地面に叩きつけられたのだ。そのダメージは計り知れない。
「かはっ!」
たまらず地面に喀血する烝。
「くそっ!」
烝の位置を正確に掴んで攻撃を加えたとしか考えられない。
だが斑鳩でさえ分からなかった烝の位置を正確に割り出し、攻撃を加えたのはいったい誰だ!?




