新撰組誕生秘話 02
「三年前くらいだったかな。人間達が大挙して狼奉山に攻め込んできたんだ。剣士・傭兵・魔法師勢揃いで総勢二千人くらい。さすがにあの時は肝が冷えた。数の暴力っていうのは種族とか関係無しに脅威になるっていうことを嫌というほど学んだよ」
「……天牙の民は何人くらいいたんだ?」
「戦闘に参加できる人材は百人にも満たなかったよ。あの時ほとんどの仲間が殺された。殺されなかったのは戦闘に参加しなかった子供と、老人達くらいのものだ」
「……殺してやりたいとは思わなかったのか? 人間のこと」
「思ったさ。というか、今でも思ってる。だけどそれは無理なんだよ。現状、戦闘に参加できるだけの力量を持った天牙の民は十人にも満たない。たったそれだけの数で数千数万の人間に闘いを挑もうと思えるほど、あたし達は無謀じゃないよ」
「…………」
無謀じゃなければ挑んでいたということだろう。
「生き残りを整えた後、鴨さんと土方さんが響都領主・松平容保公に取引を持ちかけたんだ。その時の響都の治安は最悪だったからな。少数精鋭の戦闘集団が必要だったんだ。そしてそこにつけ込んだ。あたし達は自らの保身を、そして人間側は腕の立つ護衛を得ることになった。容保公にしてみれば危険分子に首輪も付けられるから一石二鳥だっただろうな」
「………………」
「こうして響都守護職・新撰組は誕生したわけだ。あたし達組長以外は外部の雇われ傭兵ばっかりだけどな。構成から分かるように、扱いはただの使い捨てだ。消耗するまで使い尽くして、代わりを補充する。あたし達はそういうものなんだ」
その扱いを不満に思わない日はないだろう。
自分たちを虐殺した相手を守って。
見返りは自分たちの安全のみ。
それすらも使い捨てられるまでの時間制限付き。
「正直なところ、あたし達はジリ貧状態だ。でも他に方法はなかった。よっぽどの相手じゃない限り、人間に遅れを取ることはないから、生き残り問題はほぼ解決しているといってもいい。さっきは使い捨てと言ったけど、あたし達は簡単に使い捨てられるほどヤワじゃないしな」
「……それでも、辛いだろ」
「………………」
平穏に生きられるはずだった。
闘いや人殺しをせずに、ただ日々の暮らしを送っていけるはずだった。
それを壊した人間達を守る。
そんな道を選んでしまった。
「辛くないと言ったら嘘になる。でもまああたしはこれでいいと思ってるよ。他に道はないんだし、最善ではなくとも次善ではある。滅びてしまえば楽なんだろうけど、さすがにそこまで悟りきった考え方はまだ持てないし。あたし達は人間を守ってる訳じゃなくて自分たちの居場所を守ってるんだ。そう考えればまあ、我慢できないこともない」
「なるほど」
「それに一番辛いのは土方さんだ。新撰組の指揮と容保公との折衝。いつ胃に穴が開いてもおかしくない」
ああ~心配だ~! と左之助が寝転がったまま悶える。
「……聞こうって言っておいてなんだけどさ。何で俺にそんな話をしたんだ?人間は嫌いなんだろ?」
「ん……。ま、あたしは山南さんほど凝り固まってないからさ。人間だって相手次第で解り合える、くらいの柔軟思考は持ち合わせてるんだ」
「山南さん?」
「ああ。ウチの総長」
「総長?」
「まあ地位で言うなら土方さんと同格だな。役割分担があるだけ。土方さんは上との交渉と組長のまとめ役。山南さんは下のまとめ役って感じかな」
「なるほど」
確かに無駄のない役割分担だった。
「山南さんはちょっと色々思うところがあるみたいでさ。人間に対していつか復讐する気でいると思う。もちろんここには外部の人間もいるからあからさまに表に出したりはしないけどさ」
「なんか、そう聞くと会うのが怖くなるなぁ……」
立場上、人間と認識されている斑鳩としてはあまり会いたくない人物かもしれない。
「多分、あたし達に限界が来た時真っ先にぶち切れるのはあの人じゃないかな。立場も保身も関係なく人間を片っ端から皆殺しにしていきそう。命尽きるまで動き続ける殺人機械のごとく」
「怖い怖い怖い怖い!」
ガタガタと震える斑鳩を見て、左之助は肩を竦めた。
「まあ山南さんのことは置いておくけど。君に話したのは土方さんの近くにいるからだよ」
「へ?」
「あの人の側にいるなら、あの人のことを知っておくべきだと思っただけだ。大きなお世話かもしれないけどさ」
「いや……そんな事はないけど……」
「あたしも土方さんに関しては山南さんのことは言えないしな~」
「?」
「いやいや。だからさ。もしも斑鳩が土方さんを裏切ったり危険な目に遭わせたりするようなことがあったら、どんな手を使ってでもこのあたしがぶっ殺すって言ってるのさ!」
「………………」
爽やかな笑顔でこの上なく物騒なことを言うのはやめて欲しい、と身震いする斑鳩。
「暗殺・毒殺・寝込みを襲うとか。格上の相手でもやりようによっては殺せないこともないしな。でも出来ればなぶり殺し希望!」
「……希望! じゃねえし! 怖ぇよ!」
「まあまあ。知って欲しかったのはこのあたしは土方さんに対してだけヤンデレってことだから!」
「知りたくねえ!」
「斑鳩が土方さんを敵に回したりしなければ問題ないわけだし」
「それは多分、大丈夫だと思うけど……」
「多分……?」
左之助の眉がピクリと跳ね上がる。
どうやらお気に召さない回答だったらしい。
「絶対って言うとなんか胡散臭いだろ」
「うん。そりゃそうだ」
「でもまあ、俺がトシ達の敵に回った時は、遠慮なく殺しに来てくれ。俺も多分、容赦しないから」
「え~。あたしと君じゃ勝負にならないじゃん。手加減してよ~。あたしは容赦しないけど♪」
「出来るか! つーか不公平だろそれ!」
「あはははは。まあそんな日が来ないことを祈るよ。土方さんの為にも、斑鳩の為にも」
「俺も祈ってるよ。ヤンデレ部下にぶっ殺されるとか正直ぞっとするし」
「そうだな。仲良くやっていけるならそれが一番いい。少なくともあたし個人は君のことが嫌いじゃない。むしろ好ましいと思ってる」
「俺はまあ、ヤンデレ部分を除けば好ましいと思っているよ」
「う~ん。そこは除けないんだよな。キャラ設定的に」
「キャラ設定言うな」
メタ発言ギリギリの左之助を窘める斑鳩。
「じゃあ腹も減ったし飯でも食いに行くか?」
「ああ」
あっさりと問題発言をスルーしてから、左之助は話題を切り替えた。
必要なことは伝えたのであとは交流を深めるだけということらしい。
斑鳩としてもそれは歓迎するところなので、その提案に乗った。
食事中に話したことは物騒なこととは何の関係もなく、ただの世間話だった。
他愛のない、日常の話。
何にむかついたとか、何がおかしかったとか。
そんな風に話していると、左之助や歳三たちが求めていたのは、こういうものなのかもしれないと思った。
何もいらない。
ただ、穏やかな日常さえあれば。
それが何よりも難しいと分かっていても、求めずにはいられなかった。




