炎の出逢い 01
雅さで知られる響都の街が、炎で紅く染め上げられていた。
「駄目だくそっ! 火の勢いが止まらない!」
「うわあああんっ! お母さん! どこ!?」
「とにかく逃げろ! 少しでも遠くへ!」
炎は容赦なく都を染め上げていく。
建物と数多の命を巻き込んで、暗い夜を無理やりに照らしていく。
「くそっ! 火の回りが早い! 第六区の避難はまだなのか!?」
炎の中で市民の避難誘導を行っているのは、浅葱色のダンダラ羽織を着た背の高い女性だった。長い髪を後ろでまとめ、声を張り上げている。凛としたその姿は、荒れ狂う炎を前にしても微塵も揺るがない。むしろ炎こそが彼女をより輝かせる光のようですらある。
彼女の名前は土方歳三。
響都守護職・新撰組の若き副長だ。
「トシ! 第七響区の住民はあらかた避難させた! そっちはどうなってる!?」
第七響区の方向から走ってきたのは、近藤勇。新撰組を取りまとめる局長だ。肩までの黒髪をハチマキでまとめて、後ろへと流している。
「こっちはまだ半分ほどだ。どこの誰だか知らないが、人がどう逃げるか、炎がどう広がるかを熟知している。放火した奴は相当の手練れだろう」
響都の街は大和の国の中でも一、二を争う大きさだ。人口も建物の多さも並ではない。
そんな大都市だからこそ響都を守護する人材も腕利きが揃えられている。新撰組もその一つだ。それがこうもあっさり護るべき街を火の海にされたのだから、面目が丸潰れだ。せめて住民の避難だけでも完遂させないと、守護職を名乗る資格が無くなってしまう。
「そうか。ならば住民の避難は私が引き継ごう。左之助や一の方に加勢して欲しい」
「加勢といっても、あの二人の担当区は離れすぎている。私一人で両方の加勢は難しいぞ」
「ああ、説明不足ですまなかった。あの二人は市民の避難誘導を終えている。元々人口の少ない地区だったからな。今は下手人の捜索に当たらせている。トシの言う通り、相手は手練れである可能性が高い。私たちの監視をかいくぐって、一気にこの街を火の海にしてしまったのだからな」
「……分かった。すぐに加勢へと向かう。それで、下手人は生かして捕らえた方がいいのか? それとも死体にして容保公に差し出して構わないのか?」
「出来れば生け捕りが望ましいだろうが、無理なら殺しても構わないそうだ。この状況なら情報を引き出すよりも被害者を増やさないことが重要だからな」
「もっともな意見だ。ではすぐに向かおう」
歳三は勇に頷いてから、すぐに踵を返した。
下手人がどこにいるかなど見当も付かないが、とりあえず血の匂いから追ってみることにした。