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もしかしなくても役立たずでは?

「………………」


 斑鳩は歳三がまとめた書類を全て読み終えて理解した後、難しい表情で畳の上に寝転がった。


「なんだかなぁ……」


 世界の危機が迫っているというのに、イマイチ実感が湧かない斑鳩だった。


 部屋の外から眺める庭は、平和そのものだ。


 隊士達が訓練をしていたり、勇が猫を追いかけていたり。


 のどかで、平穏で、平和だ。


 こんな中で世界の危機が迫っているなど、一体どれだけの人が信じるだろう。


「しかもあのまま組織にいたら、俺はそれに荷担していたってことになるなぁ」


 世界を壊す者。


 自分が知らないうちに、そんな大それたことをしてしまっていたかもしれないのだ。


「………………いや、違うか」


 きっとその時の自分は、大それたことをしているなんて思いもしないだろう。


 自覚していたとしても、記憶に残ったとしても、きっとどうでもいいと思っていたはずだ。


 それを憂うほどに大切なものなんて、何一つ持っていなかったのだから。


 世界がどうなろうと、そこに生きる他人がどうなろうと、気にかけたりしなかったはずだ。


「だけど今は違う」


 止めたいと思っている。


 そんなことにならなければいいと思っている。


 世界が大事なわけじゃない。


 そこに生きる他人が大事なわけでもない。


 ただ、彼女が守りたいと願うものを、自分も守りたいと思うだけだ。


「ああ……そうか……」



(俺、あいつらが大事なんだ)



 そんな簡単なことに、今更気付いてしまった斑鳩だった。


 居場所をくれた歳三。


 友達になってくれた烝。


 今まで生きてきた時間に較べれば、ほんの少しの関わりでしかない彼女たち。


 だけど、こんなにも大事だと思える。


 胸を張ってそう言える。


 そんな自分にわずかな驚きを感じながら、それでも口元が緩むのを止められない斑鳩だった。


「守るために、何をするべきか……」


 彼女たちを守りたい。


 その為に何かをしたい。


 だけど何をすればいいのかがまだ分からない。


「六刻を守るっていうのは前提条件としても、守ってばかりじゃ埒が明かないのも事実なんだよなぁ」


 響都火災のようなことを再び起こされる可能性もある。


 しかしあれだけの規模の事件を斑鳩だけで止めるのは不可能だ。


 それはあの組織に身を置いていた斑鳩自身がよく分かっている。


 彼らは優秀で、統率が取れている。指示系統も明確なので行動に迷いがない。


 だから事件を未然に防ぐのは難しい。


「…………戻って調べる……とか言ったらトシの奴怒りそうだしなぁ」


 あまり実感はないのだが、あの組織の中での斑鳩の立場というのは脱走者みたいなものだろう。戻れば制裁か、拘束か、再び精神操作が待っている可能性が高い。少なくとも歓迎されるとは斑鳩ですら思っていない。


「……というか、俺って本拠地がある場所知らねえや……」


 毎回精神操作を受けてから任務に臨んでいた斑鳩は、自分がどこから来てどこへ戻っているのかすら覚えていないのだった。


「うわあ……俺ってもしかしなくても……かなり役立たず……?」


 あまりの使えなさっぷりに、ほんのり自己嫌悪してしまう斑鳩だった。



 そんな感じで凹んでいると、


「あ、いたいた。よっ! 久し振りだな青年!」


 縁側から見覚えのない女性が声をかけてきた。


「………………誰?」


「………………」


 まったく覚えていなかったことにショックを受けたのか、女性は長い棒を持ったまま固まっていた。


 新撰組十番組長・原田左之助と芹沢斑鳩の、これが二度目の出会いだった。


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