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局長参上! 01

 斑鳩が新撰組に身を置くようになって、つまりは歳三の小姓としてこき使われたり教育されたりするようになって、ひと月が経とうとしていた。


 それだけの時間が経過したにもかかわらず、斑鳩は歳三と烝以外の人間とはほとんど関わりを持っていなかった。


 西本巌寺の敷地面積はかなり広いので、顔を合わせない人間は何か月も顔を合わせないこともざらだという。


 そして新撰組そのものがあまり組織内の馴れ合いを好まないせいでもあった。


 生粋の天牙の民である組長達はまだいいが、一般隊士に関しては金で雇われた傭兵のようなものなので、必要以上に干渉しないことが暗黙の了解のようになっている。


 歳三の小姓になった斑鳩の存在も、おそらくは組長達幹部以外には知られていないのではないだろうか。


 そんな閉鎖的な組織の中でも、斑鳩は特に不満なく仕事をこなしていた。


 閉鎖的というなら多分、自分が前に所属していた組織の方がまだひどいと思う。


 斑鳩自身は組織の正式名称すら知らないままだ。


 特に必要だと思ったことはないので気にしたことはなかったが、もしかすると上の人間からはあまり信用されてなかったのかもしれない、なんてことを考えてしまう。


「ま、いいけど」


 信頼が欲しかったわけではないし、と歳三から任された書類整理を続ける斑鳩。


 文字の読み書きもだいぶ慣れてきたので、雑用関連はほとんど斑鳩に任せるようになった歳三である。


 それでもまるで休む暇がないように見えるのだから、一体どれだけ仕事をしているのだと心配になったりもするのだが。


「俺がもうちょっと役立つようになれれば、トシの奴を楽にしてやれるだろうし」


 などと、結構献身的な小姓を目指していたりするのだから、凄まじい心境の変化と言えた。


 かつての虚無的な自分からは考えられない。


 そんな変化に戸惑いつつも、もっと変わりたいと思うようになっている。


 そんな風に考えていると、障子が開けられた。


「………………」


 開けられた障子の向こうには、陽気そうな女性が立っていた。


 ボンッキュッボンッな悩殺ボディの女性で、何だか姐さんと呼びたくなるような人だった。


「あれ? トシはいないのか」


 どうやら女性は歳三に用があったらしい。


「土方さんなら今は所用で出てますけど」


 一応小姓という立場はわきまえているので、トシという呼び名ではなく土方さんという敬称を使う。


 ちなみにどんな用なのかは知らされていない。


「君は……ああ、君がトシの小姓になったっていう斑鳩君か」


「ええ、まあ」


「そうかそうか。トシの奴がなかなか紹介したがらないからどんな癖のある奴なのかと思っていたが、なかなかどうして素直そうな男じゃないか」


「ど、どうも……」


 豪快に笑う女性を前に、斑鳩は若干たじろぐ。


「自己紹介が遅れたな。私は近藤勇。新撰組局長だ」


「きょ、局長ですか……」


 つまり新撰組で一番偉い人ということだ。


 そんな人がいち小姓である斑鳩の肩をばんばん叩きながら豪快に笑っているのだから、どう対応していいのか分からない。


「近藤局長……でいいですか?」


「いやいや。堅苦しいのは嫌いでね。どうせなら『いさみん』とでも呼んでくれると嬉しいな。いかるん」


「い、『いさみん』ですか……」


 それよりも『いかるん』は勘弁して欲しい。


「さすがにそれはちょっと……『勇さん』あたりで勘弁してください」


「駄目?」


「だ、駄目です……」


 呼んで欲しいのかよ!


 とツッコみたい衝動を抑えつつ、斑鳩は苦笑いで返す。


「そうだそうだ。トシにこれを渡しておいて欲しいんだけど、頼めるかな?」


「はあ……何ですかこれ」


 斑鳩は筒状にまかれた書状を受け取る。


「松平容保公からの密書だよ。私も一応目を通したが、正式な返事はトシに任せているからな」


「え……? そういうのって局長の仕事ではないんですか……?」


 新撰組を庇護している容保公からの密書。


 目を通すだけならまだしも、正式な返事なら局長である近藤勇の名前でするべきだ。


 少なくとも斑鳩の常識ではそうなっているのだが。


「あ、いや……その……私はお飾りの局長だからな……」


 そう言うと勇は気まずそうに頭をかいた。


「お飾り……ですか?」


「ああ。私が局長の座にいるのは、単に成り行きだ。元々響都の街で試衛館という道場を開いていてね。新撰組の初期メンバーがそこから集められたから、道場主だった私が局長を務めることになった。本来は実力的にも人望的にも、トシの方が局長にふさわしい」


「………………」


「容保公もそれが分かっているから、私よりもトシの名前で返されることを望んでいるしね」


「………………」


 自嘲が過ぎる勇の言葉に斑鳩が気まずくなっていると、


「ああ、すまない。君にこんなことを言っても仕方がないな。別にトシを妬んでいる訳ではないんだ。ただ、自分たちの身を守るためには、彼女に重荷を背負わせるしかない自分が腹立たしい、というか」


「……勇さんにしか出来ないこともあるでしょう? だったらまずはそれを全力でやればいいんじゃないですか? それが結果的にトシを……じゃなくてえっと、土方さんを助ける事になると思いますよ」


「いかるん……」


「いかるんはやめてください」


 勇は感動したように胸を押さえた後、なんと、斑鳩に飛びついた。


「うわあっ!?」


「ああもう! いい奴だなあ! トシじゃなくて私の小姓になる気はないかい!?」


「ないないないない! ないですから離れてください!」


 ぎゅう~っと抱きついてくる勇に対して、斑鳩は胸の感触を考えないようにするだけで手一杯だった。


 いや、胸の感触はなかなかのものだけれど……そこを考慮すると理性がいろいろとやばいことになりそうなのでやっぱり自制。


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