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教育係は照れ屋隠密! 01

 響都守護職・新撰組。


 天牙の民を中心に結成された響都の警護集団。


 響都領主松平容保まつだいらかたもりの庇護のもと、響都の守護職を任されている。


 少数精鋭ながらも人間よりもはるかに身体能力が高いため、容保公からはそこそこ重宝されている。


 主な仕事は響都の見回りと、犯罪者の取り締まりなど。


「……というのが、新撰組の大まかな成り立ちだ。分かったか?」


 歳三は執務机について書類整理をしながら、自らの小姓にしたばかりの斑鳩へと教育兼確認の問いかけをする。


「さっぱりだな」


 シュン!


 短刀が斑鳩の首筋をかすめる。


「……!」


 避けなければ絶対に刺さっていた。


「あ、あんたなあ! 俺を殺す気か!? 今のは俺じゃなかったら死んでいたぞ!」


 だらだらと冷や汗を流しながら歳三へと抗議する斑鳩。


「で、分かったのか?」


 歳三は斑鳩の抗議などどこ吹く風で、二本目の短剣を構える。下手な返事をしようものなら、再び斑鳩の首筋へと飛んでくることは間違いない。


「は、はひ! わ、分かりましたであります隊長っ!」


 恐怖のあまり言葉遣いがおかしくなっている斑鳩であった。


「隊長ではなく副長だ、私は」


「イエッサー副長閣下!」


「なんだそれは」


 おかしな態度をとり続ける斑鳩に若干頭を抱えながら、歳三は書類仕事を進める。


 先日の響都火災の件といい、斑鳩の隠蔽の件といい、やる事が山積みなのである。


「なんか忙しそうだなあ」


 次々と書類を片付けていく歳三を見て、斑鳩は感心したように言う。


「半分以上はお前たちの所為なんだがな」


 響都火災は斑鳩の所属していた組織の仕業であるし、斑鳩の隠蔽に関しても、色々と厄介な事情が付きまとっている。


「まあその内お前にも手伝ってもらうさ」


「無理」


「………………」


 懐に手を入れる歳三。その手にはもちろん短刀が握られている。


「わーっ! 待った待った! 俺は字が読めないんだってば!」


「……なるほど。確かにそれなら無理だな」


 懐から手を出す歳三。その手には短刀は握られていない。


 斑鳩にとっては心臓に悪いことこの上ない仕草だった。


「はあ~……。あのさ、そうやってすぐに脅迫するのやめてくれよ。怖いし」


「脅迫ではなく調教だ」


「こんな死亡フラグ満載な調教があってたまるか! 組織の戦闘訓練だってまだマシだったぞ!」


「ではまず字を覚えることから始めるか」


「……拒否したら、また刃物を飛ばすつもりだろ?」


「さてね。斑鳩次第だな」


「分かりました。覚えます。謹んで覚えさせていただきますとも!」


 再び刃物を飛ばされてはたまらないので、斑鳩は両手を上げて降参の意思を示した。


 監視名目とはいえ一応は歳三の小姓なのだ。


 仕事もせずにただ飯を食らうだけというのは、さすがに居心地が悪い。


「ふむ。とは言え私が一から教える余裕はなさそうだな」


 自分の執務机に積み上がった書類の山を見つめながら、歳三は肩を竦める。


 そして天井に視線を移し、


すすむ


 と、呼んだ。


 すると天井裏から、


「はぁい。何かご用ですかぁ?」


 と、ゆるそうな少女の声が聞こえてきた。


「いっ!?」


 その声に、斑鳩がびくっとなる。


 慌てて天井裏に意識を集中させるが、やはり気配は感じない。


 確かにそこにいるはずなのに。


 暗殺を生業とする組織に身を置いている以上、気配を悟ることは本能以上のものとして身に付けているはずの斑鳩が、声を聴いた上で気配を感知できない。


 その事実に、斑鳩が驚愕する。


「やはりそこにいたか」


 呼びかけた歳三すらも、彼女がそこにいる確信を持って呼びかけたわけではないようだ。


「悪いが斑鳩に字を教えてやってくれないか? こんなところで覗きをしているあたり、結構暇なんだろう?」


「トシさま酷いですぅ。ようやくさっき仕事を終えて憩いの場(天井裏)でくつろいでいたのにぃ」


天井裏そこは烝の憩いの場ではないんだがな。たまにはみんなと食事でもしたらどうだ?」


「そ、そんなぁ。恥ずかしいですよぅ」


「……誰?」


 会話に付いていけない斑鳩が、天井裏に視線を向けながら歳三に問いかける。


「紹介しよう。監察方の山崎烝やまざきすすむだ」


「いや、紹介って、姿見えないんだけど……」


「烝は人前に出るのを極端に嫌うからな。こうやっていつの間にか天井裏に潜んでいたりするんだ」


「……なるほど。でもすげえな。俺でも気配が掴めない」


「ああ。隠身にかけては恐らく世界一だ。本気で隠れたら誰にも存在を悟らせないでいられる」


「へえ。監察方としては重宝されてそうだな」


「というより、監察方としてしか使えないだけだがな」


「あううっ!」


 素直に感心している斑鳩に対して、歳三は容赦ない意見で返す。そして烝は天井裏で涙目になる。


「腕は悪くないから表向きに活動させても良かったんだが、本人はこの通り、隠れたまま人前には出て来ない。仕方ないから隠れたままでも支障のない仕事の方に回したんだ。まったく、気配もキャラも薄い奴だから扱いづらくて敵わん」


「あううううううう……!! ごめんなさいぃぃぃ……」


「いや……もうその辺で勘弁してやれよ……」


 天井裏ですすり泣く声を聴いた斑鳩は、歳三のあまりの言い様に同情した。


「ほら、烝。仕事だ。出てこい」


「は、恥ずかしいから嫌ですよぅ……。斑鳩さんには天井越しでお教えしますから勘弁してくださいよぅ」


「えー……それはちょっとなー……」


 天井越しに教師を置いての授業って、なんか微妙。


「………………」


 しかし歳三の方は烝の言い分など聞く気はないらしく、立ち上がって腰の刀を抜いた。


「え? え? ちょっと、何する気だあんた!?」


「ひゃわわわわ~~~!! ま、待って待って待ってトシさま待ってぇ~~~~っっ!!」


 勿論、歳三は待ったりしない。そのまま天井に剣を走らせ、烝が隠れている天井裏ごと畳の上に落下させた。


「ひゃうんっ!」


 天井板と一緒に落ちてきたのは、斑鳩の組織とよく似た黒装束に身を包んだ少女だった。何となく忍者っぽい感じだ。


 長い黒髪を二つに束ねて左右に揺らしている。


 気弱そうな垂れ目は、やはり涙でにじんでいた。


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