水江の浦島の子〜竜宮城なんてなかったのだが?〜
昔々はるか昔、水江という地に浦島の子と呼ばれる青年がおりました。
その青年は先祖代々漁師の家で、青年は空模様と波の様子を見て船で漁に出ていました。
浦島の子の釣った魚は鮮度が高く高級料亭や豪族に納められていました。
浦島の子は魚を釣ると、細くて長い針を魚の背骨に刺して動けなくして船の水槽に入れて船で運んでいました。
その魚は動けないけど生きている状態で、さばいて刺身にするとそれはそれは新鮮で上流階級の人々に大変評価されていました。
浦島の子は星読みの才があり、漁に出て潮の流れに流されても必ず港に帰って来ました。
浦島の子はこう言います。
「北極星さえ見えれば俺は迷わない」と。
ある日のこと海風が強く波が高いので、浦島の子は漁に出るのをあきらめて砂浜を散歩していました。いつも浦島の子は思っていました。
「あの海の向こうには何があるんだろうか?」
そしていつかあの水平線の彼方へ旅をしてみたいと思うようになりました。
するとどうでしょう。
砂浜に人が倒れています。
浦島の子は倒れている人に駆け寄りました。
「息をしていないじゃないか!」
浦島の子は倒れている人を仰向けに寝かしました。
「これは何という美しい娘だ!助けないといけない!」
浦島の子はその娘の頭を持ち上げて降ろし気道確保して鼻をつまんで口から息を吹き入れました。
数回息を吹き入れると仰向けの娘にまたがり、胸の下の辺りを両手で抑えてどん!どん!と数十回押しました。
そして娘の鼻をつまんで息を吹き入れます。
何度かこれを繰り返していると、その美しい娘はゲホゲホと水を口から吐き出しました。
でも意識は戻りません。
浦島の子は娘が自発呼吸をしているのを確認すると、自分の家へと抱えて連れて帰りました。
浦島の子は名漁師なので、それはそれは立派な家に住んでいました。浦島の子はどんなに不漁の年でもその腕前で大漁なので、困った村人たちを助けてあげていました。
ですので浦島の子は人望も厚く人々は浦島天神さまと呼ぶようになっていました。
浦島の子は美しい娘の着物を脱がし身体を拭き清めて、新しい着物を着せて寝床に寝かしました。
美しい娘の身体は冷え切っていたので、浦島の子は全裸になり娘の布団に入り抱きしめて温め続けました。
浦島の子はうつらうつらとし始めて気がついたらぐっすりと眠っていました。
翌朝浦島の子が目を覚ますと抱きしめて温め続けていた娘の姿がありません。
「おやおや。昨日のあれは夢だったのか?」
すると台所の方からトントントンと包丁の音が聞こえるではありませんか。
浦島の子はそーっと台所をのぞくと、あの美しい娘が何かを作っているようです。
「おはよう!もう身体は大丈夫なのかい?」
「きゃ!」
美しい娘は大変驚いた声を出しました。
そして。
「すみません!朝食の用意をしようと勝手に台所をお借りしています!」
「いや、かまわんさ」
浦島の子は居間へ行き座って朝食を待ちました。
「お待たせしました」
「ありがとう。これは美味そうな飯だね」
二人は手を合わせていただきますと言い、黙々と朝食を食べました。
「ごちそうさまでした」
浦島の子は満足気な顔でニッコリと笑いました。
「あの…。助けて頂いて本当にありがとうございました」
美しい娘は三つ指ついて浦島の子に頭を下げました。
「いや、かまわんよ。ところで名はなんと申す?」
「亀姫です」
「そうか!わしは浦島の子と呼ばれている」
「このご恩一生をかけてお返しします」
「まあ、そう気をはらなくていいさ。いつまでもゆっくりしていけばいい」
そして翌日浦島の子は自分の造船所を見に行った。
そこでは大勢の船大工が大きな帆船を作っていた。
浦島の子はある一人の男に声をかけた。
「あの仕掛けは上手くいってるかい?」
「浦島さん完璧ですよ!」
その男は独田中松という発明家だった。
「浦島さまお茶をお持ちしました」
村娘のお鶴が声をかける。
「お鶴いつもありがとうな」
「浦島さまのおかげであたし達は生きてるようなものなんですからお礼なんてやめてくださいな」
そしてお鶴は頬を赤らめてその場を立ち去った。
しばらく船大工の棟梁や独田中松と打ち合わせをすると浦島の子は自分の船に乗り漁に出て行った。
巡業に来ているある力士が今日優勝すると二匹の大きな鯛が必要だと興行主から依頼を受けていたからだ。
浦島の子は狙った漁場で釣りをする。
それは見事なもので、あっという間に大きな大きな鯛を二匹釣りあげて港に戻るのであった。
興行主は大喜びである。
浦島の子は家へ帰ると亀姫が夕食の支度をしていた。
浦島の子は晩酌でちびちびと酒を飲みながら、亀姫の作った料理に舌鼓をうつのであった。
こうして半年ほど二人は仲睦まじい暮らしを送るのであった。
そしてその日はやって来た。
大きな大きな帆船の完成である。
見事な朱塗りで仕上げられた船体に金箔の貼られた帆柱が見事に調和している船体の要所要所に金属が使われていて頑丈な仕上がりだ。
浦島の子は棟梁と独田中松に選抜された船員を紹介された。
亀姫、お鶴、お松、お梅、お滝、お幸、お福…。
なんと全員美しい娘たちばかりだった。
「おいおい!娘しかいないじゃないか!?」
「浦島さま全員嫁にもらってくだされ!」
「え!?」
亀姫以外の娘たちの父も母も深々と頭を下げる。
「ありがたくもらわせてもらうよ」
浦島の子はキッパリと言い放った。
「さて浦島さま。この船に名を付けてくだされ」
棟梁が言った。
しばらく考え込む浦島の子。
「龍…。竜…。竜宮丸でどうだい?」
「よし!決まりだ!竜宮丸だ!」
翌日の朝造船所へ行くと黄金色に輝く文字でデカデカと竜宮丸と記されていた。
浦島の子は棟梁にたずねる。
「これは見事な金箔だな」
「浦島さま。これは黄金です」
「え!?本物なの?予算大丈夫なの?」
「ここの村人だけでねえ、近隣の村という村を困窮から救い続けてくださった浦島さまにはこれくらいのことはさせてください」
「みんなありがとよ」
翌日進水式が行われ、そして試運転が行われた。
テキパキと働く娘たち。
洋上の少し沖合へ行くと浦島の子は号令をかけた。
「帆を下げろ!」
「はい!」
「扇海機起動!」
「扇海機起動ヨーソロー!」
竜宮丸の機関室で石炭が燃やされ蒸気が噴き出し始めた。
お福が号令をかける。
「パワーホイール接続!」
「パワーホイール接続完了!」
お幸が満面の笑みで応える!!
船体の後ろからグン!と押し上げるような推進力を感じ浦島の子は満面の笑みを浮かべる。
様々な天候の日に操縦訓練は繰り返され半年が過ぎた頃に、水や食料、薬品、石炭などが竜宮丸に積み込まれた。
「じゃあみんな行ってくる!!」
浦島の子はそこら中の村々から集まって来た村人達に声をかける。
船上で亀姫がテープを投げると他の娘たちも五色のテープを投げた。
泣き崩れる村人達。
浦島の子は港が見えなくなっても手を振る村人達だけは見えていた。
浦島の子たちは二度と港には戻ることがなかった。
「大丈夫。北極星さえ見えていれば浦島さまは海の上で迷うことはないさ」
浦島の子を慕う人々が浦島の子の無事と村々へ尽くしてくれたことを忘れないように。
お社が北極星の真下に来るように浦島の子を祀る神社を建てたのはそれから少し経ってからのこと。
そしてその神社は今でも大切にされているということだ。
水江の浦島の子の伝説は形を変え永遠に語り継がれるのであった。




