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オフライン  作者: 悠羽
7/7

最終話 ログアウト

待ち合わせの場所に、彼はもう来ていた。


 スマホを片手に、

 人の流れをぼんやり眺めている。


 画面を覗くと、

 フレンド欄は——オフライン。


 分かっている。

 今は、誰もログインしていない。


 それでも、

 この表示を見ると、少しだけ不思議な気分になる。



「久しぶり」


「うん。久しぶり」


 声を聞いた瞬間、

 昨日までのVCが、

 一気に現実へと引き戻された。


 ヘッドセット越しの声。

 画面の向こうの声。


 でも今は、

 風の音と、街のざわめきに混じる、

 生の声。



「不思議だよね」


 歩きながら、彼が言った。


「声で分かったのに、

 それでも、ちゃんと会うまで

 実感なかった」


 私は、少し考えてから頷く。


「ログインしてない時間の方が、

 考えてた気がする」



 カフェに入る。


 向かい合って座ると、

 自然と、笑ってしまった。


 最悪な出会いだったはずなのに。

 野良で喧嘩して、

 言葉をぶつけ合って、

 無言で終わった夜。


 そこから、

 ここまで来るなんて。



「ね」


 彼が、少しだけ照れたように言う。


「最初、

 お互いオフラインだったよね」


 その言葉に、

 胸の奥が、静かに温かくなる。


「うん。

 だから、良かったのかも」


「どういう意味?」



「オンラインだと、

 どうしても急いじゃうから」


 勝ちたい。

 分かってほしい。

 伝えたい。


「オフラインだったから、

 ちゃんと、順番を守れた気がする」


 彼は、少し考えてから、笑った。



「じゃあさ」


 テーブルの上に、

 彼がスマホを置く。


 フレンド欄を開く。


 ——オフライン。



「これからは?」


 その問いに、

 私は、迷わなかった。


「一緒に、ログインしよう」


 彼は、少し驚いてから、

 ゆっくり頷いた。



 帰り道。


 並んで歩きながら、

 思う。


 オフラインだった時間があったから、

 オンラインになれた。


 繋がらない時間があったから、

 ちゃんと、繋がれた。



 スマホが震える。


フレンドがオンラインになりました


 隣を見ると、

 彼が、少し照れたように画面を見ている。


 私は、笑った。



 ——オフライン。


 それは、

 孤独の表示じゃない。


 誰かと出会うために、

 一度、立ち止まる場所。



 私の一日は、

 ログインから始まる。


 でも今は、

 ログアウトの時間も、

 大切にできる気がした。




この物語では、

「オフライン」という言葉を、

ただの状態表示としてではなく、

人と人との距離として描いてきました。


すぐに繋がれる時代だからこそ、

あえて繋がらない時間や、

声を聞かない選択にも、

意味があるのかもしれません。


二人が選んだ「オフライン」は、

遠ざかるためではなく、

大切に近づくための距離でした。


この物語をどんなふうに受け取ったかは、

読んでくれたあなた次第です。


最後まで読み進めてくださり、

本当にありがとうございました。


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