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オフライン  作者: 悠羽
6/7

第六話 声を、繋ぐ

その日は、ログインする前から落ち着かなかった。


 理由は、分かっている。

 分かっているから、余計に。



 メイン垢でログインする。

 フレンド欄。


 ——オンライン。


 彼の名前が、そこにあった。


今日も、いける?


いけるよ


 短い言葉。

 でも、指先が少し冷たい。



 数試合、

 いつも通りVCなしでプレイした。


 噛み合う。

 判断が早い。

 でも、どこか足りない。


 言葉が、

 チャットの行間に溜まっていく。


さっきの判断、惜しかった


うん

もう一拍、だった


 その「一拍」が、

 喉の奥に残る。



 試合と試合の間。


 私は、

 キーボードから手を離した。


VC、繋ぐ?


 送信してから、

 一拍遅れて、心臓が鳴る。


 少し、間が空く。


……いいよ


 三点リーダが、

 そのまま沈黙みたいだった。



 通話接続中。


 ヘッドセットの向こうで、

 小さなノイズだけが流れる。


 誰も、急いで言葉を探さない。



「……聞こえる?」


 低くて、

 少し慎重な声。


 それだけで、

 全部が繋がった。


 知っている声だった。


 笑うときの、

 少し息が混じる感じ。


 考えるときの、

 間の取り方。


 現実で、

 何度も聞いた声。



「……聞こえてる」


 自分の声が、

 思ったより落ち着いていたのが、

 少し意外だった。



 一瞬の沈黙。


 でも、

 言わなくても、分かってしまった。


「……やっぱり、そうだよね」


 彼の声は、

 驚きでも、責めでもなかった。


 確認するような、

 静かな声。


「うん」


 それだけで、十分だった。



 試合は続いた。


 でも、

 さっきまでとは、明らかに違う。


「今、引こう」


「了解」


 声があるだけで、

 判断が、自然と揃う。


 余計な感情が、

 音もなく引いていく。



 勝った。


 でも、

 それ以上に。



 試合後。


 VCは、まだ繋がったまま。


 誰も、すぐには切らなかった。


「……あのさ」


 彼が、少しだけ笑う。


「最初に野良で喧嘩したの、

 覚えてる?」


 やっぱり、

 そこに戻る。



「覚えてる」


 逃げなかった。


「ごめん。

 あのとき、余裕なかった」


「私も。

 言い方、きつかった」


 短い沈黙。


 でも、

 嫌な間じゃない。



「今の方が、

 ずっとやりやすい」


 その言葉に、

 私は、思わず笑った。


「同じこと、思ってた」



 通話を切ったあと、

 フレンド欄を見る。


 ——オフライン。


 でも。


 さっきまでの「オフライン」とは、

 意味が違った。


 もう、

 切れていない。



 同じ夜。

 別々の部屋。


 同じ声を、

 知ってしまった。


 オンラインと、オフライン。


 その境目は、

 静かに溶けていた。


次回最終話:ログアウト

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