第六話 声を、繋ぐ
その日は、ログインする前から落ち着かなかった。
理由は、分かっている。
分かっているから、余計に。
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メイン垢でログインする。
フレンド欄。
——オンライン。
彼の名前が、そこにあった。
今日も、いける?
いけるよ
短い言葉。
でも、指先が少し冷たい。
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数試合、
いつも通りVCなしでプレイした。
噛み合う。
判断が早い。
でも、どこか足りない。
言葉が、
チャットの行間に溜まっていく。
さっきの判断、惜しかった
うん
もう一拍、だった
その「一拍」が、
喉の奥に残る。
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試合と試合の間。
私は、
キーボードから手を離した。
VC、繋ぐ?
送信してから、
一拍遅れて、心臓が鳴る。
少し、間が空く。
……いいよ
三点リーダが、
そのまま沈黙みたいだった。
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通話接続中。
ヘッドセットの向こうで、
小さなノイズだけが流れる。
誰も、急いで言葉を探さない。
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「……聞こえる?」
低くて、
少し慎重な声。
それだけで、
全部が繋がった。
知っている声だった。
笑うときの、
少し息が混じる感じ。
考えるときの、
間の取り方。
現実で、
何度も聞いた声。
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「……聞こえてる」
自分の声が、
思ったより落ち着いていたのが、
少し意外だった。
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一瞬の沈黙。
でも、
言わなくても、分かってしまった。
「……やっぱり、そうだよね」
彼の声は、
驚きでも、責めでもなかった。
確認するような、
静かな声。
「うん」
それだけで、十分だった。
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試合は続いた。
でも、
さっきまでとは、明らかに違う。
「今、引こう」
「了解」
声があるだけで、
判断が、自然と揃う。
余計な感情が、
音もなく引いていく。
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勝った。
でも、
それ以上に。
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試合後。
VCは、まだ繋がったまま。
誰も、すぐには切らなかった。
「……あのさ」
彼が、少しだけ笑う。
「最初に野良で喧嘩したの、
覚えてる?」
やっぱり、
そこに戻る。
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「覚えてる」
逃げなかった。
「ごめん。
あのとき、余裕なかった」
「私も。
言い方、きつかった」
短い沈黙。
でも、
嫌な間じゃない。
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「今の方が、
ずっとやりやすい」
その言葉に、
私は、思わず笑った。
「同じこと、思ってた」
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通話を切ったあと、
フレンド欄を見る。
——オフライン。
でも。
さっきまでの「オフライン」とは、
意味が違った。
もう、
切れていない。
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同じ夜。
別々の部屋。
同じ声を、
知ってしまった。
オンラインと、オフライン。
その境目は、
静かに溶けていた。
次回最終話:ログアウト




