第五話 同じなのは、プレイだけじゃない。
負けた瞬間、
ほとんど反射で、指が動いた。
今の、欲張りすぎた
送信してから、
一拍遅れて、別の文字が現れる。
欲張ったな
一回、引くべきだった
画面を見つめたまま、
私は、動けなくなった。
——言い方まで、同じ。
⸻
最近、
勝ち負けよりも、
気になることが増えている。
ミスの仕方。
反省の向け方。
そして、
言葉が出てくる速さ。
焦ると、判断早くなるよね
なる
だいたい、そこで失敗する
思わず、
息が抜けた。
笑ったのか、
困ったのか、
自分でも分からない。
⸻
数試合続けて、
似た場面で、似たように負ける。
そのたびに、
同じような言葉を選んでいる自分に気づく。
ここ、無理しなくてよかったかも
うん
一回、落ち着けばよかった
——前にも、
こんなやり取りをした。
そう思った瞬間、
胸の奥が、わずかに重くなる。
⸻
あの夜。
野良で組んだ、
後味の悪い一戦。
空気が荒れて、
言葉が尖って、
最後は、何も残らなかった試合。
前出すぎ
もう一拍、待てばよかっただろ
確かに、
同じことを言っていた。
同じ判断で。
同じ苛立ちで。
⸻
でも、
今は違う。
責め合わない。
逃げない。
ちゃんと、
次を考えている。
それが、
余計に、否定を難しくする。
⸻
少し、休憩する?
うん
頭、冷やそう
その一文に、
胸の奥が、静かに沈んだ。
確認すれば、
楽になるかもしれない。
でも、
確かめた瞬間に、
今の関係が壊れる気もした。
⸻
彼がログアウトする。
フレンド欄。
——オフライン。
最近、
この表示を見ると、
安心と不安が、同時に来る。
知らないままでいられる時間。
でも、
知らないままではいられない感覚。
⸻
私は、
もう分かっている。
偶然じゃない。
でも、
まだ言葉にはしない。
⸻
――彼視点
彼女のメッセージを見て、
俺は、視線を落とした。
欲張りすぎた
——それだ。
あの夜、
自分が言った言葉と、同じだった。
⸻
喧嘩で終わった、
あの野良。
感情が先に出て、
言葉が鋭くなって、
最後は、切るように終わった一戦。
今、彼女とやっているのは、
その続きみたいで、
でも、まったく違う。
⸻
同じ判断。
同じ反省。
同じ言葉。
それなのに、
空気は、穏やかだ。
だからこそ、
否定できない。
⸻
少し、休憩する?
その提案に、
救われた気がした。
今、確かめたら、
全部が繋がってしまう。
繋がったら、
もう戻れない。
⸻
ログアウトして、
フレンド欄を見る。
彼女は、まだオンライン。
少し時間を置いて、
もう一度ログインする。
——オフライン。
それを見て、
胸の奥が、静かにざわついた。
⸻
否定できないところまで、
来てしまっている。
でも、
今日は、踏み込まない。
⸻
同じ夜。
別々の部屋。
同じ言葉。
同じ間。
同じ後悔。
偶然では片づけられない一致が、
二人の間に、
静かに積み重なっていく。
——オフライン。
この距離は、
もう、安全じゃない。
第6話:声を、繋ぐ




