第四話 同じミスは、偶然じゃない
負けた理由は、分かっていた。
焦った判断。
一歩、前に出すぎたこと。
カバーが、間に合わなかった。
リザルト画面を眺めながら、
私は、短く息を吐いた。
ごめん
今の、私の判断ミス
少し間があって、
返事が届く。
俺も前出すぎた
次は引こう
その一文に、
指が止まった。
——同じことを、考えていた。
⸻
デュオでのプレイは、
もう何度か重ねている。
VCは繋がない。
テキストだけ。
それでも、
噛み合う試合が多かった。
噛み合わないときも、
原因は、だいたい同じだ。
⸻
同じ場面で、前に出る。
同じ場面で、引けなくなる。
ミスの形が、
少しずつ、重なっていく。
——あれ。
胸の奥に、
また、あの感覚が残る。
⸻
考えすぎだ。
そう言い聞かせても、
否定する理由が、
少しずつ減っている気がした。
⸻
ふと、
思い出す。
野良で組んだ、
最悪な試合。
空気が荒れて、
言葉が尖って、
最後は、無言で終わった一戦。
名前も、アイコンも、
覚えていない。
でも。
あのときも、
同じタイミングで前に出た。
同じところで、
判断を誤った。
⸻
——似てる。
心の中で呟いて、
すぐに打ち消す。
まだ、決めつける材料はない。
……本当に?
⸻
次、どうする?
もう一戦いける?
いけるよ
キーボードを叩く指が、
ほんの少し、慎重になる。
⸻
次の試合。
今度は、
前に出るのを、一拍遅らせた。
すると、
彼も、同じように引いた。
勝利。
ナイス判断
そっちこそ
画面を見つめながら、
胸の奥に、静かなざわめきが残る。
偶然、ではない。
でも、
確信には、まだ届かない。
⸻
数試合して、
彼がログアウトした。
フレンド欄。
——オフライン。
最近、
この表示を見るたび、
少しだけ、考えてしまう。
⸻
名前じゃない。
アイコンでもない。
判断。
間。
癖。
そういうものが、
人を覚えさせる。
私は、
その事実に、
気づき始めていた。
⸻
――彼視点
リザルトを見て、
俺は、眉をひそめた。
前に出すぎた。
判断が、早すぎた。
俺も前出すぎた
次は引こう
送信してから、
胸の奥に、
小さな引っかかりが残る。
⸻
彼女とプレイしていると、
失敗の形が、
やけに似ている。
良い意味でも、
悪い意味でも。
⸻
思い出すのは、
あの夜の野良。
喧嘩で終わった、
後味の悪い一戦。
名前は、思い出せない。
でも、
前に出すぎて、
引けなくなったあの感じだけは、
鮮明だ。
⸻
似ている、気がする。
でも、
まだ結びつけるのは早い。
そう言い聞かせるほど、
違和感は、形を持ち始めていた。
⸻
次の試合。
前に出るのを、
ほんの少し、我慢する。
彼女も、
同じタイミングで引いた。
勝利。
ナイス判断
そっちこそ
そのやり取りに、
安堵と、
小さな不安が、同時に残る。
⸻
ログアウトして、
フレンド欄を見る。
彼女は、まだオンライン。
少し時間を置いて、
もう一度ログインする。
——オフライン。
それを見て、
なぜか、ほっとした。
⸻
もし、
ここで確かめてしまったら。
今の関係は、
簡単に形を変えてしまう。
⸻
同じ夜。
別々の部屋。
同じミス。
同じ修正。
同じ勝ち方。
偶然では済まされない一致が、
二人の間に、
静かに積み重なっていく。
——オフライン。
この距離は、
少しずつ、
不安定になり始めていた。
第5話:同じなのは、プレイだけじゃない。




