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オフライン  作者: 悠羽
3/7

第三話 ボイスチャットは繋がない

その日は、最初から少し落ち着かなかった。


 理由は分からない。

 ただ、昨日までとは違う夜だった。



 パソコンの電源を入れる。

 メイン垢でログインする。


 フレンド欄を開くと、

 彼の名前があった。


 ——オンライン。


 それだけで、

 胸の奥が、わずかに反応した。



今からできる?


できるよ


 短く返して、

 キーボードに手を置く。


VCはなしでもいい?


 送信してから、

 一拍だけ、指が止まった。



 メイン垢では、基本的にボイスチャットは使わない。

 それは、前から決めていることだ。


 彼の前で見せている私と、

 ゲームの中の私は、少し違う。


 今日は、まだ重ねたくなかった。



大丈夫

テキストでやろう


 返事を見て、

 小さく息を吐いた。



 デュオでのマッチ。

 静かな試合だった。


A行く

カバーする

了解


 必要な言葉だけが、

 チャットに流れる。


 それなのに、

 不思議と、やりやすい。



 前に出る判断。

 引くタイミング。

 無理をしない立ち回り。


 動きが、噛み合っている。


 ——あれ。


 胸の奥に、

 小さな引っかかりが残る。


 でも、

 すぐに首を振った。


 考えすぎだ。



 勝利。


ナイス


ありがとう


 短いやり取り。

 でも、それで十分だった。



 二戦目。

 三戦目。


 負けた試合もあった。


次、気をつけよう


うん


 責め合わない。

 言葉が、荒れない。


 それが、

 少しだけ、嬉しかった。



 数試合して、

 彼がログアウトした。


 フレンド欄。


 ——オフライン。


 さっきまで一緒に戦っていたのに、

 画面の向こうには、もういない。



 オフライン。


 ただの表示のはずなのに、

 視線が、自然とそこに留まる。


 一緒に戦った感覚だけが、

 静かに残っていた。



――彼視点


 申請が届いたとき、

 少しだけ驚いた。


 昨日は、送ってこなかったからだ。


 承認する。


 フレンド欄に、

 彼女の名前。


 ——オンライン。



VCはなしでもいい?


 その一文に、

 変な安心感を覚えた。


 俺も、

 メイン垢では基本VCを使わない。


 声を繋ぐと、

 判断より感情が先に出る。


 今日は、それでいいと思った。



 デュオは、静かだった。


 でも、

 驚くほど噛み合う。


 前に出るとき。

 引くとき。


 判断の“間”が、似ている。


 ——似てる。


 そう思って、

 すぐに考えるのをやめた。


 まだ、始まったばかりだ。



 数試合して、ログアウトする。


 フレンド欄。


 彼女は、まだオンライン。


 少し迷って、

 電源を落とした。



 しばらくして、

 もう一度ログインする。


 ——オフライン。


 それを見て、

 なぜか、切れた感じがしなかった。



 同じ夜。

 別々の部屋。


 オンラインと、オフライン。


 繋がっていない時間の方が、

 相手を意識してしまう。


 ——オフライン。


 この距離は、

 まだ、悪くなかった。


第4話:同じミスは、偶然じゃない


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