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オフライン  作者: 悠羽
2/7

第二話 今日は、送らない

フレンド欄を開いて、

 私は何もせずに閉じた。


 もう一度、開く。

 また、閉じる。



 彼のIDは、もう知っている。


 入力するだけで、

 フレンド申請は送れる。


 送ればいい。

 それだけのことだ。



 なのに、

 指が動かなかった。



 理由が、はっきりしない。


 怖いわけでもない。

 嫌な予感がするわけでもない。


 ただ、

 胸の奥に、消えきらない感覚があった。



 野良で組んだ、

 最悪な試合。


 名前も、アイコンも、

 もう思い出せない。


 でも、

 あの空気だけは、

 妙に鮮明だ。


 言葉が荒れて、

 判断が噛み合わなくなって、

 最後は、無言で終わった。


 あれは、

 ただの野良だったはずなのに。



 ——考えすぎ。


 そう言い聞かせても、

 指先の違和感は消えなかった。



 スマホが震える。


今度、一緒にゲームしない?


 画面を見つめて、

 息をひとつ吸う。


 断る理由は、どこにもない。


いいよ


 短く返して、

 スマホを伏せた。



 フレンド欄を、もう一度開く。


 彼の名前は、まだそこにない。


 それでいい。



 フレンド申請のボタンから、

 そっと視線を外す。


 ゲームの中の私は、

 まだ彼に見せたくなかった。


 オフラインで会った彼と、

 オンラインで繋がるのは、

 もう少し先でいい。



 今日は、送らない。



――彼視点


 彼女からの返事を読んで、

 俺は短く息を吐いた。


いいよ


 それだけで、

 十分だった。



 彼女のIDは、もう知っている。


 入力すれば、

 申請は送れる。


 でも、送らなかった。



 フレンド欄を開いたまま、

 何となく、別のことを考えてしまう。



 少し前、

 野良で妙に印象に残った試合があった。


 喧嘩で終わった、

 後味の悪い一戦。


 名前も、顔も、

 思い出せない。


 ただ、

 終わらないまま残っている感覚だけがある。



 理由は、まだ分からない。


 意味も、まだ見つからない。


 彼女とは、

 関係ないはずだ。



 そう思って、

 俺はフレンド欄を閉じた。


 今は、踏み込まない。


 確かめるのは、

 もう少し後でいい。



 同じ夜。

 別々の部屋。


 同じFPSを閉じて、

 フレンド申請を送らなかった二人。



 次に繋ぐのは、

 ボイスチャットじゃない。


 ——たぶん、

 もう少し先だ。


第3話:ボイスチャットは繋がない

一緒に遊ぶ約束をした二人。

でも、なぜかVCだけは避けたままで——。


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