第二話 今日は、送らない
フレンド欄を開いて、
私は何もせずに閉じた。
もう一度、開く。
また、閉じる。
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彼のIDは、もう知っている。
入力するだけで、
フレンド申請は送れる。
送ればいい。
それだけのことだ。
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なのに、
指が動かなかった。
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理由が、はっきりしない。
怖いわけでもない。
嫌な予感がするわけでもない。
ただ、
胸の奥に、消えきらない感覚があった。
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野良で組んだ、
最悪な試合。
名前も、アイコンも、
もう思い出せない。
でも、
あの空気だけは、
妙に鮮明だ。
言葉が荒れて、
判断が噛み合わなくなって、
最後は、無言で終わった。
あれは、
ただの野良だったはずなのに。
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——考えすぎ。
そう言い聞かせても、
指先の違和感は消えなかった。
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スマホが震える。
今度、一緒にゲームしない?
画面を見つめて、
息をひとつ吸う。
断る理由は、どこにもない。
いいよ
短く返して、
スマホを伏せた。
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フレンド欄を、もう一度開く。
彼の名前は、まだそこにない。
それでいい。
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フレンド申請のボタンから、
そっと視線を外す。
ゲームの中の私は、
まだ彼に見せたくなかった。
オフラインで会った彼と、
オンラインで繋がるのは、
もう少し先でいい。
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今日は、送らない。
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――彼視点
彼女からの返事を読んで、
俺は短く息を吐いた。
いいよ
それだけで、
十分だった。
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彼女のIDは、もう知っている。
入力すれば、
申請は送れる。
でも、送らなかった。
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フレンド欄を開いたまま、
何となく、別のことを考えてしまう。
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少し前、
野良で妙に印象に残った試合があった。
喧嘩で終わった、
後味の悪い一戦。
名前も、顔も、
思い出せない。
ただ、
終わらないまま残っている感覚だけがある。
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理由は、まだ分からない。
意味も、まだ見つからない。
彼女とは、
関係ないはずだ。
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そう思って、
俺はフレンド欄を閉じた。
今は、踏み込まない。
確かめるのは、
もう少し後でいい。
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同じ夜。
別々の部屋。
同じFPSを閉じて、
フレンド申請を送らなかった二人。
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次に繋ぐのは、
ボイスチャットじゃない。
——たぶん、
もう少し先だ。
第3話:ボイスチャットは繋がない
一緒に遊ぶ約束をした二人。
でも、なぜかVCだけは避けたままで——。




