第一話 ログイン
私の一日は、ログインから始まる。
ゲーミングPCの電源を入れると、
デュアルモニターに光が灯る。
左にFPS、右にボイスチャット。
椅子に深く腰を沈めた瞬間、
頭が、ゲーム用に切り替わった。
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流行りのFPSで遊ぶのが、日課だ。
いわゆる、ガチ勢。
勝ちたい。
負けたくない。
理由はそれだけで、十分だった。
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野良でマッチに潜る。
ボイスチャットを繋ぎ、即席のチームで戦う。
野良に入るときは、昔から決めている。
フレンド用とは別のIDを使う。
その方が、
余計な感情を持ち込まずに済むからだ。
その日も、
サブ垢でマッチに入った。
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「そこ、カバー入るって言ったよね?」
「今行くって言ったけど?」
連携が噛み合わない。
言葉が、少しずつ尖っていく。
「前出すぎ」
「そっちが遅いんだけど」
同じミス。
同じ苛立ち。
負けた。
試合終了と同時に、
相手は無言で抜けた。
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最悪。
自己中なプレイヤー。
名前も、アイコンも、覚えていない。
それなのに、
あの試合の空気だけが、やけに残った。
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ゲームを閉じた瞬間、
ふと、別の気持ちが浮かぶ。
——恋、したいな。
ゲームの中では必死なのに、
現実では、何も始まっていない。
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友達に勧められて、
マッチングアプリを入れた。
今では、当たり前のものだ。
少し前まで言われていた「危険」や「恥ずかしい」は、
もう、過去の言葉になっている。
プロフィールの趣味欄には、
迷わず「ゲーム」を選んだ。
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数日後、
マッチ通知が届く。
相手のプロフィールを開く。
写真は、普通。
でも、好きなゲームの欄に、
私と同じFPSの名前があった。
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やり取りは、驚くほど自然だった。
最近のアップデート。
武器バランス。
味方に振り回された試合の愚痴。
「FPSあるあるだよね」
その一言に、
思わず、口元が緩んだ。
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実際に会った彼は、
穏やかで、よく話を聞いてくれる人だった。
オフライン——現実の彼は、
安心できる距離にいた。
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夜。
今度は、メイン垢でログインする。
久しぶりに、
メイン垢で野良に潜ってみることにした。
チーム一覧に、
見覚えのない名前。
——当然だ。
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試合中、
ふと、動きが似ている人がいた。
前に出る判断。
引くタイミング。
無理をしない立ち回り。
胸の奥に、
小さな引っかかりが残る。
考えすぎだ、と
自分に言い聞かせた。
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ゲームを閉じて、
スマホを見る。
彼からのメッセージ。
今日はありがとう
また会えたら嬉しい
画面を見つめながら、
思う。
——彼と、
いつか一緒にゲームができたら。
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オンラインと、オフライン。
まだ、その線は、
重なっていない。
次回、
今日は、送らない




