第8話ー健啖家達の1日ー
諸事情により遅れました…
毎回申し訳ないです…
またメシウマ回!
縁達は充実した昼げを終えた。縁は自分のことを健啖家だと思っているが、類は友を呼ぶとはまさにこのことだと思っている。使役獣達もみな、見た目よりよく食べるのだ。そこにヤオとユエという若者が加わった。この2人もよく食べる。縁は、
「ここまでスッキリ食べてくれると気持ちがいいねぇ。」
と笑顔で言った。
「デブな蛟になっちゃう。」
ユエが殊勝なことを口にする。
「ユエ、お前そんなこと思ったこと1mmもないだろ。」
ヤオが冷静に突っ込む。
「うっせぇ低血圧野郎。」
ユエがじとっとした目で言い返す。
「うぅっそれは…。」
ヤオはそれを言われてると二の句が継げないらしい。
「おいおい喧嘩するなよ〜。まだ悠淵まで二日半あるんだから!暴走されたらたまったもんじゃない。」
縁が窘める。2人は顔を見合せて気まずそうにクスッと笑った。
昼食の跡はほぼ何も残っていなかったが、念の為周りをチェックする。特に何も無い。
「では出発!ヤオとユエは気配探知頑張れよ〜。」
縁は号令をかけた。
この日は特に何も問題なく進んだ。時々、午前中のようにモンスターを発見することがあったが、縁のストックに余裕があったこと、現在追われていることを考えて狩ることはなかった。
…ヤオ、師匠のさ、立場って一体なんなんだろうね?気にならない??…
ユエがヤオに聞く。
…確かに気になる。後で話すと言っていたし、今日の夕食の時に聞いてみるか?…
ヤオは顔色を変えずに答える。
…ん〜晩ごはんはなにか作るかもしれないし、今聞かない??ダメ?…
ユエが口を尖らせる。
…ユエ様、丸聞こえですよ。…
稲ちゃんがガックシと頭を落とす。
ユエは固まってしまった。
「あ、アハハハハハ。その〜気になるじゃん!だって!」
ユエはとうとう声に出して言った。
「ま、気になるよな。私も先延ばしにして悪かったよ。まずはこれを見てくれ。」
縁は歩みをとめずポシェットから、冒険者証を取り出す。一見ただの銀色のカードだが、わかるものが見ればわかる。これは魔法金属、ミスリルのカードだ。
「ほれ。」
そこにはローマ字でENISHI TAKINO ” S”rankと印字されていた。
「せ、世界7大陸に1000人といないSランクなのですか?!」
ヤオが高い声を上げる。
「実はな、そうじゃないんだよな〜。」
縁が気まずそうにカードの”S”rankの上をなぞる。そこには”SSS”rankと表示されていた。
「「は、ははぁ?!!!!!」」
思わずヤオとユエは飛び退く。ベタな展開だ。
「こんな反応されるから見せたくなかったんだよ〜。」
額に手を当てる縁。
「い、いや、SSSなんて、伝説じゃないですか?!世界に20人いるとかいないとか、ナンバーズとも呼ばれているとか…一晩で大都市が消え、エンシェントドラゴンを倒し、山を吹き飛ばしたことがあるとか、夢物語の存在だと。」
思いっきり動揺を隠せないヤオ。
「まぁ私はNo.5(ナンバーフィフス)だよ。」
縁は正直に答える。
「そう!縁様は昔からナンバーズでした。もちろん古龍を倒したこともございます。あれは複雑な事情がございましたが…。そもそもSランク自体が希少ですが、スリーSともなると独りで戦略級魔術をいくつも行使し、国ひとつ滅ぼすことが片手間にできます。そのため普段はただのSランクとして活動するように、冒険者ギルドから要請されています。」
稲ちゃんが無い胸を張る。縁は、
「そんな怖い自己紹介とかされたくないのが人情だろう?!!!」
と、嘆く。ヤオとユエはなかば呆然としながら、縁の強さを振り返っていた。確かに、自分たちは歯が立たなかった。けれどこれほどの人物であったとは。下手に敵対などしていたら、今頃跡形もなくなっていたかもしれない。
しかしユエは気楽に言う。
「ま、でも激ウマなご飯を作ってくれる師匠は、実は天地をひっくり返すほど強かったってわけね!なんか浮世離れしてるところも納得しちゃった。」
ヤオもいまいち現実に追いついていない様子で、
「では今回我らを調査しに来たのは、日本の冒険者ギルドからの依頼なのですか?」
と聞く。縁はこめかみをかきながらこれまた渋い声で、
「違うんだよなぁ〜。実は私今、朝廷に仕えててさ〜帝からの勅命なんだよ。本当は土佐守、四国総鎮護っていう知事みたいな職に就いてる。でも、日本の帝って、夢見で未来を見ることがあるんだ。それで私が指名されたわけ。」
縁は面倒くさそうに髪をクルクルといじる。
「「は、はぁ?」」
ヤオとユエはもはや目が点だ。
「私も帝がどんな夢を見られたのかは知らないけど、とにかくこの陰陽の乱れは私しか対応できないって言われたよ。まったく、厄介事ばかり押し付けやがって〜。」
縁は憤慨する。ユエは
「ん〜頭痛くなってきたけど、どシンプルに言えば、私たちのことは師匠にしか扱えないってことでしょ?まぁそれがわかればいいじゃん。」
ともう思考を放棄する。ヤオも、
「うん。そうだな!」
逆に晴れやかな顔をしている。
「あ、うん。そこまで開き直ってくれたら私も助かる。」
縁はホッとした顔で言った。ちなみに稲ちゃんは無駄に偉そうにしている。
長々とくっちゃべっている内に、日が傾いてきた。標高がかなり下がってきたので道も険しくない。しばらく歩いていくと道の脇に広場が見えてきたので、縁は、
「今日はここで野営をしよう。」
と宣言した。
「今日のご飯は何かなぁ〜♪♪♪」
ユエがルンルンしている。
「昨日は魚だったから、肉がいいと思うなぁ〜。」
珍しくヤオがアピールしている。
「あっはははは!じゃあ今日は生姜焼きにするか!特製ダレに漬け込んだオーク肉が2種類あるんだ!それをササッと焼いて食っちまおう!」
縁は空間魔術に保管している食料のリストから、最適解を導き出す。
「じゃあ私とヤオは、早速焚き火作るね!」
ユエがテキパキと動き出す。ヤオも薪を取りに林に入っていった。 縁は昨晩も用意した調理台セットを出し、銅製のよく手入れされたフライパンを出した。玉ねぎを1cmはばにカットし、キャベツは千切りにしておく。スープは事前に鶏ガラで出汁をとっておいたので、わかめスープにする。ユエとヤオが作ってくれた焚き火に鍋をかける。
空間魔術から『オーク肉生姜焼きバラスライス』、『オーク肉生姜焼きロース厚切り』のふたつのタッパーを出していく。準備が出来た。まずは薄切りオークからだ。今回もカセットコンロを出し、フライパンを熱する。良く温めたら、米油をしき、玉ねぎを炒める。しんなりしてきたら、タッパーの薄切り肉をタレごと入れる。菜箸でよくほぐしながら炒めていく。この時点でもうヨダレが出てきそうな、香ばしい香りがする。
「師匠〜。これご飯似合いそう〜。絶対にオカワリする!!」
…やばい、ご飯炊くの忘れてた、戦術の致命的欠陥だ!!!…
ユエの一言で縁はピンチに気づく。こんな時はもちろん一升炊きの炊飯器だ。事前に洗っておいた一升の米をスピーディにセット、そして早炊きのスイッチオン!!これで間に合う!!! ありったけの薄切り肉と玉ねぎを炒め終わったら、大皿にまとめて、空間魔術に一旦保管。
次は厚切りの方だ。分厚いロース肉と肩ロース肉は、それぞれグローブのように切れ目がはいっている(筋に切れ目が入っていることで柔らかく食べられる)。大きなフライパンでも、1度に焼けるのは4枚。コツコツ焼いていく。
「主様〜まだですか〜ヨダレが止まりません〜」
白曜が興奮してじゃれついてくる。
「こらこら!毛が入ってしまうから!もう少し待ってて!ステイだ!」
縁は頭を優しくカキカキしてやりながら宥める。
「主様!我らは犬ではございません!狗神です!」
ヤキモチを焼いた黒曜も頭を突っ込んでくる。
「あちちちち!油が飛ぶからやめなさい!」
縁は笑いながらなだめた。
「あれ、どう思う?」
ヤオがユエに聞く。
「聞くなよ。狗神様達に半殺しにされるぞ。」
「だよな。」
2人は、戦闘シーン以外の狗神たちの無邪気さに、”犬”を見いだしていたが口には出さなかった。賢明である。
そうこうあって、晩ご飯ができた。量が量なのでキャベツは各自のお皿に乗っているが、肉は大皿からトングで取る方式だ。もちろん、使役獣達は全員人型である。
「では、合掌、いただきます。」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
薄切り肉の方からいったのはヤオである。
「かーーーっっ、上手い!このオーク肉の油と生姜の風味が絶妙だ!白米が止まらん!!!!」
上品に、かつバクバクと食べ進めている。ユエは厚切りの方から行くようだ。ナイフとフォークで切り分け、口に運ぶ。
「う、うまぁぁ〜。しっとりしてて柔らかくて、臭みもない。キャベツと合う〜」
手が止まらない様子だ。
縁は、
「ここで、悪魔のトッピングをしないかい?みんな。」
と悪役のように笑った。
「「え??」」
ヤオとユエはぱちくりしている。他の使役獣達はハイタッチしたりして大喜びだ。
「4人ずつだからな、待ってろよ〜。」
縁は再びフライパンを熱し、多めの油を引く。そこに落としたのは卵。目玉焼きだ。ふちをカリカリに焼いた目玉焼きを、肉の上にのせる。
「食べてみな。昇天するぜ。」
ヤオとユエはごくりと喉を鳴らし、それぞれ肉と卵を口に運んだ。
「「んんんんん〜〜」」
2人は感動していた。封印される前も美味しいものを食べたことはあったと思うけれど、断然今の食のクオリティの方が高い。この飯だけで一生師匠についていける。そんな気がした。
縁はそれぞれに喜びを爆発させている自分の仲間たちを見て、
ー今日も良きかな。ー
と月を見上げた。こんな日々は悪くないが、一体帝はどんな夢を見たのやら。一抹の不安を抱きつつも、仲間たちが幸せなら自分も幸せな縁だった。




