第76話ー縁の独白 後ー
更新遅くなってすみません 汗
縁の独白は続く。
「第三次世界大戦は、始まりは中東の小さな種火だった。しかし、核が使用されたことで争いは世界に発展した。」
「大国同士のしがらみや損益によって、事態はより混迷を深めた。当時の日本は覇権国家の飼い犬も同然、命令されれば”ワン”となく道具だった。」
「そして、731部隊の作成した”ナンバーズ”は、大義のない戦場で大きな戦果をあげ、世界にその名を轟かせることになる。」
「そして、来るべき日が来た。」
「その時私は手傷を負い、治療カプセルの中で休眠状態だった。」
「ナンバーズの戦力を見込んだ敵国が、731部隊に内通者を送り込んでいた。そしてナンバーズ、フェーズ3の汎用型実験体、戦闘狂で有名だったNo.13を初めとした何体かを自陣に引き入れ、戦闘機に乗らせた。」
「さて、目的はなんだったと思う?」
沈黙ーー。
縁は氷で少し薄くなったアイスコーヒーを飲む。
一息つくと、
「目的は、日本の首都の壊滅だ。結果として東京を含む関東平野に、前代未聞の規模の巨大水爆が落とされた。栄えていた関東圏は今や水の中。今は関東湾となっている。」
「ただ歴史は、これだけで話を終わらせなかった。」
「巨大水爆による磁気の異常、富士山を始めとする活火山の噴火、そしてーーー」
縁がコーヒーを飲み干し、残った氷が「カシャリ」。軽い音がなった。
「そしてーーー混沌の夜明け(ダウン・オブ・カオス)が始まった。」
ヤオがテーブルの上の手を握り直す。
ごくん。ユエが生唾を飲み込んだ。
ヤンガの額に小さく汗が滲む。
「突如として空が割れた。まるでガラスのように亀裂が走り、稲妻が無数に弾けた。割れた空の奥には、黒い球体のようなものが覗いていた。そして空間が歪み霞んで、"何か"が流入してきた。」
「私には微細な光の粒にみえた。それはのちに"霊子"と呼ばれるモノと、様々な種の命だった。」
「No.13は水爆を落とした後、現在に至るまで消息不明のままだ。」
「私はこれらの一連の出来事を、2日後に知ることになる。研究者たちは新しいエネルギー、"霊子"、"魔力"に首ったけだった。」
「そして、研究員の仲間に、異界からの魔術師達が入ってきた。彼らは何故か日本語を話していた。」
「これは仮説だが、混沌の夜明けが日本で始まったことで、"世界"に共通語として認識されたのかもしれない。国ごと地域ごとに違っていた言語に、日本語が上書きされ、第一言語が日本語となった。」
「その頃世界では、磁気嵐、新たな大陸の出現、潮汐の破壊など、天変地異が起こっていた。」
「さて、ナンバーズは緊急招集された。それは更なる強化を施すためだ。」
「私たちは"あちらの世界"で研究し尽くされ、こちらの世界の知識を飲み込んでブラッシュアップされた、魔術回路を埋め込まれた。」
「苦痛の代償に得たのは圧倒的な量の魔力と、不老不死の体だった。元々デザインベビーだった私たちは、最盛期で成長が止まっていた。だから私たちは長いあいだこの姿を保っている。」
3人は呆気にとられている。
「まだ続くぞ。辞めるか?」
縁は3人に尋ねた。
弟子3人は3人とも手に汗を握ったまま、だれとなく、
「続きをお願いします。」
と申し出た。
「元々、圧倒的な戦闘スキルを持つ私たちにとって、新しい魔力という力はすぐに馴染んだ。魔術師の指導の元、すぐに基礎魔法、応用魔法などを会得した。」
「それぞれの長所を活かした魔法や、戦争に使える大規模魔法を編み出して言った。」
「そして、渾沌の夜明けによって収まっていた第三次世界大戦は、"魔力"という新しい力を持って再燃する。」
「ーー第四次世界大戦だ。」
「私達は各々戦略級魔法兵士として、また世界に散った。」
「そして、ある時、この戦争を終わらせるものが現れる。」
「そのものはNo.7(ナンバーセブンス)、覇権国家の要請によって、ユーラシア大陸を始めとした敵対国に、大規模核撃魔法を放った。何発も。」
「敵対国のナンバーズも、北米や南米、ヨーロッパに核撃魔法や細菌兵器を放った。世界は怒りと悲しみに満ち、大地は強い毒で汚染された。混沌の夜明けの影響と戦争の影響で、地球は荒れ果てた。」
「ふーーー。」
縁が息を吐き、伸びをした。
「こうして覇権国家は弱体化し、有害な土地から逃げるため、人間たちは宇宙や地下に潜った。」
「もちろん、日本も皮肉なことに田舎だけが生き残った。京都に逃れていた宮家が王政復古し、日本は立憲君主制となった。極悪非道な731部隊は解散。ナンバーズも解散された。」
「さて、質問はあるか?」
縁は空間術式の中から、長い煙管を取り出し、刻みたばこを詰め、火をつけた。煙が沈黙の中にたゆたう。
「解散したあと…731部隊が解散したあとは、どうなったの?!もう何もしがらみもないわ!」
とユエが目を見開いて尋ねた。
「特技といえば戦争をすることだけ、名前もナンバーでしか呼ばれない。感情もほぼない。そんな奴らがまともに世間に馴染めると思うか?」
と縁は煙を吐き出すと、尋ね返す。
「それは…。」
とユエが俯く。
「でもこうして師匠は感情があるし、料理もできるし、故郷もある。」
とヤオが言った。
「そうだな。ナンバーズ全員がそうではないが、生きる場所を見つけた者もいる。」
「例えば欧州魔法学校の校長であるNo.2(ナンバーセカンド)なんかは典型的な例だ。彼にどんな出会いがあったのかは知らないが、いつの間にか校長になっていやがった。」
と縁は微笑みながら言った。
「師匠にもそんな出会いが?」
ヤンガがおずおずと尋ねる。
「あぁ。こんな私にも幸せな出会いがあった。その人には返しきれない恩がある。だから私はその人が守っていた、土佐を守っているのさ。」
「今はお前たちの師匠でもあるがな。」
縁はどこか懐かしい表情をしている。
3人はその表情を観て心の底からホッとした。
「師匠の恩人はどんな人でしたか?」
とヤンガが尋ねる。
「人望があって、朗らかでちょっと天然なんだけど、人として強い、そんな人だった…。」
と縁は微笑む。ヤンガが、
「その人は何をしていた人なんですか…?」
と続けて尋ねる。
「さぁ、日も傾いた。私の昔語りは一旦ここまでだ。長居しすぎてしまったな。夕食に繰り出そう!今日は私の奢りだ!」
と縁は柔らかく笑った。
「いつも師匠の奢りじゃないですか!私たちが今回は出します!辛い思いを思い出させてしまった訳ですから。」
とヤオがビシッと言った。
「ふふふ。あははは!そんなの気にしなくていいのに…。ありがとうな。3人とも、お前たちは優しい子だよ。」
縁は笑いながら言った。
「カァーカァー」
茜色の空に、カラスがねぐらに帰っていく。
カランカラン。
店を出た縁たちを、爽やかな秋風が吹き抜けて行った。




