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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第72話ー陰の気を発するものー

リザードマンの集落は急速に攻め滅ぼされていた。それは、挟撃と、遊撃による司令個体の撃破で命令系統の破壊があった為である。陰の水晶は、リザードマンの組織だった動きにも影響を与えていた。消滅したことでリザードマンの統率は乱れ、逃げ出すものが現れた。冒険者たちは、取りこぼしがないように追い込んでいく。

「この殲滅戦、もうじき終わるな。」

と、縁が呟く。

「そうですか…良かった。」

とヤオ。ヤンガに治癒魔法をかけてもらいながら、答えた。

「でも、何かまだあるわ。」

ユエが集落の中心を見つめる。そこには掘っ建て小屋があった。

「あぁ。陰の気を発するものがまだある。さほど強くは無いがな。」

と縁。


ユエがそーっと掘っ建て小屋のムシロをめくる。そこには草が敷き詰められ、中心には紫の模様のどこか懐かしさを感じるものーー卵にしか見えないが、ユエの胴回り程あるものがある。

ードクンッドクンッー

突如、卵から脈動を感じるユエ。

ーあなた、もしかして私を待っていたの?ー

ユエはゆっくりと近づく。片手を伸ばす。そして、触れる。

ードクンッー

卵が再び脈打つ。

ーこの卵は、私のものだー

唐突にユエは思った。

「ユエ…。」

縁がムシロをめくったその瞬間、空気が僅かに重くなった。彼女の眉が、ほんの僅かに動く。縁は後ろから声をかける。

「お前がそう思うなら、”そう”なんだ。」

縁がユエを見つめて言った。ユエは卵を自然と胸に抱いている。その事にユエは愕然とする。

ーいつの間にこんなにかき抱いて…?ー

自分の行動に混乱する。それを見て縁は、

「…えにしは巡るもの。お前は選び、選ばれたのさ。そればかりはしょうがない。今回はお前。いずれ陽も巡り、やがて現れる。」

と少し遠い目をしたあと、肩を叩いた。

「分からない…けど、あれ?なんで泣いてるのかな?」

ユエは目尻を流れる涙を、手の甲で拭う。

ーこれは…?安心?私安心してるのね。ー

ユエは唐突にそう思った。


ーあの卵、陰の気を発する水晶、どちらが先に生まれたのかそれは分からないが、あの卵がユエに、"ユエだけに"反応しているのは確か。そのうちヤオにも同じようなものが現れるやもしれんな。ー

と縁は思った。縁は、

「ユエ、ひとまず私の空間術式に格納しておこう。おそらく大丈夫だ。」

とユエに声をかけた。

「じゃあ、師匠。お願いします。」

ユエは卵を差し出す。縁は一瞬だけ、目を細めた。 何かを測るように。そして手を触れずに空間術式に格納する。その瞬間、ほんの一瞬だけ、縁の周囲の空間が歪んだ。

まるで、世界そのものが卵の存在を測りかねたかのように。

ー小さい割に、空間に占める"質量"が随分と大きいものだー

「ふふ…」

縁は微笑んだ。それを不思議そうに眺めるユエ。2人は掘っ建て小屋のムシロをくぐった。


「大丈夫でしたか?」

とヤンガ。

「私、大事なもの見つけたの。」

とユエ。

「「??」」

ヤオとヤンガは頭に?が浮かぶ。

「まぁこれ以上、陰の気を気にする事は無くなったっということさ。」

と縁は締めくくった。ユエも、

「また後で話すから!」

と朗らかに笑った。


「おし!痛みはなくなった!まだ戦えるぞ。」

ヤオが立ち上がって闘志を見せる。

「そうだな。ここに留まりすぎた。」

と縁が言うと、影から白曜と黒曜がしゅるりと滑りでた。

「取りこぼしがないよう、散開するぞ。私も浮遊魔術で攻撃を仕掛ける。稲ちゃんにヤンガは乗せてもらえ。」

「やっとお呼びがかかりましたか。最近出番がなくてつまらなくなっていたところです!」

縁の懐から出てきた稲ちゃんは、2m近い大きさになり風魔法を纏っている。風で草が舞い上がり、全員の髪が乱れる。

「稲ちゃんさん、よろしくね。」

とヤンガが恐る恐る背にまたがる。

「では散開!」

縁の号令とともに、弟子達は散っていった。


全体を見渡せる高さに、縁はあぐらをかいて浮遊している。

「さて、どこをどうしたものか。」

視界には冒険者が逃げ惑うリザードマンを狩る様子があちこちで見受けられる。

「もう加勢する必要は……あるようだな。」

西の端で、冒険者がリザードマンジェネラルと見られる個体と戦っている。冒険者は2人。剣士と魔法使いのようだ。集団戦から離れているせいで、応援が来ていない。

ーこういう時は時間をかけず、サクッとね!ー

縁は滑空と同時に肥前忠広を抜刀。リザードマンジェネラルの背後に着地する前に、

「ーー斬っ」

と首を飛ばした。


Cランク冒険者であり、剣士である清風(チンフォン)は目の前で起きたことが理解できなかった。取りこぼしを追って深入りしたところには、上位個体がいた。パーティメンバーの魔法使い梓萱(ズーシュエン)がいたが、Cランクに上がったばかりの自分たちには荷が重かった。自分を囮に、梓萱を応援に呼びに行かせようと苦戦していた。その時、死神は音もなく降ってきた。

「ヒュッ」

と何かが風を切る音が聞こえた気がした。そして死神が噂のSランク冒険者と気づいたのは、ジェネラルの首が自分の足元に転がってきた時のことだった。

「お前ら、だいじょうぶ…くはないな。怪我は、ちょっとしてるな。オール・ヒール。」

縁は2人に近づくと、治癒魔法をかけた。

「暖かい…」

梓萱が呟く。

「あ、ありがとうございます。」

清風は頭を下げた。

「いいって。私の役目は遊撃だからね。この奥にはもう居ないよ。後退してみんなと合流するといい。」

縁は空に舞い上がりながら、清風に声をかけた。


弟子達も散開した先で取りこぼしを一掃したり、怪我人に治癒魔法をかけたりと大忙しだった。

そして殲滅作戦を始めて5時間、リザードマンの集落は完全に壊滅し、リザードマンはほぼ倒されたのであった。


そして、どこか遠くで、誰にも聞こえぬ鼓動が、一度だけ鳴った。



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