第70話ー急襲ー
会議翌日、早朝。縁達は城門の外にいた。もちろん討伐隊も一緒である。およそ100名以上。何台もの馬車と巨体のウォーフォース。冒険者の気にあてられて、
「ブルルルっ!ブルルル!」
と盛んに鼻息を鳴らしている。
そこを狗神2匹が静々と進んでいく。すると、冒険者もウォーフォースも急に静かになる。目に映るのは畏敬か、恐怖か。縁は弟子を引き連れ、黒髪をなびかせて、ギルド職員である俊宇の元へ歩いていった。
「おはよう。兵站はそれでいいか?」
縁は俊宇の背後の荷物を見つめて言う。その中には野営のためのテントも含まれていた。縁の空間術式を見越してのことである。
「おはようございます。縁さん。こちらの荷物お願いします。別のところには、各パーティーからお願いされている荷物を集めています。」
と俊宇が言った。
「あぁ。それも預かる。」
縁は次々と空間術式に格納していく。冒険者達は呆気にとられながらそれを見つめていた。
縁達を除く全ての冒険者達が馬車に乗り込み、討伐隊は瑠璃を出発した。さすがウォーフォース、かなりのスピードが出ている。縁達は白曜、黒曜に乗って、馬車のスピードに合わせながら空を進んでいく。10月でも山野はまだ緑がはえる。
馬車がハイスピードで進んで2時間近く、街道にそそぐ小川に出た。そこからまた馬車は北に、小川を遡り始める。縁達は先行し、ベースキャンプをはる場所で待機する。リザードマンの集落からおよそ3キロの地点。
「全員揃ったか。」
俊宇が馬車を数えながら呟いた。縁は、
「思ったより早かったな。」
と答える。そして、
「アオイ、ウスハ、出番だ。」
影にいる使役獣を呼び出す。2匹は人型をとって現れた。
「おお、人型になれる使役獣など初めて見ました。彼らを連れて、早速、昨日の作戦の通り、班の編成に入ります。」
と言う。アオイとウスハは
「よろしくおねがいします。」
と頭を下げる。俊宇は、
「こちらこそ、よろしく。ではこちらに。」
と言い、人混みの中に紛れていった。
…主よ、感じますか?…
黒曜が縁に思念を送る。
…感じてるさ。ユエはどうだ?…
と縁はユエに聞く。
…変な感じよ。凄い違和感。ヤオとヤンガが感じないのは理解できても、白曜様が感じないのは不気味よね。…
とユエは縁を目で見た。縁は、
…それだけ陰に傾いているんだろう。みんな、気を引き締めていくぞ。…
と全員に通達した。
……はい!……
全員から力強い返事が届く。
そこへ、俊宇が、
「準備、整いました。何時でも攻撃開始できます。」
と縁に話しかける。
「わかった。さっさと終わらせよう。私たちは空に上がる。現場の指揮はそれぞれに任せる。頼んだぞ。」
と縁は白曜に飛び乗った。続いてヤオが飛び乗る。黒曜にはユエとヤンガが飛び乗った。
狗神2匹は空からリザードマンの集落を見下ろす。
…改めて言うが、我々は、上位種がいるだろう集落の中心を狙う。北からの奇襲と同時に中央に降り立ち、散開する。…
と縁は全員に思考共有で共有する。
……了解!!……
しばらくして、
「ドォン!!!」
「バリバリバリ!!!」
という音が集落の南側で聞こえ始めた。炎と、雷と風。おそらくはAランクパーティーの魔法使い達の大規模魔法。
…陽動が始まったか。…
縁は気を引きしめる。縁達が突入するのは、北側の奇襲が始まった瞬間だ。時間にして30分は過ぎたかという頃。集落の北側で、火の手があがり、鬨の声が上がった。
「行くぞっ!!」
縁達は弾丸のように空から舞い降りた。周囲には大量のリザードマンが溢れている。
「ギャギャギャ!!!」
「ギギ!」
当然の空からの闖入者に、リザードマンは予想以上に混乱している。
「血桜・血風千刃!!!」
縁は肥前忠広を抜き放ち、いきなり10匹以上のリザードマンを細切れにした。そしてそのまま奥に走り去る。
ヤオは飛び降りざまに寸勁で1匹屠り、そのまま何匹も粉砕していく。ユエは、
「影よ!牙となれ!」
と叫ぶ。ユエの影が伸び、リザードマンの喉笛を噛み切り、更にリザードマンの影からも牙が迫る。ヤンガはその脇で菩提樹の杖を地面に突き立て、
「我、混沌の蛇。我が名において命じる、茨よ鋭き槍となりて全てを貫け!茨千槍!」
と大規模魔法を繰り出した。
「グギャァ!!!」
という断末魔を上げて何匹ものリザードマンが串刺しにした。もはや弟子達にとって、リザードマンは敵ではなかった。
すると、
「グギャァァァァァア!!!」
と大きな声が聞こえる。奥から、鎧をつけ武器を持った大きなリザードマンが出てきた。
「リザードマンジェネラル!!」
ユエが叫ぶ。
「上等!!」
ヤオがニヤッと笑い、走り出す。そしてリザードマンジェネラルに、正拳突きを繰り出す。それをリザードマンジェネラルが盾で防ぐ。
「バコッ」
金属の盾が凹む。ヤオは連続して寸勁を繰り出し、ジェネラルに反撃を許さない。そのうち、
「バガンッ!!」
と盾が大破してしまった。ジェネラルは焦った様子で、剣を構える。ヤオは楽しそうな笑みを浮かべて、
「しゃおらっ!!!」
と回し蹴りを繰り出す。それは、脚を切り飛ばそうとしたジェネラルの剣を真っ二つにした。ジェネラルは目を見開き、そして動きが止まった。そこを見逃すヤオではなかった。
「先内崩!」
寸勁の奥義を腹に叩き込む。寸勁は体内に衝撃を炸裂させる。ジェネラルは口から大量の血を吐き、崩れ落ちた。
リザードマンジェネラルはまだいる。もう一体はユエが相手をしている。周りに味方が居ないことを確認し、
「月影・朧!」
黒い霧の世界を生み出し、影に隠遁した。
「うふふふふふふ!」
ユエは笑いながら、ジェネラルを翻弄する。
「スパンっ!!!」
ジェネラルの尻尾が根元から絶たれた。
「ギャギィ!!」
ジェネラルの悲鳴が響く。ユエはじわじわと傷をつけていく。ジェネラルは闇の中、どこを守っていいかわからず、辺りを見渡す。ユエの暗器が、守っているはずの手元を断ち切る。
「キャヒ!」
と悲鳴が上がり、影から逃れようと走り始める。そこを、ユエの刃がアキレス腱を断ち切り、ジェネラルは水場で盛大に転倒する。そして倒れたジェネラルの頸動脈を、ユエの暗器がかき切った。
「プシューーー!」
血飛沫すら浴びずにユエは飛び退く。
その間、ヤンガは大規模魔法でリザードマンの数を減らしていた。




