第7話ー鍛錬鍛錬、引き続きメシウマ回ー
おにぎりって美味しいよね!(もぐもぐ)
野営の後はできる限り消した。焚き火の後は土魔術で偽装し、不自然に折れた木々がないかも丁寧にチェックする。もし魔族に追跡に優れたものがいれば、痕跡を残すと足取りがすぐにバレる。少しでも偽装すれば、追跡に時間を割くことになる。痕跡というのは100%消そうとすれば、それこそ日が暮れてしまう。リスクとリターンを天秤にかけ、できる限りを尽くす。縁が長年培ってきた、サバイバル技術だ。
「主殿、痕跡は精一杯消しました。匂いなども風魔法で散らしております。」
白曜がつたえる。
「ご苦労。では使い魔たちは交代で気配探知を。担当でないものは休息してくれ。稲ちゃんは、ヤオとユエの思考共有の練習に付き合ってもらう。」
縁は白曜を撫でつつ伝えた。
「「「「「御意。」」」」」
使役獣から丁寧な返事が返ってくる。
「ヤオ、ユエ、昨日すっかり忘れていたが水筒だ。暑いからな、麦茶を入れてある。さっきも言った通り、2人は気配探知の練習を行ってもらう。あと、思念共有だな。稲ちゃんにメインで回してもらうが、その内、自分から全員に発信できるようにしてもらうぞ。」
縁は自分の水筒を斜め掛けにしながら言った。
「りょーかい。私はとにかく、気配探知の精度をあげる方向性で練習する。」
ユエは髪の毛をいじりながら答えた。
「私はとりあえず探知範囲を広げる方向性で練習する。そうすれば二人である程度カバーできる。」
ヤオはユエとは逆の方向性で修練するようだ。縁は、自分で考え、自己の目的のために行動できることは大変好ましいと感じる。
「2人とも、とても良い方向性だと思う。それで今日はやっていこう。では出発!」
川沿いから離れ、元の山道に戻る。
ヤオとユエは悩んでいた。
…ねぇ、ヤオ。魔力探知で生命反応が多すぎて、よく分からないんだけど。…
…ユエ、私もだ。それに範囲を広げると一つ一つの反応が希薄になって分かりづらい。…
思考共有で愚痴を話す2人に、突如明るい声が割り込んだ。
…うんうん。2人とも悩んでますね!さぞかしお困りでしょう!…
…稲ちゃん!丸聞こえだった?…
ユエが照れている。
…あははは。思考共有はいくつか種類がありまして、概念的には個々を糸で繋いで思念を共有する感じです。あと、気配探知のように、自分から波のように思念を発するやり方もあります。あと、例外的にいえば軍事作戦などで思念をコード化して、暗号文のようにすることもあります。ユエ様は時々思念の波が出てしまって、全員に聞こえてしまうことがあるようですね。今は糸を繋げていくイメージを保ちましょう!…
稲ちゃんは詳しく説明してくれる。
…稲ちゃん、気配探知を行いながら思念共有をするのは、なかなか脳のキャパシティをとると思うのだが、どれぐらいのメリットがあるんだ?…
ユエが頭を書きながら尋ねる。
…そうですね、我らにとってはこれくらいは朝飯前ですからなんとも。お2人には、戦闘行動中に思考共有で連携を強化してもらう狙いがございます。戦闘中の脳への負担は今の比ではございません。慣れですよ!慣れ!…
稲ちゃんは小さな腕を組んだ。
…そうだな。2人とも。こればかりは慣れるしかない。だいたい気配探知も思考共有も、普通の人間なら何年もかかって身につけるもの。2人はまだ2日目だ。ここまでできたら、後は上達するだけさ。…
縁も思考共有に加わる。そして、
…半径7キロに気配探知をしかけてるんだが、南西3.6キロ地点にグリーンベアーがいるな。旬じゃないから取りはしないが。2人ともそれを感じとれたら報告するように。…
と告げた。
一行は残暑の照り付ける中黙々と進む。ヤオとユエのこめかみには汗が浮いている。慣れないことをしているせいだろう。縁は
ーまだこんなに暑いのにタオルのひとつも渡してやらないなんて、私は気が利かないな…。ー
と思い、空間魔術からフカフカのタオルを2枚出して、2人に渡した。
…こんなに暑いのに、汗を拭くもの1つ出してやらないなんて、不親切だった。すまないな。…
と呼びかける。
…師匠、このタオルいい匂いだね〜。ありがとう!麦茶も飲み慣れないけど美味しいよ!…
ユエが無邪気に応じる。ヤオは、
…ありがとうございます、師匠。ちょうどグリーンベアーらしき魔力を探知しました。他の生き物より魔力反応がだいぶ大きいのは、これからの参考になります。…
随分と嬉しそうだ。
…方向性の違いとはいえ、先を越されるとムカつく!…
ユエはむくれていた。縁といえば、
ーあーー、中国の人って麦茶飲まなかったか〜。すっかり忘れてたよ。先に一言聞けばよかった。ー
などとトンチンカンなことを考えていた。
だいぶ道が開けてきたが、グリーンベアーに最接近している。縁は白曜を影から呼び出し、気配で威圧させる。
…ヤオ、ユエ、グリーンベアーはどうしている?…
縁は2人に尋ねた。
…今、突然現れた白曜様の気配に驚いて、そのまま南西に走り出したよ。かなり焦ってるね。細めの木は風の刃で切りながら、爆走してるよ。…
ユエはかなり正確な探知を行っているようだ。
…私も、だいたい似たような探知結果だ。だが、魔力の微妙な動きはわかったが、それが風の刃だとは分からなかった。…
少しガッカリしたヤオ。
…2人とも、かなり成長しているな。体力に気をつけながらこのペースで進むぞ。…
縁は2人の成長スピードに感心しながら、歩みを進めた。
太陽が中天を指すころ、そろそろ昼食の頃合いだと縁は考える。
ー朝はガッツリ食べたから、お昼はおにぎりに、よく冷えた出汁スープにするか。おにぎりは天かすに塩昆布とネギのやつ、スパムおにぎり、海苔の佃煮、焼きジャケ、明太子、梅干し…はまぁ食べるか食べないかは本人に任せるか。なんか野菜が欲しいんだけど、キャベツの浅漬けがあるからそれでいっか!ー
相変わらず、食への熱い思いは変わらない。
少し進むとカーブのところに、楠の大木がはえ、良い木陰ができていた。
「みんなー、今日の昼はここでサクッと済ませるぞ〜。おにぎりを出すからそれぞれ好きなのを食べてくれ!」
と縁は声をかける。タッパーには丁寧にラベレングされており、それぞれに違うおにぎりが入っている。
「おお!これがジャパニーズおにぎり!」
ユエがはしゃぐ。
「私も1回、日本の梅干しとやらを食べて見たかったんですよね。酸っぱいけど妙に癖になると噂の…。」
ヤオは意外にチャレンジャーだった。
「天かすと塩昆布とネギが入ったやつと、甘酸っぱいぐらいの梅干しが入ったやつ、スパムおにぎり、海苔の佃煮、焼きジャケ、明太子、それぞれ好きなだけ食べてくれ。あとこれは冷たい出汁スープな。あと、野菜としてキャベツの浅漬けをどうぞ〜。」
縁はポンポンと空間魔術から、食事を出していく。使役獣達は全員おにぎりが食べたいようで、人型になっている。
「はい、合掌!いただきます!」
全員で黙々と食べていく。
ーおにぎりは別名おむすび。米は神の恩寵。おむすびは米を介して、人と神を結びつける…なーんて、論文を読んだこともあったかな。まぁ、美味ければいいんだよ。熱々のおにぎりも美味しいけれど、常温のおにぎりもまた格別。こうやってみんなの結び付きが強くなっていくのは、とても好ましいことだね。ー
などと、縁は考えているのであった。
「酸っぱいけど思ったほどキツくはないんだな!この梅干し気に入った!」
ヤオが上機嫌でいう。
「ヤオ、梅干しにも色々あってだな、それは塩味も酸っぱさも優しい方なんだよ。田舎のばぁちゃんが作ったのなんて、口がしわくちゃになるほど酸っぱくて塩っぱいからな!」
縁はあらぬ誤解を産まないように訂正しておく。
「そうなのか…でもそれも食べてみたいな!」
ヤオは興味津々といった様子だ。黙々と食べているユエに縁はそーっと声をかける。
「ユエ?なんか静かだけど…」
「この、スパムおにぎりが、ツナマヨと(もぐもぐ)卵とすごいハーモニーでスパムが(もぐもぐ)…。」
縁は手でユエを制した。ユエは、スパムおにぎりがかなり気に入ったようだ。使役獣達もそれぞれ好きな物を黙々と食べている。ウスハは、全員の出汁スープのおかわりを継いでくれている。縁は大木を見上げて、
ーあぁ、こういう日は良い。ー
と微笑んだ。




