第69話ー作戦会議ー
母の誕生日だったので遅くなりました。
すいません。
縁は冒険者ギルドを出たあと、いつものガスプーの屋台に寄り、買い食いしながら衣類の店を聞き出した。そして、冒険者用の黒い弔意を示す黒い腕章を弟子3人は購入したのだった。
翌日の昼間、縁達一行は瑠華の商会の前にあった。もちろん弔意の腕章をつけてである。
「縁様…また来てくださったのですね。お弟子さんも。」
出迎えた暁東が感激した様子で言った。
「当たり前だ。弟子たちの初仕事、最後まで礼儀を通すのか師匠の流儀だど教えねばな。」
と縁が微笑む。そして背後からユエが白菊の花束を、そっと差し出した。暁東は両手で受け取り、一行を奥に案内した。
濃ゆい線香の匂い、微かな腐臭。
「今日の午後、火葬します。」
と暁東は菊の花を花瓶にさしながら話した。縁達は順番に焼香をする。
「もう少し僕たちが早ければと、何度思ったことでしょうか…。」
と下を向いてヤンガが呟く。ヤオとユエも何か言いたそうにするが口にできない。そんな3人を見て暁東は言った。
「それは違いますよ、ヤンガさん。運命とは複雑に絡んだ糸のようなものだ、と思うようになりました。あなた方が私に気づかないことだって有り得たのです。私達は奇跡的にほどけた糸で、たまたま縁様たちと繋がったのです。幸運でした。あなた方には人殺しと言う試練を与えてしまいましたが…。」
縁は、
「暁東さん、そう言ってくれると私たちも救われる。明明も、新たな命と共に前に進めるといいのだが。」
と朗らかに言った。
「明明は明らかに変わりましたよ。悲しみはあれど前を向いています。」
と言って暁東は笑みを浮かべた。
「ところで、縁様、耳の早いものの噂なのですが…大規模な討伐が行われるとか…、Sランク冒険者が筆頭に立つとも言われております。大丈夫なのですか?」
と一転、真剣な顔をして言った。弟子たちも顔が引き締まる。
「さすが、耳が早いな暁東。ここだけの話、瑠璃鎮の近くにリザードマンの大集落が出来つつある。午後は冒険者ギルドで会議だ。そして明日、ヤツらを殲滅する。もちろん、私も参加する。約束しよう、リザードマンは全滅だ。」
縁は余裕のある笑みをみせた。
「なるほど、商人同士でもリザードマンの話がちょくちょく出ていたので、まぁ予想はしていました。私のできることは、これをお渡しすることぐらいです。」
暁東は懐をまさぐると、美しい青色の試験管に入った液体を4本、縁に手渡した。
「それはハイポーション!そんな高価なものを…。」
とヤオ。暁東は拳に手を合わせ、
「瑠璃鎮の住民として、街道を行く商人として、リザードマンの殲滅は必須。みなさんどうぞ…ご武運を!!!」
と頭を下げた。
「暁東さん…恩に着る。必ずや瑠璃鎮に平穏を取り戻そう。」
縁も同じように礼を返すのだった。
午後、冒険者ギルドの大会議室は埋まっていた。集まっているのは、今回の緊急クエストに呼応して集まった意志あるもの達だ。もちろん最後列に縁達もいる。定刻になり、ギルドマスターと俊宇が入ってきた。
「まずは、危険なクエストに参加してくれて礼をいう。これは過去にない大規模な討伐戦だ。いや、数から言って殲滅戦と言ってもいい。諸君には改めて危険を認識し直した上で、この話を聞いてもらいたい。では俊宇、詳細を。」
と開口一番ギルドマスターである梓乐は述べた。
俊宇は梓乐と入れ替わって前に出る。
「では、私、俊宇から、詳細を述べさせていただきます。標的はリザードマンの集落です。数はおおよそ150から200と開きがありますが、大規模な集落であることはご認識ください。また、数の多さと、集落の建物から、リザードマンの上位種がいることが考えられます。リザードマンジェネラル、リザードマンキングなどです。また、リザードマンメイジなども想定してください。」
と述べた。会議室にはどよめきが満ちる。上位種と聞いて隣同士で囁きあっているものもいる。俊宇は、
「なお、今回はAランクパーティーである『蒼き風』、『赤龍の炎』が参戦しています。また、運良くSランク冒険者である、滝野縁殿がBランク相当の弟子3人を引き連れて参戦してくれることになりました。そして、縁殿は空間術式が使えますので、兵站の心配もありませんし、皆さんの荷物もお預かりできます。そのため、移動はウォーフォースによる馬車での高速移動になります。場所は街道に流れ込む小川を、20キロほど遡った場所です。」
と続けた。Sランクと聞いて会場のざわめきがさらに大きくなる。
「静粛に!縁殿の弟子については、Bランク申請で現在冒険者登録検討中だが、Aランクパーティー黒龍のアギトのアギトに圧勝している。3人ともそこら辺の冒険者と一緒にしない方がいい。縁殿については、かつてAランク冒険者だった俺が見た中で、敵を含め、いちばん強い、圧倒的強者だ。瑠璃鎮の冒険者全員がまとめてかかっても勝てはしない。ということで安心しろ。このリザードマンの殲滅作戦は成功する。みんな、後顧の憂いなく戦って欲しい。」
と梓乐は声を張って言った。そのあまりの剣幕に、会場はシーンとなる。誰かが喉をゴクッと鳴らした。
梓乐は最後列の縁に目をやり、
「さて、実際、集落を確認した縁殿から一言願いたい。」
と言った。
縁は会議室に入る時に言われていたので立ち上がる。
「さて、私がそのSランク冒険者滝野縁だ。短い間だが、よろしく頼む。上空から俯瞰した集落は円形をしていた。まだ増築中と言ったところだ。垣根が存在しているところとしていないところがある。作戦は至ってシンプルだ。諸君には、7班に別れて貰う。まずは3班が南側から奇襲をかける。Aランクパーティー2組は奇襲をお願いしたい。その隙に残り4班が北側に回り込み挟み撃ちにする。私はこの街のパーティーには詳しくないので、班わけはギルドの責任者に一任する。ここまででなにか質問は?」
と縁は言った。会場が再びざわめく。だがそこには縁をただの小娘だと思うものは一人もいなかった。そこで1人手が上がる。
「蓮華の園のリーダー、魔法使いの羽墨です。あなた方はどうするのですか?」
縁は、
「すまない、言い忘れていたな。私は空を飛べる使役獣が2体いるので、機動力を活かして遊撃にまわる。また、結界術、治癒魔法に秀でた使役獣もいる、ヒーラーなどが不足している場所にあてがうつもりだ。」
と付け加えた。羽墨は、
「わかりました。心強いです。ありがとうございます。」
と礼をした。
「上位種とかいるんだよなぁ?それ倒しちまってもいいんだよな?」
手を挙げず名乗らず、粗野な男の声がする。
「構わないが、かなわないと思ったらすぐに助けを呼ぶこと約束して欲しい。」
と縁は真剣に述べた。
「ちっ。Sランク冒険者様は心配性だなぁ?たかがリザードマンごときに。」
男は毒づく。
「烈牙場を弁えろ。その協調性のなさがBランク止まりの一因だ。」
と梓乐が厳しい声をかけた。
「ちっ。偉ぶりやがって老害が。」
烈牙と呼ばれた男はふてぶてしく言った。
「ふむ。向上心があることは素晴らしいことだ。ただし、それで失われる命があるかもしれないことを忘れるなよ。」
縁からじわぁっと圧が滲み出る。縁の言葉に、烈牙は反応することはなかった。ただ睨みつけたまま、額に汗を滲ませながら不穏な笑みを浮かべている。会場はシーンとし、鎧の擦れる音ひとつ聞こえなかった。
そこに再度俊宇が前に進み出て、
「それでは、私が班わけを担当させていただきます。私も元はAランク冒険者、また長年瑠璃鎮のギルド職員として皆さんを見ています。適材適所で組み分けします。クエストを辞退する方は今出て行ってくださって構いません。では始めます。」
縁達は班わけに加わることなく、最後列からパーティーリーダー達を見つめる。
ヤオは、
ーいよいよ明日か。狙いは上位種。寸勁がどれだけ通用するか楽しみだ。ー
と感じ、ユエは、
ーシャドウ・ガーデンとか、視界撹乱系の魔法は使えない。暗器と影をどれだけ使えるかね。ー
と思っていた。ヤンガは、
ー僕は攻撃も治癒も使える、もしかしたら今回1番出番が多いかもしれない。適材適所、ヤオとユエの背後は取らせない!ー
と意気込んでいる。共通しているのは、師匠である縁に対してある絶対的な安心感と、師匠の間合いに入らないという暗黙の了解だった。
そして縁の胸には、久しく感じていなかった戦場に向けての高揚が、そして同時に、そんな殺し合いの中でしか生きられない自分への哀れみが、ひしひしと迫っているのだった。
今日の会議は戦術として、静かな前哨戦の始まりであった。




