第61話ー武器屋街ー
縁は瑠璃の小箱亭で静かに茶と月餅を食べている。弟子の帰りを待っているのだ。特に時間は決めていなかったので、縁は暇そうに外を眺めている。
しばらく夕暮れの近づいた通りを眺めていると、
「師匠!」
カランカランと音を立て、ヤオが入ってきた。ユエ、ヤンガ続く。
「お疲れ様、どうだった?」
縁は追加のお茶を頼みながら弟子たちに問うた。
「もう、(仮)カードの面目躍如って感じよ!」
とユエは憤慨気味だ。
「はぁ?どうした?なんかあったか?」
と縁は笑いながら聞いた。
「それが~かくかくじかじかで………」
とヤンガが説明する。
「あっはっはっはっはっはっ!Eランクに目をつけられて、誤解されるとか、めっちゃ面白いな。」
縁は腹を抱えて爆笑した。そこにヤンガが疑問を呈する。
「でもそもそもEランクの冒険者が行く道に、リザードマンが集団で襲撃することがあるんでしょうか?」
と言った。縁は、
「あぁ確かに7体同時というのはEランクになったばかりの4人組にはきついか。」
と顎に手をやって言った。リザードマンは知性が高く、連携をとられると低ランクの冒険者には厄介な相手ではある。
「リザードマンが7体というのは気になる数だ。明日他に似た案件がないか聞きに行ってみるか。もし最近似た案件があるならば、リザードマンの集落が出来つつある可能性がある。」
と縁は言った。明日の予定は早くも決まってしまった。
「お前たち晩飯は?まだだろ?」
縁は話を変える。
「はい!さっき遅い昼ごはんご馳走になったんで、まだいいかなぁと思ってます。」
とヤオは言った。縁は、
「じゃあちょっと武器屋街にでも行ってみるか。あと本屋街とか。」
と提案する。
「良い手甲があれば買いたいな…革が少し伸びてきた感じがある。」
「武器屋街?!いきたーい!ちょっと暗器の刃こぼれが気になってたのよね。」
ヤオとユエが大喜びした。
「本屋街は魔導書とかほしいですね!買えるかなぁ?」
とヤンガも喜んでいる。
「娜娜、ちょっと外に出てくるよ。」
と縁は女将に言った。
「はいよ!行ってらっしゃい!」
女将に送り出され、4人は街歩きに出た。
縁を先頭に街中を進んでいく。縁は事前に聞いておいた通りに進んでいく。
街の色が全体的に黒々とした通りに出る。匂いもどこか硬質だ。サビに近い匂い、武器屋街だ。武器屋の他にも鍛冶屋が混じっていようで、「カンカンカンカン」と槌の音が響いている。
「さてさて、どこがいいかなぁ。」
縁は並べられた商品を見ながら、店を品定めする。ジロジロと見ながら、武器屋街を1周し、2周目、
「よし、この店がいいな。刃の鋭さが違う。」
特に店の名前も書いていない、黒塗りの無骨な店だ。
「ご店主、見ていいか?」
縁は店の奥に声をかける。
「あ?どこの小童だ?」
奥からドワーフが現れる。ただし顔は東洋人顔だ。
「おめぇっっ。若えのに、なんだ?凄いやり手じゃねえか。後ろの3人もなかなかいい。俺の店に合うってもんよ。」
大きな声で男が言う。
「おやっさんもいい腕してるな。瑠璃鎮で1番じゃないか?」
縁はドワーフの男をしげしげと見つめる。男は、
「俺は建志という。鍛冶屋だ。お若いの名前は?」
と尋ねる。縁は、
「私は滝野縁、Sランク冒険者だ。後ろの3人は弟子さ。まだランクは決まってないが、Cランクは余裕で超えると思っているよ。」
と答えた。
「そうだろうよ。ワシにもそう見えるからな。お前の腰のもの、とんでもないな。これは呪い?特級呪具の部類だろ。後学に一目見せて欲しいんだが、大丈夫か?」
建志は言った。
「構わないが、持っていかれるなよ。死ぬぞ。」
縁は腰の肥前忠広を建志にわたした。建志はゴクリと唾を飲み込み、深呼吸して、その刀を抜いた。そして様々な角度から眺めると、鞘に収めた。
「これが、日本刀の大業物……。いったい幾人の血をすすり、幾多の修羅場をくぐり抜けたのやら…。」
額に脂汗が滲んでいる。
「この鞘もただもんじゃねぇ。握ってるだけで声が聞こえてくる。震えがくるぜ。」
と縁に返した。
「これは肥前忠広、鞘は妖樹・血桜の皮を使ったものだ。」
縁は腰に戻しながら言う。
「そうか…。良いものを見せてもらった。小太刀も素晴らしいものだな。さすが、Sランクオーバーともなると伝説級の装備だ。」
建志は含みを持って言った。
「そうか、それもわかるか。本当に瑠璃鎮じゃなくて広州で武器屋やればいいんじゃないか?」
縁は軽口を叩く。
「いいんだよ。俺は瑠璃鎮が気に入ってるんだ。まぁ、見る目がない冒険者が増えたら広州でも行くかね。」
建志は笑いながら言った。
「ほらユエ!お前の暗器見てもらえよ。」
縁は後ろでぼーっとしているユエに声をかける。
「あ、はい!これなんですけど。」
ユエは腰にさしてある暗器を出す。
「お!お前さんも若いのにちゃんと武器の扱いをわかっとるな。ま、見た目通りの年齢とは限らんようだが。」
建志は目を細めて暗器を見つめた。
「まぁ相棒だから!ちゃんとしないとね。」
とユエは言った。
「カカカ!お前さん方3人とも蛟か。悠淵の里出身だね?」
と建志は目を細めたまま言った。
「「「えっ?!」」」
3人はびっくりして固まった。
「何のトリックもない。この暗器は俺が悠淵の里に直接渡したものだからな。同じ長命種同士、特に変なことはないさ。」
と言った。
「びっくりした!親父さん鋭いから人化がバレたのかと思ったよ。」
とヤオが言った。
「お前さんの手甲もその時渡したものさ。そろそろ寿命かね?」
建志は手甲を見せるように手招きする。
「そうだ。革が伸びてきたから。」
と手甲を外して渡した。
建志は、
「暗器はすぐ研ぐから問題ない。手甲はとっておきのがあるから、ちょっと待ってな。」
と言って奥に入っていった。
すると奥から
「ヂーーーッヂーーーーッ」
という音が聞こえてくる。 金物の匂いがフワリと漂ってくる。
「完成まですぐだろ。ここの武器は洗練されていて無駄がない。よく見て目を養え。」
と縁は言った。3人は刃物に息がかからないように、息を詰めて剣やナイフを見る。
建志が暗器を研ぐ音だけがする。4人は武器屋兼鍛冶屋の屋内で、思う存分武器を鑑賞するのであった。




