第58話ー詰所にてー
瑠璃の小箱亭にて。
翌朝、9時頃示し合わせたように4人が起きてくる。
「おはよー。」
「「「おはようございます。」」」
昨日座った席が空いていたので席に座る。朝食は中華粥が日替わりになっているらしく、自動で運ばれてくる。
今日は色々な具材が入った五目粥である。白いレンゲに青い模様が美しい。ボリューミーな五目粥に舌鼓をうつ。
「相変わらずここは美味しいねぇ。」
縁がほっこりしながら言う。ヤオとユエ、ヤンガも、同意する。
「食べたら少し早いが冒険者ギルドに行ってみるか。もうピークはすぎたはずだし。」
「昨日は昼って言ってましたけど、いいんですか?」
ヤオが尋ねる。
「兵士の詰所に行って、早く死体を返してやりたいんだよ。その前にギルド関係のことを済ませておきたい。」
縁は頬杖をついて言った。
「その件があったわね…。」
ユエがやるせない顔をする。
「冒険者稼業やってると、こういうことは少なからずあるからな。慣れろとは言わないが…その時に最善の選択をとるのも冒険者の勤めだ。」
ヤンガを始めとした3人は真剣に頷いたのだった。
10時頃の冒険者ギルドにて。そこにはフードを被った4人組の姿があった。もちろん縁達である。昼前と言うと、冒険者ギルドはかなり暇になる時間帯である。朝はクエストを受ける冒険者でいっぱいになるし、夕方はクエストを終えて支払いや換金を求める冒険者で溢れかえる。
受付をしようとすると、受付には芷瑶しかいない。縁は仕方なく、冒険者カードを出しながら、
「芷瑶さん、砕骨流砂の支払いを頼みたい。後、弟子たちの冒険者登録についての進展も確認したい。」
と言った。
「縁さん、昨日は大変申し訳ありませんでした。確認してまいりますので、しばらくお待ちください。」
芷瑶は頭を下げたあと、後ろに下がって行った。そしてすぐ小袋を持ってくる。
「砕骨流砂の懸賞金は準備がありましたのでお支払いできます。白金貨21枚ですね。確認の後、お納めください。お弟子さんの登録についてはまだ検討中だそうです。広州の大きなギルドと連絡を取り合っているそうです。特例として冒険者として活動することは認めるが、かわりになるべく低ランクのクエストを受けて欲しいとの事です。」
と芷瑶は言った。
「砕骨流砂の件、確かに貰い受けた。特例として認めてもらうのはありがたいが、なにかカードみたいな身の証になるものはあるのか?」
縁は白金貨を数えながら言った。
「はい。こちらの、『ランク検討中』と記載されたカードをご用意しております。後は名前を印字するだけです。お弟子さんは、冒険者申請書はまだ記載されてませんよね?」
芷瑶は聞く。
「あぁ、昨日はその、まあ、そんな暇がなかったからな。今なら時間もある。申請者を書いたらすぐにカードを貰えるんだな?」
縁は気まずそうに言った。
「で、ですよね…、みなさん!この用紙に名前をご記入ください。次の紙には冒険者の規約と、免責事項が乗っておりますので、お読みの上サインをお願いします。」
芷瑶は弟子3人に2枚1組の用紙を渡した。3人は併設されている机でそれぞれの名前を書いていく。縁は3人の字を見ながら、
ーなかなか達筆だな、こいつら。ー
と思っているのだった。
3人は書き終わると芷瑶に渡す。
「カードが仕上がるまでの間、こいつらが行ける低ランクのクエストを見てていいか?」
縁は尋ねる。
「もちろんです!低ランククエストは絶えずありますから!」
と芷瑶は笑顔で答えた。
「じゃ、3人とも行くよ。」
縁は3人を引き連れ依頼ボードの前に移動した。
「ルールによると自分のワンランク上までのクエストが受けられるんですよね。パーティーでも同じ。パーティーのランクは平均値で決めると…。」
ヤンガが思い出しながら言った。
「そうだ。大事な事だから忘れるんじゃないぞ。」
縁は低ランククエストを順番に見ながら言う。
「あった!瑠華鈴蘭の採取クエスト!」
縁はボードに貼られたそれをはぐ。
「「瑠華鈴蘭?」」
ヤオとユエの声がそろう。
「あれ?2人とも知らないの?上級ポーションの主材だよ。薄青く光る鈴蘭で、300年前に効能が発見されたんだ。」
ヤンガが言った。
「あはははははは!ヤンガ、こいつらその頃絶賛、封印中だよ。」
縁は爆笑しながら言った。ヤンガは真っ青になって、
「ひゃぁぁ!ご、ごめん!うっかりしてた!」
と二人に謝った。ヤオは、
「いやいや、気にしなくていい。そんなこともある!」
と気さくに言った。ユエはちょっと意地悪そうな顔をして、
「クエストから帰ってきたら、甘いもの奢ってよね。」
とヤンガの肩を叩いて言うのだった。
「もちろん!おっしゃる通りに!」
ヤンガは愛想笑いで言った。
「ま、瑠華鈴蘭は霊気の満ちた湿地に生える。お前たちにはもってこいだ。クエストは60本。群生しているから、コツを掴めばすぐだ。3人で行ってこい。」
とヤオにクエストの紙を渡す。
「俺に渡すということは、俺が一応リーダーですか?」
とヤオが尋ねる。
「そうだ。お前が適任だ。」
と縁は言った。
芷瑶の元にヤオがクエストを出す。
「これを受けたいんだが。」
「瑠華鈴蘭採取、Eランクですね。問題ありません。仮カードも出来上がったので、順にお渡ししますね。」
ヤオ達はプラスチックで出来た(仮)というカードを貰った。
「これで僕たちも一応冒険者の仲間入り!」
ヤンガはとても嬉しそうだ。ヤオとユエは、
「いつか私達もミスリルになるわよ。」
「あぁ。」
と早くも野心を燃やしていた。
「厄介事に巻き込まれる前に、さっさとお暇するぞ。」
縁は用事は済んだとばかりに、3人を急かしてギルドを後にするのだった。
瑠璃鎮の門にて、縁は、
「それじゃ気をつけて行ってこい。念の為に白曜と黒曜をつけるが、あくまで念の為だ。自分の力でこの低ランククエスト、やりとげろ。」
と言った。
「「「はい!行ってきます!」」」
3人は軽い荷物を背負って、山手の方に歩いていった。
縁は見送ったあと、そのまま憲兵の詰め所に行く。しかし、表情は固く、強ばっている。
「護衛部隊の建平隊長はいるか?」
縁はそこら辺にいる兵に声をかける。
「隊長?詰所でなにか書き物をしてるよ。あんた、何用だ?」
若い兵士が訝しげに声をかける。そこに昨日の騒動を聞いていたのか歳上の憲兵が、
「Sランク冒険者、縁殿ですね!今すぐにお通しします。」
と声をかけた。
「あぁ、助かる。」
縁はその男について行った。
城壁のそばに作られている詰所は、それなりの大きさだった。建平は隊長室から出てきて縁を出迎えた。
「縁殿、わざわざ御足労いただきありがとうございます!今日は兵士の遺体の受け渡しですね。」
建平は言った。
「そうです。本当は昨日渡せたら良かったのでしょうが…申し訳ない。」
と縁は頭を下げた。
「いえいえ、遺族と合わせてあげられるだけでも僥倖です。部屋を空けましたので、そこに並べてください。」
建平は地下のひんやりした部屋に案内する。部屋には既に花がたむけられており、線香の匂いが立ち込めている。
「出すぞ。」
縁は1人ずつ丁寧に空間術式から出して言った。
「みんな、、済まなかった。許してくれ…。」
7人の死者の前に、建平は男泣きに泣いた。縁はそれを尻目に、静かにその場を去っていった。
ーいつ見ても、死者との邂逅は虚しいものだ。どんな力も能力も及ばない。無力。ー
縁は沈痛な面持ちで詰め所を後にした。




