第56話ー新人 受付嬢の災難 ー
冒険者ギルドは外まで活気が溢れていた。従魔のゾーンには何匹かのモンスターが入っている。
「白曜、黒曜、従魔のところにいてくれるか?」
縁は2匹に言った。
「「かしこました。」」
人の出入りで、扉の開け放たれた冒険者ギルドの中に入っていく。縁を先頭に、ヤオ、ユエ、ヤンガである。新参者の姿に、冒険者たちの視線は集中する。5人いる受付嬢が1人空いた。そこに縁は並ぶ。
「初めまして。なにかの報酬をお求めですか?」
容姿の整った若い金髪の女性が言う。
「砕骨流砂の件なんだが。」
と縁。
「砕骨流砂はAランクパーティー悠久の大地が処理し、広州へ護送中のはずですが。とにかく冒険者カードを…。」
と受付嬢。
「これを。」
縁は静かにカードを差し出した。
「S、Sランク…。」
受付嬢はたじろぐ。
「お嬢さん、少し耳を。」
動揺を隠そうとする受付嬢に耳打ちする。
「な、なんですか?」
「本当は私はSランクじゃない。」
縁は手元のカードのランク部分をなぞって隠蔽をとく。
「私はSSSランクだ。ギルドマスターはいるか?」
縁は硬直している受付嬢に不安感を覚えながら言う。
時間にして数秒後、
「ええええええーーーーー!!!!」
受付嬢はギルド中に響き渡る声で叫んだ。ギルド中の視線が一極集中する。縁は頭を抱える。
ーあーどうなっても知らない…考えるのやめた〜。ー
その叫び声に年配のギルド職員が駆け寄ってくる。
「どうしました?!芷瑶は新人で配属されたばかりでして、何か問題でも?」
「俊宇さん、、、」
芷瑶は涙目で先輩の顔を見る。俊宇と呼ばれた先輩は、提示された冒険者ギルドカードを見て目を見張る。
「あなたは…!」
縁はコソコソと声をかける。
「あのさ、SSSの身分を隠蔽せよって言ったのギルドの方だから。私もバレると困るけど。もうなにこの注目度、半端ないんですけど、早くどうにかして!」
なんだなんだと縁の一挙手一投足に視線が集まる。つられてヤオ達にも視線が集まる。
「す、すいません。まさかまさかのことで…。どう言ったご要件で?」
俊宇冷や汗をかきながら、精一杯下手に出る。
「また初めからか。砕骨流砂の件でだ。ギルドマスターに話を通してくれ。というか、SSSランクがきたら自動的にギルドマスターに話が行くんだけど…。」
「はい!ただいま!芷瑶さん、ご案内して!」
「は、はい!!!」
縁一行は半ば無理やりギルドマスターの元へ向かうのだった。
コンコンコンコンー
「芷瑶です。ギルドマスター!ご来客です。」
「なんだぁ?この忙しい時に。」
「急用です!入ります。」
芷瑶は躊躇いなく扉を開ける。
瑠璃鎮、冒険者ギルドマスター、梓乐は机上に積まれた書類と格闘していた。ギルドマスターになってだいぶ経つが、やはり体を動かしていた方が性に合う。スキンヘッドに筋肉でパツパツのシャツ。残暑の10月。そんな中の来客だった。入ってきたその女を見た時、梓乐は時が止まったかのように思われた。
ー隠されている。だが、この女には瑠璃鎮の冒険者が全員で襲いかかっても勝てない、そんな強さが秘められている。ー
縁の漆黒の瞳を見て梓乐は、震撼したのだった。
「ーーSSSランク??」
梓乐は震える声で言った。
縁といえば、
「やっと話ができる…。」
と呟くのだった。
縁達を応接用の椅子に座らせた梓乐は、
「先ほど女性の悲鳴が聞こえましたが、もしかして芷瑶でしたか?」
と聞いた。縁は、
「そうですね。若い子には少し刺激が強すぎましたかね?ははは。ギルド中の視線を集めましたからね。」
梓乐は芷瑶をギロっと睨む。
「大変失礼しました。今回はどのような件で瑠璃鎮に?」
芷瑶は、そそくさと退室していった。
「砕骨流砂の件と、弟子3人の冒険者登録で話がある。」
梓乐は、
「砕骨流砂?Cランクパーティーのオークの牙が護衛として先日、憲兵と瑠璃鎮を出たばかりだが…?」
と首を傾げる。
「それがな、長い話になるんだが…。オークの牙は砕骨流砂と手を組み、憲兵を殺した。その後、砕骨流砂とオークの牙は別れたが、砕骨流砂は商隊を遅い、その商隊を私たちが見つけ、砕骨流砂を全員殺害した。それが昨日だ。今日はオークの牙が商隊を襲ってきた為に、全員犯罪奴隷として捕縛した。」
と流れを説明した。
「な、なんだって?オークの牙が?!」
梓乐は頭を抱える。
「随分と素行の悪いパーティーだったらしいな。これは冒険者ギルドとして責任を免れないぞ。商隊は1人犠牲が出ている。なんでそんな素行の悪いパーティーが護衛なんかについたんだ?」
縁は追求する。
「オークの牙のリーダーの親が大手の商会の会長で…その推薦がありなったという背景があります。」
梓乐は脂汗をかきながら言った。
「なるほど。コネか。まぁ、責任は責任があるところに追求すべきだ。これ以上は私は特に言うことはない。後は砕骨流砂の懸賞金が支払われたら文句は言わない。」
縁は鞘・血桜から肥前忠広を抜き放ち、首7つを、梓乐の眼前に広げる。
「確かに砕骨流砂だ。懸賞金は白金貨21枚だ。直ちに払えるよう手配する。後はお弟子さんの冒険者登録ですな。」
梓乐は汗を拭いながら、言った。
「私は弟子3人をヤオとユエがBランク、ヤンガをCランクとして推薦したい。」
縁は淡々と言う。
「BランクにCランク?!本気ですか?Dランクで盗賊を殺す試験を突破することをおわかりですよね?」
梓乐は思わず立ち上がって言った。推薦するのにもランクが高すぎる。この世界ではほとんどの冒険者がCかDどまり、BやAといえば腕利きなのである。
「我が弟子たちは、砕骨流砂を殺した。これは商隊のリーダーだった暁東を、始めとしたメンバーも証人になってくれるはずだ。もし証が足らぬのならば、また殺してこよう。」
縁は続けざまに言った。
「ううむ。これは少しギルドで話し合ってもよろしいですか?他のギルドとの兼ね合いもありますので。」
梓乐はスキンヘッドをふきふきしながら言った。
「構わない。暫くはこの瑠璃鎮にとどまる予定だ。その間に弟子たちに冒険者としての依頼の受け方や、依頼者とのやり取りなど、イロハを叩き込みたい。ただ長期間いる訳では無いことを念頭に置いて欲しい。」
縁は少し圧を出しながら言った。梓乐は、
「わかった。今から対処するから、そう怒らないでくれ。」
ともはや懇願している。
「怒ってない。新人には私の対応は確かに荷が重かったと思うよ。気にしてない。後、飯の美味い、いい宿を教えてくれると助かるんだが?」
縁は手を振って大丈夫だとアピールする。梓乐は、
「瑠璃の小箱亭という宿がいいと思う。何しろ縁殿は見かけ上SランクのSSSランク。そこら辺のよく分からない宿に泊まられると、ギルドから連絡ができなくなる。大丈夫だろうか?」
と言った。縁は、
「うん、宿は飯が上手ければどこでもいい。わかった。金も急がないから、また明日取りに来るよ。」
と、言った。梓乐は、
「お気遣い感謝する。」
と頭を下げた。
縁は、
「じゃ、3人とも、ぼーっとしてないで、晩御飯としゃれこもう!」
と笑顔を見せたのだった。
弟子3人は怒涛の出来事に口がポカーンで、何がなにやら話についていけていなかった。そして初めて、
ーあ、お腹減ってたんだ…。ー
と気づく有様であった。




