第54話ーオークの牙ー
ーガタゴトガタゴトー
荷馬車は進んでいく。問題の20キロ地点に近づいてくる。縁は暁東に、
「暁東さん、御者を私の使役獣に変わりましょう。商隊の皆さんは荷馬車の中に隠れてください。」
と指示を出す。御者としてアオイとウスハが、御者座に乗る。縁としては5人組に下手に奴隷のフリをして欲しくない。超絶美人の御者を見て、本性を表してもらおうという算段である。なので先頭の黒曜はユエの影に隠遁している。
問題の地点まで残り1キロ、縁は思考共有で、
…問題地点まで残り1キロを切った、各自戦闘用意。周囲には悟られないように。…
と通達した。
……ラジャー……
全員から返事が来る。一行は慎重に進んでいく。
…動いた!…
ユエが全員に通達する。にわかに緊張が高まる。
「おい姉ちゃん、ちょっと止まんな。怪我したくなかったらな。」
ユルユルの革鎧をつけた、小柄な男が剣を構えて挑発した。
「はぁ??」
ユエは目を白黒している。
「おうおうおうおう!お前ら動くんじゃねぇぞ!」
今度は腹がはちきれんばかりのデブが、戦斧をもって現れる。他にも3人、武器を持って現れた。みな、下品な笑みを浮かべている。
「この区間は冒険者が商隊を守ってねぇってのは、砕骨流砂の兄貴の言ってた通りだぜ。ひひひ!」
1人がもう勝ったとでも言うように笑う。
「あら、冒険者がいないなんて、どうしてそんなこと言えるのかしら?」
ユエが暗器を取り出しながら言った。ユエの影から隠遁していた黒曜が、しゅるりと姿を表す。また、中衛だった、ヤオとヤンガが、最後尾に白曜を残して縁がやってきた。
「どうも〜、冒険者です!」
縁は軽く声をかけた。
「お前ら5人組の盗賊で間違いないな。」
ヤオが拳をゴキゴキいわせながら言った。縁は馬車のホロを少し透かして、暁東に見覚えがないか聞く。
「んん?あいつら商隊を狙う奴らじゃないです。オークの牙とかいうパーティーだったかと。あまりいい評判は聞きませんが、瑠璃鎮の冒険者ですね。」
暁東が言う。
「ほう。そうなると、話の筋書きがちょっと違ってくるな。ちょっと話してくる。」
縁は興味深そうな顔をして言った。
「おいクソザコ!おめーら護衛のくせに砕骨流砂と組んだな?こっそり貯めてあるお宝を、分けてやるからとでもいわれたか?運良く護衛の連中を殺せたのはいいが、置いてきぼりを食らって困ってるんだろ?」
縁は生ゴミの匂いを嗅いだかのような顔をして言った。
「は、はぁ?!なんだ?この小娘、何を言ってやがる。」
中年の無精髭だらけの男が言った。
「その顔、図星だな。せめて獲物がないと帰るに帰れなくて、荷馬車を狙ってたんだろ?あぁん?」
縁は煽った。
「クソガキが、砕骨流砂の兄貴たちはどうした!西に向かったはずだ!」
頭に薄汚い布を巻いた筋肉質な男が唾を飛ばして聞いた。
「お?お前なかなかいいこと聞くな。リーダーか。砕骨流砂?こうなったよ!」
縁は鞘・血桜から肥前忠広を抜きはなった。禍々しく紅く染まった刀身から、サラサラサラと首が7つ現れる。
〈あ”あ”あ”あ”…〉〈辛い、苦しい〉〈痛い、痛いよぉ〜〉
などと声が聞こえる。
「あ、兄貴たちだ…。」
デブが震え上がる。
「デッドオアアライブだったからな。面倒だから死んでもらった。お前らもこうなりたいか?」
縁は薄ら笑みを浮かべて、刀をひとふりする。
「お前たちはまだ指名手配犯じゃない。今ここで大人しく捕まれば、殺しはしない。」
ヤンガが冷静に言う。ぎゅっと拳を握っている。
「もちろん、お前たちが襲った護送部隊のところに連れていってもらうぞ。お前たちが素直に喋れば、何も痛くない。喋らなければ痛いことばっかりだ!指の2〜3本いや、片腕かな?無くなるかもしれないけどなぁ。」
ヤオが指をこめかみに当てて言った。
「く、くそ。でもこいつらさえ倒せば、あの御者の超絶美人の姉ちゃんたちも手に入るんだぞ!」
1番先に話しかけてきたザコが叫ぶ。
「残念、あの二人は私の使役獣だよ。」
不愉快な声にアオイとウスハが元の姿にもどる。そして、冷たい強風を吹かせた。
「というか、このかっこよくて大きなオオカミはどうするんだ?なぁ?黒曜」
「本当、無視されて不愉快ですわ。このクソ雑魚ども!」
今まで”強さ”を隠していた黒曜が気配を解き放つ。
”ゾッ”
オークの牙の全員の背に鳥肌が経つ。にわかに脂汗が滲む。
ー格が違う…。ー
「こ、降参だ、俺は降参する。」
リーダーの男が両手をあげる。
「り、リーダー??!」
デブの声が裏返る。
「俺も降参する!」
「お、俺もだ!」
次々と降参の声が上がる。
そして結局、
「くそったれ!これからだったのに…降参する。」
未練がましい声を残しながら、オークの牙は全員降参、捕縛された。
そして縁は、いちばん賢そうなリーダーを引き連れて街道を進む。元々砕骨流砂を連れていたはずの護衛馬車に、案内させているのだ。するとすぐ傍に馬車を止めるための広場があり、そこに惨劇の後があった。
馬車が転がり、流れ矢に当たっただろう馬が死んでいる。そこで死んでいるのは揃いの服を纏った男たちだった。全部で7人。武具が全部剥ぎ取られている。ハエがブンブンと音を立てる。縁は黙って手を合わせた。
ー砕骨流砂が7人。護衛が御者含め7人。護衛のオークの牙が5人。腕利きの盗賊を護送するのには充分だ。ただ、護衛の選任が悪かったな。ー
縁は死体を空間術式に格納し、馬と壊れた護送車を炎の術式で燃やした。
「7人死んでいた。」
縁はオークの牙のリーダーを座らせながら言った。
「気分が悪いな。なんの罪もない兵士が、あんな奴らに殺されるなんて。」
ヤオがオークの牙の連中を睨む。
「同じく。大変不愉快。オメェら指名手配犯だったら殺してた。」
ユエの影が”シャーッ”と音を立てる。
「今回は僕らは裁きに関わらない。司法の役目だ。ただ犯罪奴隷は鉱山で30年以上働かされる。30年働いて生き残れるのは5人に1人。お前たちにちょうどいい人生だ。」
とヤンガが冷たい声をかけた。
縁は暁東にことの詳細を伝える。そして縁は、
「叔父さんが亡くなって、困ることもあるだろう。こいつらオークの牙は暁東さんたちの取り分でいい。犯罪奴隷として売れば高い金になる。あと、これは素行の悪いパーティーを護衛につけたギルドの責任問題もある。商人ギルドを通じて、責任を追求するといい。」
縁は暁東の手を握って言った。
「ありがとうございます。瑠璃鎮までもうすぐです。どうかよろしくお願いします。」
暁東は強く握り返していった。
ーガタゴト、ガタゴト。ー
荷馬車は行く。最後尾に5人の犯罪者を引き連れて。強さを解き放った白曜に睨みつけられ、萎縮しきったオークの牙の一同は、
ーこんなはずではなかったー
と思うばかりであった。




