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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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53/62

第53話ー長かった夜ー

遠くの山が薄く赤くなっていく。夜明けが近い。

「何もありませんでしたねぇ。」

ヤンガが周りを見渡しながら言う。

「そうだな〜。一応気配探知にはゴブリンの気配もあったが、近づいては来なかったな…。」

縁はチラッと黒曜を見て言う。黒曜はフフンと言った様子である。縁は、

「さて、我々も交代して少し仮眠をとろう。」

とヤンガに声をかける。

「はい!そうします。」


ヤンガはヤオに声をかけに行った。縁はユエに声をかける。

「おはよう。ユエ。早起きだがあと少し頼めるか?」

「はあわああ〜。わかりました。すぐ交代します。」

ユエは伸びしながら答えた。

「髪、跳ねてるぞ。」

縁は笑いながら言った。

「うへぇ。ここいっつも跳ねるんですよね〜。」

ユエはゴソゴソと布団から出てくる。

縁は焚き火に薪を2、3本放り込んだ。パチパチパチッ!!焚き火が弾ける。

「おはようございます。師匠。ユエ。」

奥のテントからヤオが出てきた。ヤオは相変わらずのストレートヘアだ。

「では、黒曜とウスハも白曜達に交代して、私たちは休む。頼んだ。」

と縁は自分のテントに去っていった。


「ヤンガ、その、大丈夫だったか?」

それとなくヤオが聞く。

「師匠のおかげで大丈夫だったよ。ありがとう、ヤオ。」

ヤンガは優しく答えた。そして自分のテントに入っていった。


「ヤンガ、大丈夫だった?」

ユエがコソコソとヤオに聞く。

「"師匠のおかげで大丈夫だった"っていってたから、大丈夫だろう。何かあったのは間違いないが…マイナスになることはなかったようだ。」

ヤオは丸太に座りながら言った。

「ヤンガ、だいぶ"きてた"もんね〜。大丈夫になったんなら良かった良かった。」

ユエは青みを帯びた空を見上げて言った。


朝日が昇る頃、商隊の一行が起きてきた。

暁東(シャオドン)さん、おはようございます。」

ヤオが丁寧に頭を下げる。

「昨夜は何もありませんでしたか?」

暁東は濡らした布で顔を拭きながら尋ねる。

「はい。何も問題はありませんでした。直に師匠も目を覚まします。」

ユエは笑顔で答えた。

暁東達は朝ごはんの準備をし始める。と言っても固く焼いたパンと干し肉を炙るぐらいだ。

「おはよう。」

「皆さんおはようございます。」

縁とヤンガが出てくる。

「師匠!おはようございます。朝ごはんですよ!」

早速ヤオが縁に近づく。

「あのなぁ。護衛対象者が干し肉と固いパン炙って食べてんのに、私たちが美味そうなやつ食べる訳には行かないだろう?」

縁は困った顔で言う。弟子3人はショックを受けた顔をしている。

「で、でも、何か…こっそりと美味しいものなんかないですか?」

食に貪欲なヤオが言い募る。

「あーわかったわかった!チーズ!うまいチーズ出すから。暁東さんにも渡してこい!それ焼いても美味いから。あとジャパンオルトロスバードの串焼き出すから。」

その目の輝きに根負けした縁は、空間術式からチーズの塊を出して言った。いい匂いをさせながら朝ごはんは過ぎていく。


朝食を終え、テントを片付け終わると、いよいよ出発である。縁たち一行は集合して打ち合わせをする。

「問題の5人組だが、街道沿いから動いていない。間違いなく待ち伏せ、もしくは奴隷に化けて商隊に拾ってもらうつもりだ。」

と縁。

「戦闘になりますかね?」

とヤンガ。

「相手が武器を持っているかいないかによるな。恐らくだが、武器は砕骨流砂に独り占めされた可能性が高い。まぁ、戦闘も想定の内と思っておけ。」

縁は顎に手を当てたまま言った。

「「「了解です。」」」

弟子3人は声を揃える。

「パーティー編成は昨日と一緒だ。前衛に黒曜とユエ、中衛はヤオとヤンガ。殿(シンガリ)は私と白曜だ。」

と、縁は指示を出した。

「「分かりました。」」

ヤオとユエは言った。

「接敵したら、まずは狐の目ですか?」

ヤンガが声をあげる。

「いや、相手が指名手配だとも限らないし、そもそも、もとが5人組なのかも分からない。2人組と3人組の賊とかな。砕骨流砂はデッドオアアライブだったから殺したんだ。普通は捕縛さ。犯罪奴隷として売ったら金になるしな。ま、そこは依頼主である暁東さんによる。」

縁は冒険者としての経験を述べる。

「分かりました。」

縁の説明にヤンガが深く頷いた。

…ヤンガ、少しキリッとしたわね。…

ユエが思考共有(リンク)でヤオに話しかける。

…夕べ、よっぽどの事があったのだろう。…

ヤオもユエも、ヤンガが一皮むけたのを感じていた。

縁は、

「じゃあ進行上にいる5人組について暁東に伝えてくる。」

と、弟子達から離れていった。


「なんですって?!まだ盗賊がいる?」

暁東の声ににわかに商隊がざわめき立つ。

「落ち着け。相手は5人。恐らく奴隷に扮している。必要となれば殺す。安心して欲しい。絶対にこちら側に死人は出さない。しかも説明したとおりの奴らだ。案ずるに及ばない。」

縁は極めて冷静な声で言った。

「Sランク冒険者のあなたが言うのであれば、信じましょう。我々には、それしかない。」

暁東は暗い面持ちで言う。たった2日でこの世の全ての不幸を味わったかのような顔。縁は仕方なく、

「隠していても仕方がないか、誰にも言うなよ、私はSランクじゃない。」

改めて冒険者カードを取り出して見せた。

「SSSランク、滝野縁。No.5(ナンバーフィフス)、強欲(グリード)の縁、と言えば通りは早いか?」

と冒険者カードの隠蔽を取り払って言った。

「な、なんだって!!!!!スリーむぐっ!!」

叫びかけた暁東の口を、周囲の注目が集まる前に手で塞ぐ。

「いいか、これはギルドマスターの許可なく明かしてはならない身分なんだ。知らんぷりしろよ。これでも信用ならないか?」

縁は暁東にせまる。

「実在するとは…。このミスリルのカード。確かに本物。ナンバーズであれば、盗賊が100人1000人いようとも誤差の範囲。信じましょう。」

暁東は興奮した面持ちで答えた。

ーまったく、商人は危ない橋は渡りたくないから、どうしても疑い深くなる。昨日失敗したから尚更だ。だからまぁ、私の身分は役に立つんだがな…。ー

縁は若干皮肉めいた展開に、嫌な気持ちになるのであった。

「暁東さん、準備はいい?」

ユエが先頭の馬車で御者をしている暁東に聞く。

「いいですよ。しゅっぱーつ!」

暁東の号令で一行は進み出す。


まずは20キロ地点の5人組、それをどう対処するか、縁たちの手腕にかかっていた。



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