第53話ー長かった夜ー
遠くの山が薄く赤くなっていく。夜明けが近い。
「何もありませんでしたねぇ。」
ヤンガが周りを見渡しながら言う。
「そうだな〜。一応気配探知にはゴブリンの気配もあったが、近づいては来なかったな…。」
縁はチラッと黒曜を見て言う。黒曜はフフンと言った様子である。縁は、
「さて、我々も交代して少し仮眠をとろう。」
とヤンガに声をかける。
「はい!そうします。」
ヤンガはヤオに声をかけに行った。縁はユエに声をかける。
「おはよう。ユエ。早起きだがあと少し頼めるか?」
「はあわああ〜。わかりました。すぐ交代します。」
ユエは伸びしながら答えた。
「髪、跳ねてるぞ。」
縁は笑いながら言った。
「うへぇ。ここいっつも跳ねるんですよね〜。」
ユエはゴソゴソと布団から出てくる。
縁は焚き火に薪を2、3本放り込んだ。パチパチパチッ!!焚き火が弾ける。
「おはようございます。師匠。ユエ。」
奥のテントからヤオが出てきた。ヤオは相変わらずのストレートヘアだ。
「では、黒曜とウスハも白曜達に交代して、私たちは休む。頼んだ。」
と縁は自分のテントに去っていった。
「ヤンガ、その、大丈夫だったか?」
それとなくヤオが聞く。
「師匠のおかげで大丈夫だったよ。ありがとう、ヤオ。」
ヤンガは優しく答えた。そして自分のテントに入っていった。
「ヤンガ、大丈夫だった?」
ユエがコソコソとヤオに聞く。
「"師匠のおかげで大丈夫だった"っていってたから、大丈夫だろう。何かあったのは間違いないが…マイナスになることはなかったようだ。」
ヤオは丸太に座りながら言った。
「ヤンガ、だいぶ"きてた"もんね〜。大丈夫になったんなら良かった良かった。」
ユエは青みを帯びた空を見上げて言った。
朝日が昇る頃、商隊の一行が起きてきた。
「暁東さん、おはようございます。」
ヤオが丁寧に頭を下げる。
「昨夜は何もありませんでしたか?」
暁東は濡らした布で顔を拭きながら尋ねる。
「はい。何も問題はありませんでした。直に師匠も目を覚まします。」
ユエは笑顔で答えた。
暁東達は朝ごはんの準備をし始める。と言っても固く焼いたパンと干し肉を炙るぐらいだ。
「おはよう。」
「皆さんおはようございます。」
縁とヤンガが出てくる。
「師匠!おはようございます。朝ごはんですよ!」
早速ヤオが縁に近づく。
「あのなぁ。護衛対象者が干し肉と固いパン炙って食べてんのに、私たちが美味そうなやつ食べる訳には行かないだろう?」
縁は困った顔で言う。弟子3人はショックを受けた顔をしている。
「で、でも、何か…こっそりと美味しいものなんかないですか?」
食に貪欲なヤオが言い募る。
「あーわかったわかった!チーズ!うまいチーズ出すから。暁東さんにも渡してこい!それ焼いても美味いから。あとジャパンオルトロスバードの串焼き出すから。」
その目の輝きに根負けした縁は、空間術式からチーズの塊を出して言った。いい匂いをさせながら朝ごはんは過ぎていく。
朝食を終え、テントを片付け終わると、いよいよ出発である。縁たち一行は集合して打ち合わせをする。
「問題の5人組だが、街道沿いから動いていない。間違いなく待ち伏せ、もしくは奴隷に化けて商隊に拾ってもらうつもりだ。」
と縁。
「戦闘になりますかね?」
とヤンガ。
「相手が武器を持っているかいないかによるな。恐らくだが、武器は砕骨流砂に独り占めされた可能性が高い。まぁ、戦闘も想定の内と思っておけ。」
縁は顎に手を当てたまま言った。
「「「了解です。」」」
弟子3人は声を揃える。
「パーティー編成は昨日と一緒だ。前衛に黒曜とユエ、中衛はヤオとヤンガ。殿は私と白曜だ。」
と、縁は指示を出した。
「「分かりました。」」
ヤオとユエは言った。
「接敵したら、まずは狐の目ですか?」
ヤンガが声をあげる。
「いや、相手が指名手配だとも限らないし、そもそも、もとが5人組なのかも分からない。2人組と3人組の賊とかな。砕骨流砂はデッドオアアライブだったから殺したんだ。普通は捕縛さ。犯罪奴隷として売ったら金になるしな。ま、そこは依頼主である暁東さんによる。」
縁は冒険者としての経験を述べる。
「分かりました。」
縁の説明にヤンガが深く頷いた。
…ヤンガ、少しキリッとしたわね。…
ユエが思考共有でヤオに話しかける。
…夕べ、よっぽどの事があったのだろう。…
ヤオもユエも、ヤンガが一皮むけたのを感じていた。
縁は、
「じゃあ進行上にいる5人組について暁東に伝えてくる。」
と、弟子達から離れていった。
「なんですって?!まだ盗賊がいる?」
暁東の声ににわかに商隊がざわめき立つ。
「落ち着け。相手は5人。恐らく奴隷に扮している。必要となれば殺す。安心して欲しい。絶対にこちら側に死人は出さない。しかも説明したとおりの奴らだ。案ずるに及ばない。」
縁は極めて冷静な声で言った。
「Sランク冒険者のあなたが言うのであれば、信じましょう。我々には、それしかない。」
暁東は暗い面持ちで言う。たった2日でこの世の全ての不幸を味わったかのような顔。縁は仕方なく、
「隠していても仕方がないか、誰にも言うなよ、私はSランクじゃない。」
改めて冒険者カードを取り出して見せた。
「SSSランク、滝野縁。No.5(ナンバーフィフス)、強欲の縁、と言えば通りは早いか?」
と冒険者カードの隠蔽を取り払って言った。
「な、なんだって!!!!!スリーむぐっ!!」
叫びかけた暁東の口を、周囲の注目が集まる前に手で塞ぐ。
「いいか、これはギルドマスターの許可なく明かしてはならない身分なんだ。知らんぷりしろよ。これでも信用ならないか?」
縁は暁東にせまる。
「実在するとは…。このミスリルのカード。確かに本物。ナンバーズであれば、盗賊が100人1000人いようとも誤差の範囲。信じましょう。」
暁東は興奮した面持ちで答えた。
ーまったく、商人は危ない橋は渡りたくないから、どうしても疑い深くなる。昨日失敗したから尚更だ。だからまぁ、私の身分は役に立つんだがな…。ー
縁は若干皮肉めいた展開に、嫌な気持ちになるのであった。
「暁東さん、準備はいい?」
ユエが先頭の馬車で御者をしている暁東に聞く。
「いいですよ。しゅっぱーつ!」
暁東の号令で一行は進み出す。
まずは20キロ地点の5人組、それをどう対処するか、縁たちの手腕にかかっていた。




