第50話ー虚しい昼ー
弟子3人は暁東に、自己紹介するために馬車に近づく。
「暁東さん、私はヤオと言います。私達は冒険者登録はしていませんが、皆さんの足を引っ張ることはないと約束します。よろしくお願いします。」
ヤオが暁東に言った。
「私はユエ。瑠璃鎮まで絶対に守るわ。約束する。」
ユエは握手しながら言った。
「ヤンガです。この中では1番若輩ですが、お力になれるよう尽力します。よろしくお願いします。」
ヤンガも頭を下げて言った。そして泣き叫ぶ女性の方を向き、目を伏せる。
「弟子の皆さん、ありがとうございます。商隊の護衛は初めてですか?」
暁東は気さくに声をかける。
「はい。残念ながら…さぞかしご不安でしょう、申し訳ない。」
ヤオが頭を下げる。
「いえいえ、Sランク冒険者の弟子ともなれば大丈夫ですとも。そもそも、ここら辺は盗賊は出ません。なぜ砕骨流砂がいたのかが不可解なぐらいで…その甘さが叔父を死なせてしまった訳ですが…。」
暁東は目を伏せる。
「それは…。」
ヤオがどもる。そこに縁が、
「奴らの死体の処理は終わった。なぜこんなところに腕利きの盗賊が出たのか、それは瑠璃鎮まで行って情報を得なければ分からない。暁東、叔父さんの遺体だか、まだ外は暑い。私の空間術式の中は時が止まっているから、安置するのに都合がいいが…どうする?」
と、割って入った。
「ーーっつ。本当ですか?なら丁度いいです。よろしくお願いします。」
暁東は手を合わせて頭を下げた。
「ではみなに一旦、お別れをさせてあげてくれ。」
縁は暁東の肩をたたく。
「分かりました。せめて矢を抜いてやらないとね…。」
暁東は自分の役目と決めているようだった。
「そうしてやるといい。」
縁は優しく言った。
「ヤオ、ユエ、ヤンガ!これから商隊の護衛に入る。前衛にユエと黒曜、馬車の両側にヤオ、ヤンガ、殿(しんがり、最後方のこと)が私と白曜だ。ヤオとユエは半径15キロの気配探知を怠るな。砕骨流砂の件は何かときな臭い。まだ何かがある。気を抜くな。」
縁は叱咤するように言った。
「「「はい!」」」
3人の弟子たちは声を揃えて返事をする。縁の意見と同感だからだ。
ーまだ何かある…。ー
人ではない彼らの勘が、そう告げていた。
暁東の叔父を空間術式に格納し、商隊は馬車が傷んでいないか、荷物の崩れを直し、出発の準備を整える。日は中点を過ぎ、昼食の時間になっている。縁は弟子たちにレーションと栄養補助ゼリーを配った。
「食いたくなくとも食っておけ。いざと言う時に魔力切れなど馬鹿がすることだ。」
ヤオたちは黙って小麦色のレーションを、口に突っ込み咀嚼する。そして、粉っぽくなるとゼリーで潤した。
ーあんな戦闘の後でも、俺たちは食べなければいけない…。ー
今までで1番、不味い食事だった。
「暁東さん、あなたたちもなにか口にした方がいい。ここだけの話、砕骨流砂の件はなんだかきな臭い。いざと言う時に動けるよう、体にエネルギーを補給するんだ。食べられないものは無理しなくていい。いいか?」
縁は家族で集まっている暁東の所へ行くと、耳打ちした。
「分かりました。食べれるものは食べさせます。」
暁東はなかなか旅慣れているらしい。縁の意図をすぐに飲み込んだ。
馬車の向こう側から
「みんな!とにかく昼食を取るぞ。食える時に食っとかなきゃ旅は続くんだぞっ!」
叱咤するかのような暁東の声が聞こえる。
「こんな時に飯なんて食えるか!」
「ぼく、要らない。」
「私も何も口に入らないわ。
あんなのを見たあとじゃ…。」
「あたしゃ食べるよ。生きるものの特権だからね。みんなもしっかりしな!」
様々な声が聞こえてきた。
昼食後、暁東の商隊は御者を変え、粛々と出発した。縁は思考共有で、
…お前たち、気張りすぎるな。自然体でいろ。商隊の人は旅慣れているがあくまでも"普通の人"なんだ。お前たちがピリピリしていると気が休まらない。…
と注意する。
…すいません、気が高ぶっているようです。注意します。…
…確かに私らしくなかったわ。クールにならなくちゃね。…
…師匠。僕はちょっとドキドキが止まらなくて。…
それぞれ返事をする。
…ヤンガ、無理するな。お前は初めての修羅場だったんだ。気配探知も周りに任せて、接敵した時のことだけ考えておけばいい。モンスターかもしれないしな。…
縁はヤンガを励ます。
…分かりました。…
ヤンガは呟くように返事をする。
縁はヤンガの葛藤に、胸を痛める。
ー私はいくら人を殺めてもどうとも感じない。命じられたら相手を殺す。それが当たり前だったから。ヤンガ、いくらでも悩んでいい。それが普通に生まれた"人"の、特権だ。ー
縁は、瑠璃鎮に着いたら、ヤンガを思う存分甘やかしてあげようと思ったのだった。
旅は早い速度で進む。馬が白曜と黒曜の気配を恐れ、自然と早く進んでしまったのだ。
「どうどうどう!落ち着けお前たち。あのオオカミは敵では無いからね〜。」
少し太ったおばさんが馬を静める。目に余った縁は、
「どうどうどう、お前たち、あの黒いのと白いのは敵じゃないよ。ん?さっき?怖かったなぁ。大丈夫だ。大丈夫。おばさんの言うことをよくお聞き。」
と2頭の馬に言い聞かせる。
「ぶるるるるるっ」
馬たちは軽く嘶き、歩みを緩める。
「あんた、馬の気持ちが分かるのかい?大したもんだよ!はははははっ!」
御者のおばさんが目を丸くして笑う。
「そんなもんじゃないさ。ちょっとした魔力操作だよ。」
縁は微笑んで返した。
「私は恵蘭って言うんだ。あんた偉い冒険者なんだってね。私たちは得したよ!何しろ砕骨流砂は男は皆殺し、女は犯して魔物の餌って言うからね。捕まったって聞いたのに、なんでこんなところにいるんだか…。」
恵蘭と名乗る御者は、随分と気丈でおしゃべりなようだ。
「なに?捕まっていたという噂があるのか?」
縁はその話に食いつく。
「あぁ、Aランクパーティーに一網打尽にされたって聞いたけど、デマだったってことかね。」
恵蘭は煙管に刻みたばこを詰めながら言った。
「恵蘭、だいたい何が起こったか検討が着いた。ありがとう。」
縁は大体の予想をつけた。
ーとなると、あと最低でも1つはいるな。ー
馬車はガタゴトと進む。日は徐々に傾いていく。
果たして縁と弟子たちの予感は当たるのか?
ー当たらなければいい。ー
と誰もが望むのだった。




