第5話ー厄介者は消した、あとは訓練と美味しい晩御飯ー
メシウマ回です!
縁は顎に手を当てしばし考える。
ー修行の開始は、早ければ早いほどいい。だが、戦闘直後で興奮した状態は良くない。とすれば…。ー
「ヤオ、ユエ、今日の晩御飯の時に気配探知のレッスンをしよう。記憶ではもう少し下ると川に出る。その傍で野営だ。」
「なぜ川で気配探知の練習なんだ?」
「ヤオ、気配探知とは、己から魔力を波紋のように発することで成り立つ。それは水面に石を投じることと同じこと。まずは水を介してコツを掴んでもらう。2人は元々人ではないから、感覚は遥かに鋭敏なはず。すぐに勘がつかめるさ。」
「りょーかい!じゃあ川に着くまでイメージしてよ〜っと。」
「なるほど、水の波紋か…。」
2人は思うところがあるのか、やる気になっている。縁といえば川魚でできるレシピを考えていた。そして気配探知を地面の方にも向ける。
そして突然、
「み、見つけたーーー!!!」
と叫んだ。ヤオとユエは思わずナイフを引き抜いて構える。
「ごめんごめんごめん、敵じゃない!敵じゃないって!」
縁は焦って2人を宥める。
「師匠〜驚かせないでよぉ〜また魔族かと思ったよ!」
「いや、夕食の食材を探知してたんだ。立派な自然薯が見つかったぞ!あとなめこの大きいのが見つかった!よろこべ!」
「師匠。すごいすごいと感心いたしますが、才能の無駄使いでは…。」
ヤオとユエは心底呆れている。
「うるさいな!私は食に貪欲なんだ!」
縁はむくれている。
…ヤオ様、ユエ様、主様が食に貪欲なのはとても深い理由がおありなのです。いつか話してくださいますから、呆れずに付き合ってくださいませ。…
ヤオとユエにウスハから思念共有が送られてくる。2人は首を傾げつつも頷いた。
縁は土の魔術で、立派な自然薯を地面に露出させた。全部で3本。しばらく歩くと、立派な榎の根元にはなめこが群生している。
「ううぇ。こんなヌメヌメしたキノコ食べるの??」
ユエが嫌そうな顔をしている。ヤオも顔を顰めている。
「ユエ殿、ヤオ殿、食わず嫌いはいけませんよ。私はこのキノコが大好きなのです!」
影の中から、黒曜の声が聞こえた。
「「ええ?!!」」
2人の声が重なる。
「黒曜様はこれがお好きなのですか??」
ヤオが尋ねる。
「私も好きだぞ〜。あの出汁の染みたヌメヌメこりこりが美味しいんだ。」
黒曜の代わりに白曜が答えた。
2人は別の意味で唾を飲んだ。
「ま、ふたりが魚を採ってくれなきゃ話にならないけどな!」
縁はニヤニヤしながら言った。
すったもんだがありながら、山を下ること2時間。視界が開け、小川に出た。縁は手元のデバイスで時間を確認する。16:35。ついでに天気予報も確認する。この先数日は雨の予報はない。(縁のデバイスは超科学文明の名残…アーティファクトだ。現在でも衛星と直通回線を結んでいる。)
「さて、2人とも。川に出た。これからは気配探知をやってもらう。手始めにそこら辺の小石を拾って、魔力を込めて淵に投げ込んでみろ。小石が水に接触した瞬間に注意するように。」
「「わかった。」」
2人は素直に石を投げ込む。
「おお!」
「なるほどね。」
2人はすぐに反応する。
「次は、魔力をまとった石が水に接触する瞬間から、水の方に魔力を向け、そのまま波紋にのせてみろ。コツは表面だけでなく、全てに波となって伝わっているということだ。」
2人は無言で次の石を投擲する。4投目で、
「…川底に魔力を感じる!」
ヤオが声を上げた。
「私も見つけた!反応が大きい!」
ユエも嬉しそうに言う。
「2人とも幸先がいいじゃないか。そのまましばらく投石しながら慣れていって、最後には自分から魔力を放出し、感知してみろ。後は適当に食べたいだけ、魚取っていいぞ〜。私は野営の準備しとくから。」
「ひゃっほぅ!!もう私石投げなくてもいけるわ!!」
ユエはだいぶテンションが高い。
「私もかなり遠くまで探知できるようになったな…。」
ヤオも張り合っている。
ーライバルがいるっていうのは、幸せなことだよ。2人とも。ー
縁は空間魔術を展開しつつ、ほんわかしたどこか懐かしい気持ちになっていた。
縁は空間魔術から、テントを3つ出していく。空間魔術に入れておけば、毎回組み立て、解体を行わずに済む。(正直、これ程の空間魔術の使い手がパーティーに1人いればチートだ。)
テーブルを出し、人数分の食器、まな板と、出刃包丁を出す。米の入った袋を取り出し、計量カップで一升をザルにとる。あと、長ネギとセリと四方竹、生姜を出す。もちろんなめこと自然薯も。
とりあえずヤオとユエの下流で、米を研ぐ。さりげなく縁も気配探知を行うと、かなり良形のチャイナトラウトがいることがわかった。
ー晩ごはんは、、塩焼きと、つみれ汁と、四方竹の炊き込みご飯かな〜♪♪♪ー
縁は焚き火を起こし、鉄の網を置いた。四方竹は皮を剥ぎ、斜めに切っておく。事前に作っておいた昆布とカツオの出汁を、大きな土鍋に入れた米と四方竹に注いでいく。薄口醤油をふた回し、塩を少々。後は火力を注意深く観察する。
「採れたよ〜!!!私は大きいのが5匹、中くらいのは20匹!」
「師匠!私は大きいのを3匹、中くらいのは38匹採りましたよ!」
ユエとヤオが両手に大量の魚を持ってきた。
「2人とも大量だな!!チャイナトラウトか。小さいのは採らなかったのは偉いぞ。よく分かっているじゃないか。」
「余計な殺生はしない。これは厳しく躾られた。」
ユエは得意そうに言う。
「じゃあお前たちは中くらいの分を、ナイフで内臓をとって、枝に刺して焚き火で焼いてくれ。鰭にはしっかり塩をしろよ。内臓はゴミ袋な。大きいのは私が使う。」
縁は塩の壺とゴミ袋を交換に、50cmはあるチャイナトラウト8匹を受け取った。
2人が塩焼きの準備をしている間、縁はつみれ汁の準備をする。寸胴鍋を出し、先程の出汁を入れる。まな板の上で長ネギを小さく刻み、チャイナトラウトを手際よく捌いていく。
ー今日は3匹使ったら十分かな〜。ー
アラは今度使う。痕跡は残さない。3人とも、追われている事を忘れてはならない。(昨夜の夜営の後も、できる限り消してある。)
さて、皮をはいだチャイナトラウトを小さくカットしていく。ミキサーを出し、入れられるだけ入れていく。そしてもう1本出刃包丁を取り出し、入らなかった身を粗く叩いていく。そうしてなめらかな身と、粗めに叩かれた身をボールで一緒にする。そこに刻んだ長ネギとすりおろした生姜を入れる。塩胡椒と片栗粉を適宜。すり鉢ですりおろした自然薯も適量入れる。卵白を4つ分。そして手の熱が伝わらない内に、よく混ぜる。寸胴の出汁がふつふつとしてきたら、手際よくつみれを入れていく。数が多いので結構な重労働である。
「「終わりました〜。」」
ちょうどヤオとユエが自分たちの仕事を終えてきた。縁は慌てて、
「ヤオ、その土鍋を火からあげてくれ!ユエ、これを手早く団子にして鍋に入れろ。手の洗浄を忘れるなよ!」
これ幸いと2人を使った。ついでに、ヤオに鍋つかみを空間から投げた。2人は指示通りに迅速に動く。縁とユエ、2人がかりであっという間につみれを汁に入れることが出来た。縁はセリを食べやすく切り、なめこの石づきをのけ、軽くゆすいで全て鍋に入れる。縁は、つみれから出るアクを取りながら、2人に問いかける。
「随分と探知が達者になったようだが、空間に応用することはすぐに可能か?人間では、まずこれだけ短時間に上達することは無いんだがな…。」
「実際に今気配探知を使ってみているが、それなりに使えている。まだ距離はそれほど伸びていない。正確なのは半径70m程だ。」
ヤオは顎に手をやり答える。
「私もだいたいそれくらいかな。水の中はその中だけを見ればよかったけど、空間になると3次元的になるから情報量が多いね。それが課題かな。」
ユエは髪をいじりながら答えた。
「いや、2人ともこの数時間でそこまでできるとは思わなかった。後はもう反復練習のみだ。数こなすしか上達はない。頑張ったあとのご飯は美味しいぞ〜!あと少しだから、座って休憩してろ。」
縁は2人の潜在能力に感嘆した。
ーさすが、陰陽の化身。ただの蛟では、ああは上達せんだろう。今後が楽しみだ。ー
そして縁は、つみれ汁を醤油味にすべきか、味噌味にすべきかしばらく迷った末、
―冷えた体にはコクのある味がいい。土のものとの相性もバツグンだ。―
豆味噌で味をつけることに決めた。
「全員集合!!ご飯の時間だぞ~。今日は出来合いのものじゃなくて、作ったばっかりだ!」
「「「「「おお〜〜〜」」」」」
使役獣達も喜びの声をあげる。
「あら?主よ。今日は炊き込みご飯があるのですか?」
黒曜が声をかける。
「そうだよ。四方竹の炊き込みご飯だ。食べにくいだろうし、みんな人化してもいいぞ~」
「「え?人化?!」」
固まっているヤオとユエをしりめに、使役獣達は次々と人化していく。白曜はウェーブがかかった白髪の青年に、黒曜は黒髪の女性に。ウスハとアオイは、それぞれの羽の色の衣を纏った女性に変わった。稲ちゃんはショートカットの男の子だ。
「なんだ、若輩のお前らだって本当は蛇なんだから、私たちも人の形になるくらいどうということはない。」
白曜がバカにしたように言った。
「そ、そうだねぇ~。」
とユエの目が泳ぐ。
ーなんか、この一行、美男美女おおすぎか?!めちゃくちゃ目立つ!!稲ちゃん、か、かわいい♡。ー
なんてことを、彼女は考えているのだった。
「お前ら早くしろ。飯が冷める!」
縁は全員が座ったところを見計らい、
「合掌。いただきます。」
と言った。使役達もこれに習う。ヤオとユエもキョロキョロしながら、手を合わせ、
「「いただきます!」」
と言った。
まず、皮目がパリパリに焼けた塩焼きにパクつく。
「おいし~~~!」
ユエの1口1口が大きい。
「主様!このつみれ汁!大変美味しゅうございます!!!」
アオイが興奮した様子で伝える。
「そうかそうか!トラウト系の魚はつみれ汁にしたことはなかったがな、川の側での野営だから体も冷えるし。上手くいってよかった。」
縁はホッとしたように答えた。
ー蝶がつみれ汁ね…ー
と誰かが思ったのはご愛嬌。
「このご飯美味しいな。タケノコの食感が良い。つみれ汁の、なめことかいうキノコも存外悪くないな。」
ヤオが真面目そうに言った。
「このつみれ、弾力とホロっとしたところの塩梅が絶妙なバランスだよ〜!。香りのあるセリとなめこが完璧なハーモニー、この味噌の味は初めてだけどホッコリする!!!」
ユエはずっと興奮している。
「このタケノコは秋に取れるものなんだ。なめこも気に入ってくれたようで良かった。」
縁は空間魔術から銀紙に包まれた塊を取りだし、小さなナイフで中身を切ってつみれ汁に入れた。
「味噌にはバターが合うんだよな〜。2人とも試してみたかったらやってみな。」
縁はバターをとかしたつみれ汁をすする。そして心から嬉しそうに笑った。その様子を見て、黒曜がヤオとユエに、そっと思念共有を行う。
…主は2人のストレスを少しでも和らげようとしているのです。決して口には出しませんが、その気持ちをどうか汲み取ってあげてくださいね。…
2人は一瞬手を止め、そのまま食べ続けた。
―我らの師匠は案外優しい人なのかもな。ー
ヤオがユエに思考共有を行う。
―確かに。初めて会った時は、なかなか恐ろしい人だと思ったし、魔族戦の時も冷酷だった。でも私たちにはとても親切。使役獣たちの信頼も厚い。―
ユエが応じる。
―だがどうして、極東の島国である日本から、わざわざ我らに合いに来たのかはよく分からん。悠淵の里で改めて聞くべきだろうな。―
ヤオの困惑が顔に出ている。ユエは溜息をつきながら、
―ヤオ、顔にでてるよ。まぁいいじゃない。まだ里に着くまで何日かある。いつでも聞けるさ。―
つみれ汁をすすった。
豪華な食事が済んだあと、光の玉を空中に浮かべながら川でササッと食器を洗う。串は薪にくべる。使役獣達も元の姿に戻り、白曜と黒曜は警戒の任務にあたっている。
「ヤオ、ユエ、2人はそれぞれカーキ色のテントを使いな。空間魔術がかかってるから、中は広いしベッドもある。なかなか快適だぞ〜。」
縁は2人をテントに案内する。
「師匠の空間魔術、チートすぎてもはや驚く暇がないや。」
「同じく。野営でベッドが使えるテントなんて、ほかの冒険者がみたら奪いに来るに決まってます。」
ヤオもユエももはや驚くことをやめている。
「そこは、隠匿の魔法で地味なテントにしか見えないようになってるだろ?しかもこれは魔物よけの魔術もかけてある。使えるものはじゃんじゃん使う!これ鉄則な!」
縁は胸を張って言った。
「稲ちゃんを除く使役たち、今晩の見張りを順番に頼む。私も今日は戦闘で疲れた。ゆっくり休みたい。白曜と黒曜は出突っ張りだが、大丈夫か?」
「大丈夫です。主よ。彼らと共によくお眠り下さい。」
白曜が丁寧に頭を下げた。
「うむ。」
縁は白曜と黒曜の頭をなでてやる。ついでに夜食にグリーンベアーの肉の塊を、大きな皿に入れてやった。蝶達にはれんげの蜜を机の上に置いておく。
「さて、寝るか〜。その前に体を浄めないとな。」
縁の全身を黄緑色の炎が包んだ。これは冒険者なら誰もができる初歩魔術。『浄めの炎』。これで風呂に入らずとも、体を清潔に維持できる。ヤオとユエもそれぞれ黄緑色の炎を纏っている。縁はデバイスを確認する。21:58。明日はゆっくり8:00頃に起きるとしよう。
「ヤオ、ユエ、明日はまた適当な時間に起こしてやるから、ゆっくり眠ってくれ。私も寝る。みんな、おやすみ。」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、、おやすみなさい。」
「師匠!晩ごはん、本当においしかった。明日も楽しみにしてる!おやすみ〜。」
ヤオとユエはそれぞれ応答し、テントに入っていった。縁も自分のテントのベッドで横になる。
―つっかれた~。魔族がもう来るなんて、想定外もいいところだよ。すんでのところだったから、日本からかっ飛ばしてきたかいがあったけど。追ってを潰したから日にちは稼げるはず、問題は悠淵でどんな扱いを受けるかだ…ま、考えても仕方ない。寝よう。―
縁の睡眠は直に深いものかわった。
目まぐるしい一日がやっと静けさを取り戻した。
本日は映画を見に行っていたため、遅くなりました。すいません。




