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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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49/63

第49話ー急転直下ー

残虐行為、暴力表現あり

苦手な人は注意してください。

「すごい体験でした…。」

白曜の背につかまるヤンガがつぶやく。

「ほんと、青くて、喋るワイバーンに、出産、というか難産に…盛りだくさんね。」

黒曜の背でユエが言う。

「師匠は毎回こんなトラブルに??」

銀髪をなびかせて、ヤオが無邪気に聞く。

「いやぁ…さすがにこんなにトラブルにあいまくってたら…前に進めるわけねーだろ!」

縁がうんざりした顔で突っ込む。

「このまま歩いて行ってたら瑠璃鎮(ルリチン)まで、何日かかるでしょうね!」

黒曜が主を茶化す。

「あははははは!それ言えてる。トラブルだらけで琉球行くのがいつになるやら!」

ユエも乗っかって茶化す。

「あーもう!もう移動は白曜と黒曜に頼る!誰か困っている人がいない限り、瑠璃鎮に直行だ!」

縁はヤケになって言った。

「困っている人ねぇ?すっごいフラグだわ!」

ユエはやれやれといったポーズだ。縁は空間術式からビックホーンディアーの串焼きと、たまごサンドを取り出して食べる。

ーあ、泊り賃のオーク、忘れてた。けど、ギガント・タスクがあればいいか〜、うっかりううっかり!ー

縁はすっかり忘れていた自分にポカリと頭を叩いた。


空を飛ぶと、あおあおとした森林と、白くそびえ立つ崖が目を楽しませる。

「風が気持ちいいな。」

ヤオが嬉しそうに言う。気配探知はちゃんとしているが、白曜と黒曜の気配に逃げていくばかりで、特に注意するべきものがないのである。しかも驚くべきスピードで飛翔している。なんで歩いて旅をしていたのか、バカと言いたくなる便利さである。

そうこうするうちに、大きな街道に出た。

「この道を東に行けば、瑠璃鎮だ!」


縁は目を細めて言う。そしてついでに嫌なものが目に入る。

「師匠!集団の人間が馬車を襲ってます!」

「同じく!恐らく盗賊です!」

「あー見えてる見えてる。大好きなトラブル発生だぞ。みんな、今度の相手は人間だ。気をつけていくぞ!」


「「「了解!」」」

「その荷物全部置いてけ!!!女もだ!!」

「ギャハハハハハハ!殺せっ!男は全部殺しておけ!」

ゲスな男の声に、

「い、命だけはお助けを…」

商隊を率いる男が命乞いをする。

「おまえら、荷馬車ごと奪うぞ!抜かるなよ!」

「嫌!いやぁあ!助けて!」

怒号が飛び交う。

ーーそこに。

「全員動くな!特に盗賊のクソども!動けば脳天を貫く!」

空から4人の人物が降ってきた。

「ユエ!やれ!」

「シャドウ・ガーデン」

ユエが陰の気で煙幕をはる。その闇の間から、

「バキッ!ドコッ!!」

「パシュッ!パシュッ!」

「ブラック・ニードル!ウォーター・ウィップ!」

と音がする。

「ヒヒヒーーーン!ヒヒン!ヒヒン!」

馬のいななく声が激しい。

ユエの放った煙が風にはけると、7人の男が所々血を流しながら、道に転がっていた。

「殺したか?」

縁は3人に聞く。

「一応殺してません。」

代表してヤオが答える。

「うむ。上々だな。この糞共を一所へ集めろ!」

縁は腕を組む。


「くそっ、なんなんだおめぇ!」

口のうるさいやつがいる。縁はそいつの腹を容赦なく蹴りあげた。

「ゲフッ!!!!」

「おい。お前らのリーダーは誰だ?」

「俺じゃない!お、俺だけは助けてくれ!お願いだ!!」

「お、お頭俺らを売るんすか!?!」

「ーー黙れ。」

馬鹿な言い争いを続ける奴らに、縁の濃厚な殺気が襲う。

「ヒュッ!!」

盗賊たちの息が詰まる。


「ヤオ、ユエ、ヤンガ、私の真似をしながらこいつらを見てみろ。」

「「??」」

「狐の窓という。これが割と便利なんだよ。」

縁は狐の形を指で作り、左手のキツネを逆さまにして、右手の隙間に差し込む。左右の人差し指と小指が交差し、真ん中に小さな菱形の「窓」ができれば完成だ。ヤオとユエ、ヤンガは半信半疑で試す。

「「「つっっ!!!」」」

3人は息を飲んだ。7人の男の周りには灰色の男や、女、泣きじゃくる子供の姿が見える。何人も何人も…。

…恨めしぃ、なぜ死ななければならなかったのか!!!…

…おかあさん!おかーさーん!…

…汚い、嫌だ、犯されたくない、嫌だ嫌だ嫌だ!!!!…

亡者たちの声なき声が、3人を襲う。思わずヤンガは狐の目を解いてしまった。

「はぁはぁはぁ!!この鬼畜が!!!」

ヤンガはカッと目を開き、怒鳴った。ヤンガの影が蛟の姿になっている。

「ヤンガ、抑えろ。」

縁はヤンガの肩に手を置く。

「お前らなかなか業を背負ってるじゃないか。随分なご稼業だな。」

縁は目をらんらんと光らせながら言った。

「ユエ、商隊のリーダーは生きているか?」

「い、いるわよ。呼んでくるわ。」

ユエは若干気押されながら、行動を移す。

「わ、私が商隊のリーダーです!」

40代程の男が出てくる。

「お前たち、死者はいないか?取られたものは?」

縁は淡々と聞く。

「死者は、御者が1人…。取られたものはまだないと思います。」

商隊のリーダーは冷や汗をかきながら答えた。

「そうか。遅かったか…。」

縁は悔しそうに言う。

「師匠、あの灰色の者たちは…。」

ヤオが珍しく動揺しながら言う。

「あれは、あいつらに殺されたもの達の霊さ。相当殺してるなこいつら。」

縁は拳を握りしめる。


「商隊のリーダー、お前名前は?」

暁東(シャオドン)といいます。その、御者は叔父です。あと、そいつらの名前は、"砕骨流沙サイコツリュウサ)"、指名手配犯です。首領の顔の3本傷よく覚えています。名前は振炎(ジェンイエン)とか。生き死には問わぬと…。」

懐から指名手配犯のチラシを出す。縁は丁寧に受け取りながら、

ー暁東は嘘は言っていない。生き死には問わぬか…。ー

「ヤオ、ユエ、ヤンガ。お前たちに仕事だ。」

縁の言葉に弟子3人はにわかに緊張する。

「このクソッタレどもを、全員殺せ。初めの試練だ。無理ならしなくていい。やれるか。」

縁の声はあくまでも冷徹だった。

「いい機会だ。私が手本を見せよう。」

縁は腰の肥前忠広を抜き放つ。そして、

「ひぃぃぃ!」

と脱糞しながら後ずさる、首領の元に刃をピタッと当てた。

「お前がいちばん殺してるな。我が刀の血肉となり、未来永劫攻め苛まれるがいい!血桜一刀!」

と一刀両断、唐竹割りにした。縁の頬に血飛沫が散り、首領は、血や内臓を撒き散らしながら倒れた。そしてその亡骸は肥前忠広に、黒い塵となって吸い込まれていく。血桜の呪いとともに。

ーそう、長きに渡る軍属時代でも、同じ順序、同じ手順。そうやって縁は人の命を守るために奪ってきたのだった。命を。ー

「うっっ。」

初めての凄惨な場面にヤンガが口を抑えるが、怒りの力で耐える。

「やるか。」

「ええ。」

ヤオとユエは覚悟の決まった声を出して進む。

「ひいいぃ!助けてくれ!心入れ変えるから、たすけてくれぇぇー!…」

「煩い。このクソゴミが。私は許さないわよ。」

ユエの影が2人の男の喉を噛み裂く。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁー!!」

血飛沫とともに断末魔の声が響く。

「楽に死ねると思うなよ。」

ヤオのこめかみに青筋が浮いている。

「兄ちゃん、話し合おうぜ?な?助けてくれよぉ?」

バキッ!ヤオの寸勁・穿内崩(センナイホウ)が炸裂する。

「え?、がゃぎゃぎぁあああ!」

穿内崩がいちばん残酷と言えた。見た目には何もないのに、内臓は全て破裂しているのだから。口から血を吐きながらのたうち回る男。そうやってヤオは2人を殺めた。

最後はヤンガだ。ヤンガは2人のように戦闘なれしていない。ガクガクと震え、額に脂汗が浮かんでいる。

「俺はできる。俺は…できる。弱虫じゃない。弱虫じゃない!!」

ブツブツとつぶやく。見かねたユエが声をかけようとするのを、縁が止める。

「兄ちゃん、優しいんだろ?助けてくれるよな?な?」

「兄ちゃんは、他のふたりと違うよな?!な?!」

ご機嫌を取るような粘っこい男の声がする。

フッとヤンガの声がやんだ。

「エア・スラッシュ!!!」

2人の男の首が宙を待った。血飛沫がビューーーと吹き出す。ヤンガはまともにその血を受け、血みどろになる。

「ううっおえっ!おおおえぇっ!!」

そこで初めて正気に戻ったヤンガは、吐いた。何度もえづく。頬を涙が伝う。

「これが人の命を奪うという、重みだ。決して忘れるな。」

縁は弟子3人に、なんの感情も載っていない声で言った。


縁たちが血みどろの制裁を加えたあと、その場には日常が戻ってきた。

子軒(ズーシュエン)叔父さん!おじさん!うううううう。」

暁東達が御者座からずり落ち、胸に矢を受けた男を取り囲み、涙を流している。それを呆然とした表情で見つめる女性が1人。

「暁東さん、来るのが遅くなって悪かった。盗賊共は全員始末した。安心して欲しい。」

縁は血を拭いながら近づいていく。弟子3人はまだ、空を見たり、深呼吸をしたり、地に伏していたり、様々である。

「ありがとうございます。高名な冒険者様とお見受けします。なんとお礼を申し上げたらよろしいか…謝礼の方もお支払いいたします。」

暁東は涙を拭いながら言った。「お前が遅かったせいで叔父が死んだ!」と言わず謝礼の話をするあたり、賢く善良な商売人である。縁は、

「すまないな。間に合わなかったのに、謝礼は相場より低くていいからな。ところでここから瑠璃鎮(ルリチン)までどのくらいだ?」

右手を差し出しながら聞く。暁東も右手を差し出して、

「1泊といったところでしょうか。私たちもそれくらいの距離でしたので、護衛を雇わなかったのです。まさか、砕骨流砂に出会うなんて…。」

と握手を交わす。

「それぐらいの距離なら私たちが護衛しよう。私たちも瑠璃鎮に向かうところだったんだ。」

縁は気軽に言った。

「あ、これ私の冒険者カードだ。あとの3人はまだ冒険者になってないから、瑠璃鎮で登録しようと思っている。」

「はい、頂戴します。…エス…Sランク?なんと!Sランク冒険者だったのですね。縁様。道理で弟子の皆さんもお強いわけだ。しかし私にはSランク冒険者を雇うだけの私財はございませんよ?!」

暁東は恐縮しきって言う。

「弟子はまだ冒険者じゃないからな。それでうまく釣り合う。とにかく私の弟子たちは今日初めて殺人を犯したんだ。暫くは精神が不安定になる。その上での護衛だから、格安さ。」

縁は暁東の肩を叩いて、含ませるように言った。暁東は納得が言ったように、

「分かりました。ではこれから瑠璃鎮までの護衛、よろしくお願いします。」

と頭を下げたのだった。

「ヤオ、ユエ、ヤンガ、大丈夫か?」

縁はしばらく放って置きっぱなしだった、弟子たちの元へ行く。ヤオとユエは思ったより普通の表情だ。だがユエが手の震えを隠していくのは分かるし、ヤオもしきりに空の青さを確かめている。ヤンガだけ、青白い顔をしているが、気丈にも前を向いている。

「大丈夫です。師匠。この死体を焼いてしまいましょう。ゾンビやスケルトンになったらまずいですから。」

ヤオが極めて冷静に言った。

「そうだな。私が始末しておく。これより瑠璃鎮まで1泊ほど、この商隊を護衛することになった。あっちに、暁東さんというリーダーがいるから挨拶してこい。」

縁は3人に言った。そして弟子3人は1人の死者と、泣き叫ぶ子軒の妻であろう女性とを知り、なんとも言えない無力さに苛まれるのだった。


死体の転がる草むらに、縁は鞘・血桜より抜きはなった肥前忠広をかかげると、

「このものらの業と共に、魂を喰らい尽くせ!泣け!肥前忠広!」

と叫んだ。刀身からじわじわと血が滴り、草むらの死体は黒い霧となって、紅い刀身に吸い込まれていく。これが命を顧みなかった、砕骨流砂の最後だった。



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