第45話ー難産ー
縁はヤオとユエに命じる。
「ヤオ、ユエ、少しずつ陰陽の循環のスピードを上げろ。私は不足した"気"を補う。そうしたらアオバの陣痛が強くなる。もうそうなったら、いきませて産ませるしかない。命がかかってる。覚悟してやるんだ!」
「「はい!」」
ヤオとユエは声を揃えて、手からそれぞれの力を込める。
「ヤンガ、繊細な魔力調整で縛れよ。お前が力んだらダメだぞ。」
縁はヤンガにも声をかける。
「了解です!任せてください。慣れてますから!」
ヤンガは意外なことを言う。
「母は産婆として人里にいたことがあるんですよ。また話します。」
衝撃の事実だったが今はそれどころではない。
縁は少しずつ"気"を送り込んでいく。自分の両手が温かみを持つ。
「ウウウウ!グルルルルルゥ!!!!」
途端にアオバが苦しみ出す。羽を広げそうになるのをヤンガが柔らかく包む。
「さぁいきめ!いきむんだ!アオバ!」
縁が声をかける。すると、アオバの腟からしっぽと後脚が出てくる。
「師匠!逆子です!これでは補助なしでは産まれません!」
ヤンガが半ば悲鳴が混じったような声で伝える。
「稲ちゃん!私と変われ!ウスハと共に慎重に"気"を送りこめ!」
縁は小竜の取り上げ役となるため、稲ちゃんと交代する。
「がってん承知の助!」
稲ちゃんは待ってましたとばかりに、人化し"気"を送り込む。
縁は出てきた小竜を引っ張る。前脚が見え始めた。そこで縁はふと違和感を抱く。なんの根拠もない、野性的な"勘"。
ーーー突然縁は産道に片腕をつっこみ、小竜の首の辺りを触った。
ーやっぱり!へその緒が首に巻きついてやがる!!!ー
首に巻き付く、母と子を繋ぐ生命線、今は凶器と化していた。
「今いきむな!アオバ!少し耐えろ!少しでいい!」
「ハーーッ!!グルルルルルル!!!」
アオバは言葉にならない悲鳴をあげる。少し弱まった締め付けの間に、縁は片手でへその緒を正しい位置へと戻す。
「よし!いきめ!最後のひと踏ん張りだッ!」
縁が叫ぶ。見ればヤオとユエの顔から、汗が滴っている。
「イキメッ!アオバ!」
父親となるワイバーンの声が、アオバを奮い立たせる。
「グルルルルルルルルル!!」
ーズルッ!!!ー
小竜は何とか母親の体内から出てきた。
だが小竜は鳴かない。
「ー羊水を飲んでるっ!」
縁は躊躇いなく小竜の口に自分の口を当て、羊水を吸い出す。アオバが満身創痍ながら、我が子の心臓を押す。
ーー長い時に感じた、数分、
ウロに伝わってきた水滴が、ピチョン、ピチョンと響く。
「ギャピィ!!!ピィピィ!!」
「鳴いた!」
ヤンガが涙を浮かべて叫ぶ。
「オレノコ!ウマレタ!アオバモシナナカッタ!」
晴れて父親となった青いワイバーンは、人と同じように涙を流し喜びの声を上げた。
「ヤオ、ユエ、辛いだろうがあと1時間は陰陽の気を回し続けろ。整えるつもりでやるんだ。出力は高くなくていい。私も不足した"気"を送り込む。後産があるからな。」
縁は稲ちゃんと交代しながら言った。アオバはまだ荒い息をついているが、我が子を丁寧に舐めてやっている。
「さて、父親となったお前の名前、聞いてなかったな。なんて言うんだ?」
縁は青いワイバーンに聞く。
「オレノナマエ?オレ、コンザ。アオバホド、ウマクコトバ、デキナイ。スマナイ。」
父親はコンザ という名前らしい。
「もしかして姉さん女房か?良い妻を持ったな。」
縁は"気"を流し込みながらいう言う。
「アオバ、ツマニスルタメ、オレガンバッタ。キヅクト、アオクナッテタ。オレノコ、モトモトアオイ。キットツヨイ。」
縁は、表情は分からないが、きっとコンザは笑顔を浮かべていると思った。
「皆さん!浄めの炎で、血やらなんやら燃やしますよ。後産は後産で燃やしますから。行きますよ〜。」
アオイが大規模な浄めの炎で汚れを浄化する。
「あ〜 すーっとして気持ちがいい。」
とヤオ。
「 こんな難産、アオバはよく頑張ったよ。」
とユエ。全員が力を出し切り、小竜の元気な声だけが響く。
「ーー出産はどうなってる?」
しばらくして、ウロの入口から、白曜が様子を見に来た。
「すごい難産だった…。」
近くにいたヤンガが返事をする。
「主は?」
「まだ母体に付きっきりです。このワイバーンは希少種でネームドです。希少性が高すぎて価値は計り知れません。誰にも知られないといいのですが…。」
「あいにくそんなに世の中上手くいくことはない。入口で5人組の地走り(希少モンスター、主に竜騎士のためのワイバーンの卵などを狙う猟師)のパーティーを捕らえている。主に裁決してもらわねば。」
「な、なんだって!」
激しく動揺するヤンガ。
…聞こえたぞ。まだ1時間かかるから、そいつらはまぁ、ウロの入口で、他のワイバーンからよく見える位置に晒しておけ。スリリングな体験をしてもらおう。…
縁は心底不愉快そうに思考共有で伝えた。
「…強き者よ。名前を聞いていなかった。なんと言う名なのか?」
アオバが改まって聞く。
「私は縁。お前の陰陽の気を整えていたのが、白い方がヤオ、黒い方がユエ。体を縛っていたのがヤンガだ。悠淵の螭の一族のものだ。」
縁は微笑みながら言った。
「縁殿、人の形あって人でないもの。あなたはなんだ?」
アオバは言葉を紡ぐ。
「私は生まれが特別なのさ。人の体内で生まれなかった。人に近いバケモノだと考えたら簡単だ。」
縁は悲しそうに微笑む。
「バケモノは心を持たない。縁殿。この度は誠に感謝する。」
アオバは頭を下げた。
「それを言うならSランクモンスターに、何とか助けを求めようとしたコンザに言ってやれ。まぁ私達一行の使役獣でよかったけどな。」
と縁はおどけて言った。
「ほんと、話の通じるSランクモンスターで良かったですよ。下手したらパクッ!ですからね。」
ヤオが陽の気を回しながら話しかける。
「しかも、師匠の使役獣だったのが天命を分けたわね。ゴンザさんは運がいいわ。しかもヤンガも産婆の息子で知識があったし、何より師匠がいた!師匠、よくへその緒のこと分かりましたね!」
ユエが興奮して言う。
「もう勘だよ。あんなのエコーもなしで分かるわけあるか!なんか変な感じがしてな。もう逆子だしほんっっと難産だった。」
縁は笑いながら言った。
「話には聞いていましたが、こんなに辛いとは思っていませんでした。」
アオバがシュンとして言う。
「アオバ、アオバの出産は珍しいほど難産だったんだ。気にする事はないさ。」
縁はアオバを励ました。
そして、黙っていた大事なことを聞く。
「アオバ、コンザ、お前の子を狙って人間が来ていた。どうする?殺すか?」
「なんですって?」
「グルルルル!!!」
アオバとコンザは一気に殺気立つ。
しかしアオバはフーッと息を吐いた。
「我らの巣を見つけられたのは痛い。しかし捉えたのは縁殿たち。しかも人間。縁殿たちにおまかせしても宜しいですか?」
と冷静に答えた。縁は考える。
ー地走りとて、ただモンスターを生きたまま捉える仕事なだけ。むやみに殺すのは不味い。制約の魔法で縛るか。ー
「わかった。アオバの配慮に感謝する。人の世界には人の制約がある。私に任せてもらおう。あと少し、"気”をいれるぞ。」
縁は真剣に手当てを行いながら、地走りの裁量をどうするか考えていた。




