第42話ー昼食(メシウマ回)ー
血抜きはそれなりにかかった。寸勁という血の出ない攻撃であり、頸動脈からのみの出血だったからである。
その間縁は考えた。
ーこのままどんどんモンスターに遭遇させて経験を積ませるか、いや、このペースでモンスターに遭遇していては街に着くまでいつまでかかるやら…。よし、ここは白曜と黒曜の隠遁をやめて、Sランク相当の気配をビンビンに出してもらうか…。ー
と方針転換をする。
「白曜、黒曜、きてくれ。」
「「はい、主。」」
ヤンガの影からしゅるりと縁の前に現れる。
「思ったよりモンスターが多い。隠遁せず、気配を消さずヤンガの背後を守れ。」
縁は2頭に言った。
「なるほど。魔物よけですね。」
白曜が言う。
「まぁ言ってしまえばそうなる。悪いな。逆に、それに逆らってきたやつがいたら面白いことになるぞ。」
縁はニヤニヤしながら二頭を撫でる。
「主よ、若人もおります。我らを無視して向かってくる者があれば相当なことです。」
黒曜が溜息をつきながら、鼻面を押し付ける。
「私がいるから大丈夫さ。問題ない。」
縁は自信満々である。
「みんな、聞いてくれ。このままだとモンスターに時間を割かれて前に進めない。そこで、Sランク相当の白曜と黒曜が消していた気配を”解く”。こうすると魔物は強者の気配を感じて逃げていく。まぁ知能の低いものは無理だが。逆にこれでも向かってくるものがいれば…、気を引き締めろよ。」
縁は不敵な笑みを浮かべた。
「なるほど、白曜様と黒曜様が露払いをしてくださるということで…。というかSランク相当なんですね…わかってましたからもう驚きませんよ…」
ヤオが力無く二頭を見つめる。
「…うん。Sランク相当だよね、わかってた。わかってたけどーー!!いざ言われてみるとなんか!なんか強さのインフレ!」
とユエ。
「え?!Sランク相当?!!ブクブクブク…。」
と、泡を吹いて意識を失うヤンガ。
「アハハハハ!ウケるぅ!ヤンガ泡吹いて失神しちゃったよ。はいはい、ヤンガ起きて起きて〜」
ユエがヤンガの背中をバンバン叩く。
「はっ!!」
ヤンガの手放した意識が戻ってくる。が、
「なんでみなさんSランクの魔獣がいて普通なんですかーーーー!!」
と上を向いて叫んだ。縁は、
「あ、そっか、私の冒険者ランクとか知らないんだっけこの子。」
と縁は冒険者カードを見せる。
「スゥリィーエスウウウゥーーー?!!ブクブクブク…」
また泡を吹くヤンガ。今度はヤオが軽く寸勁で陽気を当てる。
「ぶふっ。はぁはぁ、もう何があっても驚かない。何回失神すればいいんだ!」
ヤンガは叫んだ。
「ちなみに姿を見せてないけど、アオイとウスハ、稲ちゃんもSランク相当だからね。アオイとウスハは神性持ちだからね〜。」
縁は誰も知らなかったことをしれぇっと言う。
「し、神性………驚かない驚かない…。」
「「は?神性」」
これにはヤオとユエも驚く。縁は、
「まぁ色々あるんだよ。長生きだとさ。」
とやれやれといったポーズだ。
「さて、行くぞ。細かいことは気にしない!!ハイハイ!」
オーク5頭を空間術式に放り込んで縁は言った。
進むパーティーのヤンガの後方に、白曜と黒曜がいる。ヤオとユエの気配探知を行っているが、モンスターは何も引っかからない。
「流石ですね。何も反応がありません。」
ヤオが言う。
「ここまで居ないと逆に異様だね〜。」
とユエ。
「触らぬ神に祟りなしってね。」
縁は爪楊枝を噛んでいる。スムーズに一行は進んでいく。
あっという間に太陽は中点をすぎる。縁のデバイスでは12:30すぎ。前にも述べたが、縁は食に貪欲である。縁はちょうど川に出たところで、
「はい!きゅうけーい。昼食だよ〜。」
と縁は言った。
「大変お腹が減りました!」
「お腹減ったぁ〜。」
「僕もお腹が減りました!昼食は師匠が作られるとの事で楽しみです。」
弟子3人はウキウキだ。縁は大きな弁当を空間術式から出す。それぞれ、”ヤオ”、”ユエ”、”ヤンガ”と付箋が着いている。縁はそのまま渡す。
「ジャパニーズ、弁当だ。」
そして割り箸も渡した。
「なんで付箋が書いてあるんです?」
ヤオが聞く。縁は、
「まぁ、中身の問題だよ。開けてみな。」
と一言。みなが弁当の蓋を開ける。パカり。
「「「わーー!」」」
中身は巨大なだし巻き玉子と、沢庵と、唐揚げ、ご飯。黄色づくしである。
「卵焼き、食べてみて。」
それぞれが食べる。
「美味しい。でもなんで付箋?なんか意味あった?」
ユエが頭を傾げる。
「じゃあヤオと交換して食べてみ。」
「「はぁ?」」
ヤオとユエが弁当を交換してひとくち、
「甘い!」
「しょっぱいじゃん!」
と答えた。
「だし巻き玉子って家によって、味が全く違うからな。事前に母君に聞いておいたんだ。ちなみにヤンガはしょっぱいだ。」
縁は鼻高々という。
「出汁がじゅわ〜ってなって最高だ!」
ヤオは卵とご飯のマリアージュを楽しんでいる。
「家の味を聞けたのはあんまりないんだが、まぁ母の味を思い出したくなる時もあるからな。」
縁は優しく言った。
「師匠のは甘いんですか?しょっぱいんですか?」
とヤンガが聞く。
「私はしょっぱいだよ。色んな意味でな。」
縁は出汁を味わいながら返事をした。
ワイワイとした昼食の時間に、今朝別れた母の味に舌鼓をうっていた。




