第40話ー旅の始まりー
統合歴5033年10月15日の朝。
悠淵の里の入口には荷物を背負った4人と白曜をはじめとする使役獣達の姿と、ヤオやユエ、ヤンガの家族達の姿がある。もちろん里長の婆様やガロの姿もある。
縁は肩に大きなツバメに似た鳥を、3羽のとまらせていた。
「ヤオ、ユエ、ヤンガ、これがお前たちの初めての使役獣だ。私は名前を付けていないから、好きに名前をつけてやるといい。」
ヤオには白い鳥を、ユエには黒い鳥を、ヤンガには瑠璃色の鳥をそれぞれ渡した。
「「「ご主人、お願いします」」」
3羽は声を揃えて言った。ヤオは、
「名前か、急に言われても思いつかないな…白い、白い…凌雲でどうだ?」
ととまらせた鳥に尋ねる。
「はい、雲を凌ぐという意味ですね。良い名を頂きました。拝命します。」
白い鳥もとい凌雲は言った。ユエは、
「あなたはほんとに真っ黒ね。冥星とかどう?真っ黒な体に光るあなたの瞳がとても綺麗。」
瞳を覗き込んで言った。
「暗闇の中に光る星、とても良い名を頂戴しました。あなたの声をどこまでも届けましょう。」
漆黒の鳥は喜びを滲ませて答えた。
最後にヤンガ。
「えーと、僕の名前はヤンガだよ。よろしく。きみの名前なんだけど、翠瑠なんでどうかな。君の羽は幸せの青い鳥のようだから。」
丁寧に自己紹介して言った。
「翠瑠ですか。幸せの青い鳥に例えていただき、光栄です。どこまでもあなたと共に。」
瑠璃色の鳥は今日から翠瑠となった。
縁は、
「皆さん、このCランクモンスターでもあるオオワタリツバメがお子さんの”声”を届けてくれます。そしてあなた方の”声”も伝えてくれます。魔力を少し込めた声を鳥たちに聞かせることで、どこまでも声を運んでくれます。」
と、微笑む。徽因と佳々(ジャージャー)、思妍は、
「声を聞ける…手紙よりもずっといいわ」
「あの鳥が来るのが今から楽しみだわ」
「声!声だなんて素敵だわ!」
と、各々反応している。
「複数の人の声も大丈夫なんですか?」
志強が縁に聞く。
「もちろん。ご家族全員の声を伝えることができますよ。腐ってもC級モンスターなので。」
縁が胸を張る。
「さて使役獣達は自分の影に入ってもらって、お前たち、しっかりと旅立ちの挨拶をしてこい。」
縁は続けて言った。そして婆様へと顔を向ける。
「結局お前の連れ合いには会えずじまいだったな、イュイ。よろしく伝えておいてくれ。」
縁は残念そうに言った。
「ええ。恩人がまた全て助けてくれたと、伝えますとも。」
婆様は胸を張る。
「そんな大仰なことは伝えなくていいよ〜。イュイ、体を労わって暮らせよ。この旅が終わったら、また会いに来るから。」
縁は困った顔で言う。婆様は
「楽しみにお待ちしておりますとも!」
と答えた後一歩下がる。
そして、
「ーー改めて、悠淵の蛟一族を代表し此度のヤオ、ユエの件、魔族の件、ヤンガの件、これからの旅の件、御礼を申し上げます。これからの旅路に祝福を差し上げたく、私の一族に伝わる秘術を縁様達に授けたいと思いまする。よろしいか?」
婆様は真剣な顔をして聞いた。
「秘術?構わないが…」
縁は戸惑いながら答えた。
「では、皆ひと所へあつまってくだされ。」
縁達がひとところに集まったのを見ると、婆様は魔石のついた杖を地面に突き立て、魔力を込めて言った。
「いきますぞっ!」
縁たちの周りにぼんやりとピンクの蓮の花が咲き始める。1輪2輪、、それはとめどなくさきつづけ、やがて黄金色の光を放ち始める。
「秘術・蓮華来福の陣ッ」
縁たちを中心にして細かい漢字の陣が煌めきたつ。それは一瞬とも永遠とも言える光。
縁たちは一面に咲く黄金の蓮を見渡した。
ーー蓮はやがて1輪1輪蕾を閉じはじめ、幻想的な光景は名残惜しく消えていった。
「あれは一体…。」
ヤオが呆然と呟く。それに答えたのは荒く息をつく婆様だった。
「はぁっはぁっ、これは私の一族に伝わる秘術。はぁっ、効果は、一生のうち普遍的に”福”と定義される出来事の、発生を、1割あげること…。」
「イュイッ!大丈夫なのか?!こんな大魔術を使うなんて…。」
縁は急いで婆様の背中をさする。
「大丈夫ですじゃ。この魔術の為に1週間精進潔斎したんですわい。旅路を祝福するのに寿命を縮めるなんぞせんわい!」
婆様は笑いながら言った。縁は、
ーはぁ、いきなりだったから驚いた。しかも効果が莫大じゃないか。無理していないはずがない…こんな粋なプレゼント受け取らないわけ、無いじゃないか。ー
と婆様の計らいに感動していた。
「はぁ。名残惜しいが、こんな入口で溜まっている訳にも行くまい。そろそろ行くぞみんな。」
縁は3人の弟子に声をかけた。
「はい。」
「うん。」
「わかりました。」
弟子たちはそれぞれ返事をする。
「「「行ってきます。」」」
3人はそれぞれの親に声をかける。
「「「行ってらっしゃい」」」
家族から名残惜しい返事が帰ってくる。
これから待ち受けるものは生易しいものではない。世界は不思議や不条理に満ちている。大地が牙を向き、嵐や荒波しぶくこともある。これから弟子3人はそれを乗り越えていかなければならない。しかし、その決意はもう胸にある。
「それでは琉球王国へむけて、出発!!」
縁は声を上げた。
縁と3人の弟子達の新たな旅の始まりである。




