第32話ー旅への備え(メシウマあり)ー
縁は朝餉をのんびりと食べたあと、婆様の元へ向かった。
デバイスは統合歴5033年9月14日となっている。
「イュイ〜おはよ〜いるか〜」
縁は扉をノックする。
「は〜い。どうぞお入りください。」
奥で婆様の声がする。縁は自分で扉を開けて中に入っていった。婆様も既に朝食をすませ、茶の準備をしていた。
「あれだけ飲んだのにピンピンしているな。さすが。」
案内された椅子に座り、縁はからかう。
「年寄りをからかいますな。あれぐらいの酒、食前酒と変わりませんよ。ほっほっほっほっ。」
婆様は頬を染めて笑った。婆様は中華式の茶器に丁寧に茶を入れ、湯を入れる。慣れた手つきに感心しながら縁は頬杖を着いた。
「なぁイュイ。私たちはまた旅に出なきゃならない。遅くてもひと月後だ。今朝、帝からの夢渡りがあられた。今度は琉球王国だそうだ。このことを2人のご両親にいつ言えばいいか悩んでいてな…。」
いつになく覇気のない縁。婆様は、
「嫌なことは先に済ませておくものですよ。どうせ旅に出るのはわかっているのですから、いつまで一緒にいられるのか具体的にわかった方が良いでしょう。」
とすっぱり言い切った。
「だよなぁ〜。さっさと今日言ってしまうか…。」
縁はげんなりした顔で茶をすすった。
「美味い…芳醇で芳しい…。」
1口啜った茶は、茶葉の深みが口いっぱいに広がり、芳醇な香りが鼻に抜けていった。思わず縁の顔も緩む。
「ほんと、イュイは婆様というか、おひいさまなんだよな〜。あれ?ところでイュイは連れ合いはどうしたんだ?まさかもう…、」
縁は何気なく聞いてしまって、オドオドしている。
「ほほほ。生きてますよ!相手は歳下でして。今陰陽の件について北京の大図書館にいますじゃ。今使いを出したところじゃて。ご心配召されるな。」
婆様は笑いながら答えた。
「よ、よかったーーー。私ぐらいの歳になると、知り合いの嫁とか旦那とか年齢がよく分かんなくなっちゃって。ごめんね。」
縁は頭を掻きながら言った。
「仕方ありませぬ。長命ゆえの性。わしも隣里の人間の年齢がわからず困ることはあることですじゃ。」
婆様も茶をすすった。
「はははは。そうだよなぁ。イュイの旦那ってどんな人なんだ?背は高い?イケメンか?出会いは?」
「いやですよ!縁様!そんな根掘り葉掘り。顔はそんなに不細工ではありませんが、細身ですじゃ。出会いは長くなりますから、またの機会に…。ふふふふ。」
「もうー、気になる!!!今から戻っても北京からここまで1ヶ月じゃ、会えるかどうか微妙じゃないか!また聞きに来るからな!」
と、縁は駄々を捏ねた。
「「ふふ、はははははは!」」
縁と婆様はふたりで笑った。
縁と婆様は午前中を和気あいあいと優雅に過ごした。
昼食を取るため、縁は客屋に戻った。朝餉で卵と鶏肉を食べたため、昼ごはんは魚が食べたい。しかも久しぶりに生の魚が食べたい。
ーんーー。今日は魚が食べたい。朝市で食べるようなピッチピチなやつが食べたい…。ー
縁は米を土鍋で炊きつつ、空間術式のソート機能で美味そうなものを探していく。
ーやっぱりイワシの刺身とイワシのなめろうにするか…なめろうは多めに作って、さんが焼きと酒のあての為に残しておこう。ー
早速脂の乗ったマイワシを取り出していく。既に腸や骨も取り除かれ、脂でテカテカとしている。縁は3匹分のマイワシの皮を剥ぎ、尻尾を切る。そして一口大に切り、皿にもっていく。
次に10匹分のマイワシの皮をはいだら細かく切り、出刃包丁で荒く叩く。小口切りにしたネギ、刻んだしょうが、ニンニク、ミョウガ、大葉を入れ混ぜ合わせていく。
次になめろう味噌を作る。小鍋に、合わせ味噌、酒、みりん、砂糖を入れて火を入れる。これは酒のアルコールが飛ぶぐらいでいい。(縁は砂糖は控えめにする。)そして常温に戻す。
イワシの叩いたものと、なめろう味噌を合わせて、軽く包丁で馴染ませる。3匹分程をくぼみのある皿に盛り付けて残りはボールに取って、空間術式いきである。
あとはテーブルに乗せていく。刺身、なめろう、空間術式に入れて置いた四方竹の若竹煮と豚汁(ブラッディボア使用)、炊きたてのご飯。
「あー美味しそう〜。豪華だぁ〜。」
縁はにへにへしながら席につく。
「いただきまーーーす!」
縁はなめろうをご飯に乗せて1口。
「うめぇ〜〜。あぁ薬味が脂とマッチして最高だぁ〜。」
天井を向いて極楽気分である。
縁は大食漢(男ではないが)なので、人より何倍も食べる。どうしてかは分からないが、ナンバーズは全員燃費が悪く、食べる時にはかなりの量食べていたので、ホムンクルスの弊害なのかもしれない。
ひたすら昼食を貪ったあと、少し膨れた下っ腹を撫でながら、縁は、
「は〜食った食った!やっぱり食べないと頭が働かないからな!」
と独りごちた。そして昼からのことを考える。
ーんーと、劉家のところに行って、周家のところに行って、話をしてくる、あと、ヤオとユエにこれからの修行方針を伝えると!一休みしてからね!ー
と、心に決まった。
午後、14時頃、縁は劉家のヤオを訪ねた。
「こんにちは〜。ヤオはいますか?」
扉を叩いて声をかける。すると、
「まぁ縁様。ヤオならユエちゃんと一緒に郷の護衛部隊の訓練場で練習をしておりますが。」
と徽因は言った。
「そうですか。さすがに1ヶ月間修行無しとはいきませんので、その都合をつけようと思いまして。自主練をしているのは素晴らしいことです。では会いに行ってまいりますので、失礼しました。」
縁は軽く頭を下げて辞した。
予め里の見取り図は頭に入っていたため、護衛部隊の訓練場には簡単に向かうことができた。訓練場が視界に入る前から音が聞こえてきた。
「ドゴッ!バコッ!キンッ!キンキンキンッ!!」
ーおお、派手にやってんなぁ…ー
視界に入った訓練場は一角が砂煙で覆われていた。
「まだまだぁっ!!!」
とヤオの声。
「トロイのよ!脳筋が!!」
とユエの声。
「なんだとゴリラ女!!!」
「はぁ?!なによ!ナンパ男!!!」
とどんどんヒートアップしていく。
「うーん、若いっていいねぇ。」
と、気配を消して小走りに走り出す。
「ストーーーーーーープッ!!!」
陽気を纏った拳と、陰気を纏った暗器がぶつかるその瞬間を縁が直接掴んだ。
三人の覇気がぶつかって霧散する。
「「し、師匠?」」
二人は熱い戦いを止められて驚いている。
「悪いな。ちょっと急ぎの話があって。すぐ終わるからツラ貸してくれ。」
縁はすまなさそうにいった。
「「は、はぁ…?!」
二人は顔を見合せる。
その3人を遠巻きに眺める、訓練中だった護衛部隊員は、周囲でザワザワとしている。
「今の見たか…?」
「「かろうじてだ…。」
「あの二人の間に躊躇いもなく小走りで…。しかも素手で掴んだだけだぞ?」
「やべぇ〜」
と言った声が聞こえてくる。縁はそうして声を避けるように、訓練場の休憩所に2人を連れ込んだ。
「いい試合だったのに悪かったな。実は日本から急ぎの通達がきたもんでな。」
「はい?昨日は日中は休んで、夜はどんちゃん騒ぎだったじゃないですか。朝は二日酔いのものだらけで…いつ通達なんかきたんです?」
ヤオが言う。
「実は、帝が夢渡りをされてな、夕べ夢で勅書と使命を言い渡された。」
縁が額を抑えながら言う。
「え、まさか、もう旅出るの???」
ユエが不服そうに言う。
「それはさすがに譲歩してもらった。1ヶ月間はこの里にいられる。次に向かうのは琉球王国。その龍穴の乱れを整えよというおたしだ。よって出発は10月15日だ。家族に話してそれまでの時間を大切にして欲しい。」
縁は苦笑いで言った。
「はぁ〜驚いた。もう行かねばならぬのかと思った。母上達が悲しむ。」
ヤオが大きくため息を着いた。
「あとは、今後の修行の日程についてだ。1ヶ月の間自主練などもったいなかろう。午前中に稽古をつけようと思っていたが、午後の方がいいか?」
縁は首をかしげて言った。
「私は午前中でいいよ!午後は自主練すればいいかなって思うし!」
ユエは問題ないようだ。
「私も問題ない。午前の方が後で反省点を生かした鍛錬ができる。」
ヤオも同じる。
「では朝、朝食を食べ終えたら9:00にこの訓練場で行う。出来れば気配探知の修練も忘れずにな。」
縁は伝えた。
「了解です、師匠。それにしても、次は琉球王国…私たちってほんと引っ張りだこなのね。」
ユエはボヤく。
「ま、初めのうちだけさ。」
縁は空間術式から経口補水液のペットボトル2本を、取り出して渡した。ユエは受け取りながら、ため息を着いた。ヤオも受け取ると、
「もしかして師匠ってこんな厄介事がある度に出番が回ってくるのか?」
と素直な疑問を口にした。
「あーー、ははははは。気にしないで〜。」
縁は微妙な顔をして言った。
…これは的中だな。…
…私たちより貧乏くじ引いてるわね。…
ーー2人の思考共有は素晴らしく上達していた。




