第31話ー夢渡りー
宴は日をまたぐ頃まで続いた。料理が無くなくなり、酒もなくなり、あとは雰囲気だけで、日頃話せないことを話す。そういったことが所々でおこなわれていた。
「あぁぁ〜〜。まぁ酔った酔った!いい気分だ〜も〜このまんま寝たらサイコーだよ。」
縁はいい気分で客間に帰ってきた。
「主様〜我らも良い気分です〜。」
稲ちゃんが言う。
「みんな〜ちゃんと、どんちゃんしたか???」
「皆さんの料理が絶品で、白酒も何瓶飲んだことか。やはり宴はこうでないと。」
白曜が言う。
「まぁお前たちが全力を出したら料理なんていくらあっても足りなりないからな、次は専用の丸焼きとかだそうな。」
と縁は黒曜に抱きついた。
「ちょっ、主様。人形の時に抱きつかないでくだませ!照れます。」
「え〜獣化して、モフらせてくれよぉ〜」
縁は黒曜の手を握って言う。
「全く、主様は酔うとそうやって言いますよねぇ〜。」
黒曜と白曜は獣の形に戻って縁に寄り添う。
「あーモフモフだぁ〜。幸せぇ〜。」
縁は2匹をぎゅむぎゅむしながら転がった。
「せめて『浄めの炎』だけでもしておくかぁ〜」
髪を解いて、盛大に炎をあげた。
「ふええぇぇ〜。」
縁は布団の上で大の字になって寝た。
縁の呼吸は深くゆるみ、意識があたりの喧噪から遠ざかってゆった。
ふっと、耳鳴りにも似た静寂が落ちる。
ーー縁、縁。聞こえるか。我じゃ。公仁じゃ。ーーー
初めはぼんやりと、徐々に輪郭がはっきりしてくる。髪の長い一重の男の子の姿が見える。
ー…これは…夢?ー
縁は寝ぼけ眼である。
ーしっかりせい縁。我ぞ。ちゃんと聞こえておるのか?ー
公仁と名乗る童子は冷静に問いかける。まだまだ幼い童子にも関わらず、大人びた表情を見せる。
ーみ、帝!すみませぬ。宴がありましたもので、酔ったまま寝付いておりました。公仁様夢渡りを…?ー
縁は驚きを隠せない。なぜなら神の血を引く日本国朝廷の帝とて、夢渡りはそうそうとできることでは無いからである。
ーそうじゃ。急ぎ伝えたいことがあってな。ー
帝は言う。
ー陰陽の件は上手く行きました。ただ魔族と間一髪でございましたが…。その件は使いを出しております故に、そちらをお読みください。ー
縁は簡潔に結果を述べる。
ーそうじゃな。今は時間が無い。端的に申す。帰りに琉球王国の龍穴を整えてまいれ。琉球王国より特使が参った。陰陽の化身を連れて龍穴を元の姿に戻すのじゃ。ー
帝は懐から手紙を手渡す。
ーかしこまりました。しばし時間を頂きましたあと、勅使として琉球王国に向かいます。ー
縁は謹んで手紙を受け取った。
ーあぁ。頼む。せめて1ヶ月後にはそこをたつのじゃ。ー
帝は封印されていた2人のことを慮って言う。
ーははぁ。かしこまりました。お気遣い痛み入ります。ー
縁は感謝の意を示した。
ーではな…。ー
帝の輪郭は徐々に解け、姿がなくなっていった。
縁が目を開けると、日が既に登っていた。
ー私が中々寝ないから、帝もやきもきしたに違いない。ー
とフフフと笑う。
未だ12歳と子どもながら、未来視や夢渡りといった帝の血に由来する呪術を行使し、冷静な観察眼でマムシの巣穴のような朝廷を掌握している。しかし、根は優しく、決して無理強いをしてこない。縁はそこが公仁陛下を気に入っている所以だった。
「しっかし今度は琉球王国ねぇ〜。ほんと忙しないことだよ。またニシキエビを手に入れるチャンスでもあるけどね〜。」
縁は絡まった髪をいじりながら言う。
「ニシキエビですと!」
稲ちゃんがニシキエビに反応する。
「そうだよ。今度は琉球王国だってさ!今帝の夢渡りがあられた。琉球王国の龍穴に乱れがあるらしい。そこを平定せよとのおたしだ。」
縁はきっちりと油紙で包まれた封書を見せる。
「公仁陛下からのご勅命ですか。まさか、もう里をたてと?」
アオイが美しい眉を潜める。
「帝も封印されていたふたりのことはわかっていらっしゃる。里に1ヶ月滞在できることは変わらない。さてさて、いつ伝えるべきやら。」
縁は眉間のシワをもみもみする。
「主様、とにかく今はヤオとユエが家族といられるようにすること。かつ、体がなまらないよう稽古はつけること。更に出発の日を決めてやった方が気持ちも定まるかと…。」
ウスハがすべきことを指折り数えながら言った。
「そうだな。その方が良さそうだ。と、まずは朝ごはん。何か食べないと、ルーティンが崩れる。」
縁は客屋の台所に立った。その時、
「縁様、縁様。朝餉は如何しますか?」
と外から里人の声がする。
「ああ!今それを考えていたところだ。なにか出してくれるのかい?」
台所の扉を開けると若い女性がたっていた。漣根排骨湯を作ってくれたリーである。
「宴の次の日ですので、貝の汁と卵入りの中華粥、鶏肉のみぞれ煮を準備しております。是非お連れの皆様と、集会所にお越しください。」
彼女はぺこりと頭を下げる。
「ありがたい。ぜひいただこう!」
縁は身支度を手早く済ませると集会所に向かった。
集会所ではウワバミでもさすがに二日酔いになるのか、青白い顔のものが何人かおり、縁は、
ーあれだけ飲んだら、そりゃ二日酔いなるか。チャンポンだしな。ー
と哀れみの目を向けるのだった。
朝餉はまた婦人部のメンバーが作ってくれたようだ。シジミ汁と卵入り中華粥の他に、蓮根をすりおろし、鶏肉にあんとしてかけたものがある。塩味のある香りに、米の解けた優しい匂い、縁は満面の笑みでこれらに舌鼓をうつのであった。
ーあー飲んだあとのシジミ汁って、なんでこんなに身に染みるんだろ…。中華粥のこのホッコリした感じ、でも炭水化物ってのが胃を優しく包むんだよな…。この柔らかーい鶏肉、昨日から煮込んだんだろうな…蓮根のあんが疲れた胃を癒す…。ー
などと、1人ナレーションをしていた。
まさに、のどかな朝である。




