第3話ー旅立ち、忍び寄る影ー
皆は食事を終え、満足そうな面持ちになっていた。食事はいかなる時も人を幸せにするものだ。
縁は上等な革で出来たリュックサックを背負い、腰のベルトに太刀と小太刀を差した。
「師匠。空間魔術を使っていたように思うのだが、わざわざ荷物を持つのか?」
ヤオが首を傾げる。
「こんな山奥で、手ぶらでいるやつはいないだろ。どちらにせよ、空間属性魔術を使えるものは少ないし、バレると厄介だ。それに背中の荷物は不意打ちから守ってくれることもある。まぁブラフさ。2人にもなにか荷物を持ってもらうとするか。」
縁は空間魔術を展開し、手を突っ込んで何かを探し始めた。
「ほい!ヤオにはレーションが入ったこの袋がいいだろう。ユエには、稲ちゃんとウスハとアオイの好きなおやつセットを背負ってもらう。あと2人にも、サバイバルナイフな!」
と、それぞれ皮袋とベルトと鞘にはまった刃渡り20cmほどのサバイバルナイフを渡した。2人はしっかりと荷を肩から斜め掛けにし、ベルトを腰に巻いた。縁は2人に尋ねる。
「では2人とも、故郷への案内を頼む。大体どれぐらいで着きそうだ??3日ほどこの峡谷を登ってきたが…麓には立派な蓮池があったな。夢蓮淵だったか。かなり広かったが、手入れが行き届いていた。」
「夢蓮淵は昔から私たちの縄張りだね。朝靄がかかった蓮池は綺麗だよ〜。そこの南側に私たちの氏族、悠淵の里がある。池からざっと1日だよ。合わせてざっと4日か。」
ユエがのんびりと答えた。
「悠淵のヤオ、ユエというわけだな。良い名だ。」
縁は微笑み、
「では、これから悠淵の里に向けて出発する。白曜達は影に隠遁し、周囲を警戒してくれ。ヤオもユエも500年振りの世界だろうから気楽にいこう。食事は豪華にするから期待してくれ!」
と、宣言した。
峡谷を3人で降っていく。残暑は厳しく、松葉の間から日差しが差し込んでくる。
「やはり、9月はまだまだ暑いな…。」
ヤオは500年前のことを思い出しているのか、感慨深げに独りごちる。
「なんか、緑が増えた気がするな〜。でも500年経ったって気がしないや。」
ユエはキョロキョロしている。
「そんなにはしゃいでたら、いくら蛟でもへばるぞ!」
縁は笑いながら言った。しかし、縁は全く別のことを考えていた…。
ー―この2人が解き放たれたこと、察しのいい奴らにはもう伝わっているだろう。ユーラシア大陸北部の攻撃的なあいつらとか…陰と陽、均衡を崩すには十分すぎる存在だ。……嫌な胸騒ぎがする。こういう時、勘が外れた試しがないんだよな。〜〜ほんと、嫌だな〜。ー
峡谷の北。陰陽の気を辿って"あるもの達"が南下してきていた。その中のリーダーが口を開く。
「陰陽…昨日と明らかに気配が違っている。封印されていたものが開放されたと考えるのが妥当。移動している。恐らく故郷に戻っているのだろう。」
「偵察を出しますか?」
と女の声。
「レイジン、偵察は隠匿の術が得意なそなたが適任だ。行けるな?我々は一旦封印されていただろう場所に行く。」
「かしこまりました。ゴトムル様。伝令は黒鳩を出します。」
レイジンが丁寧に答える。
「先陣をきるからって、若手の調子乗りは、殺すぞ。」
気の短そうな粗野な声。
「気づかれることはありえまいが、もしそうなったら…対象を隷属の枷を用いて確保してしまえ。たかが目覚めたばかりのひよっこ、我らの敵では無い。」
リーダーの確信に満ちた声に、
「御意。我ら魔族の大志の為に。」
レイジンは深く頭を垂れた。
縁の危惧が現実になろうとしていた…。




