第26話ー戦ったあとは、打ち上げ!(準備)ー
縁は与えられた客室で文机に向かい、サラサラと文字を書いている。帝に宛てた報告書である。最後に花押を記し、自分の印を押す。小さくまとめて、油紙できっちりと封をする。
縁は空間術式から巻物を取り出す。縁は犬歯で親指を傷をつけ、床に開いた術式に押し付けた。
「口寄せ!」
そうすると立派なオオタカが現れた。
「お呼びですか。」
巻物の上にふわりと降り立ったオオタカが言う。
「薫風、久しいな。お前の翼が頼りだ。ここは中国大陸。ここから帝への文を頼む。」
縁は呼び寄せた使役獣に話しかける。
「なるほど。随分と遠出なさいましたね。"くんぷう"と名をいただきましたるゆえには、しかとお届けしましょう。」
薫風は右の翼を胸に当て、頭を下げた。
「明日届けよなどと無理は申さぬ故、安心せよ。確実にお渡しするのだ。渡したらこの巻物から合図を送ってくれ。」
縁は手のひらの裏で、羽の油を取らないように撫でる。薫風は気持ちよさそうにしている。しばらくそうしていると、胸元の稲ちゃんが声をあげる。
「主殿!薫風だけずるいのです。」
「稲ちゃん、薫風は海を渡るから労っているだけだよ。稲ちゃんもよく頑張った。完璧な働きだったよ。」
縁は稲ちゃんの顎をコリコリと書いてやる。
「さて、薫風。良い風が吹いてきた。行ってくれるかい?」
「はい、主よ。」
縁は客間の窓を大きく開き、右腕にのせた薫風をとき放った。薫風は早秋の風に乗り、高く高く昇っていく。
「さて、稲ちゃん。私たちはよく頑張った。そう思わないかい?」
縁は稲ちゃんにもったいぶって問いかける。
「はい。みな獅子奮迅の働きでございました。いかが致しました?」
「ご褒美、いると思わない?」
縁がいたずらっぽく問いかける。
「と、なると…。宴でどんちゃん騒ぎでございますね?!」
稲ちゃんが小さな拳をポンと打つ。
「さすが分かってるじゃないか〜もう作るのは面倒だから作り置き大放出ってことで!今日は打ち上げってイュイに伝えてきてー、私はひと休みするから。」
縁はぐーっと伸びをしながら、清めの炎を行使する。
「わかりました!婆様にお伝えしておきます。きっと向こうでも、住民の不安払拭の為に宴をと、なっていたでしょう。では!」
稲ちゃんは颯爽と客間を後にした。
「ヤオとユエも家族と一緒に暫く過ごしてもらおう。はぁ、ひとまず一眠りするか。」
縁は武器一式を傍らに置き、布団に横になった。縁は静かに目を閉じ、深い眠りに落ちていった。
「お婆殿、今よろしいですか?主殿の使いでございます。」
長老の館に稲ちゃんが声をかける。
「稲殿?何かございましたか?どうぞこちらへ。」
お婆様が扉を開けて稲を招き入れた。稲ちゃんは、
「お婆殿、主が勝手なことですが、今夜は打ち上げの宴にするとおっしゃっておりました。空間術式に溜め込んである料理を片っ端からだすとおっしゃっています。お婆様も住民の不安払拭の為にいかがでしょう?」
「おお、それはようございますね。昨夜はほとんどのものが眠れず、今寝ております。夕餉が宴会と知れば気分も晴れましょう。後で我が里の婦人部に声をかけておけば、郷にあるもので美味しいものが準備できます!」
婆様は嬉しそうな顔をして言った。
「ではみなが起き始める夕方ぐらいから、準備致しましょう!酒もうんと準備がございますので!突然訪いましてなんですが、お婆殿もお休み下さいませ。では。」
稲ちゃんはぺこりと頭を下げて、縁の元にもどった。
稲ちゃんは寝ている縁に控えめに声をかける。
…主様、夕方から準備となりました。…
…ご苦労、稲ちゃん。休んでおきな。…
縁は寝返りを打ちながら答えた。
夕方。空が茜色をおびてきた頃、郷の集会所にご婦人方が集まり始めた。縁の姿もある。
「ええー、みなさん。昨夜は大変お疲れ様でした。今夜は不詳私が主催の打ち上げの宴をしたいと思います。私はたくさんの加工済みの食材、料理を持っておりますが、婦人部の皆さんも何品か作ってくださるそうで食材は私めができる限り提供しますのでどうぞご気軽にどうぞ!」
縁は声を張って言った。
「婦人部部長の、チャンと申します。豚系モンスターと牛系モンスターの肉が欲しいです。水餃子を作りますので!」
「おお、チャンさん、ありがとうございます。好きなんですよ、本場の水餃子!ではグレートボアとグレートブルの肉を1頭ずつ出しましょう。好きな部位をお使いください。あ、あと旨味の強いフォレストウルフを何頭か出しておきます。」
縁は嬉しそうに答える。
「私は副部長のウーと言います。私たちはエビチリを作りますので、エビをご提供して頂ければ…。」
「エビ!大好物なんですよ!沢山ありますから、人数足ります?私の使役獣人化できますから、いつでも使ってください。あと出来ればエビマヨもお願いします!」
縁はウーに対して浮ついた声を上げる。
「婦人部のリーです。蓮藕排骨湯(蓮根とスペアリブのスープ)を作りますので、豚系モンスターのスペアリブが欲しいです。オークとかありますか??」
少し若めの女性が声を上げる。
「もちろん!オーク肉なら余るほどあるので、そうですね、5頭分、足りなくなったらまた呼んでくださいね。」
縁は優しく微笑んだ。
「では私はこちらの竈にいますので、何かあればどうぞ!」
ーー宴の準備が慌ただしく始まった。




