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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第21話ー里はずれ、ノノル・ユエ戦ー

ユエも戦いの場を移す。


ーノノル・ユエ戦ー


霧が、降りていた。

白でも灰でもない、死んだ月光のような色。

風はない。ただ、音のない世界が、ユエの足元まで満ちている。

「……ここは、、師匠の結界の端か。」

呟きは淡く、霧に溶ける。

指先がかすかに光る。

指に巻いた黒い糸が、淡い黒を放ちながら空気の揺らぎを探る。

返ってきたのは――“何もない”という違和感だった。

「……気配をここまで殺すとは、面白いことを。」

その瞬間。

風が、一度だけ逆に流れた。

霧の奥、何かが“立っている”。

声もなく、音もなく、ただそこに――。

ノノル。

灰白の仮面をつけ、鎖の衣をまとい、手に黒い槍。

呼吸すらない。存在しているのかも疑わしい。

だが確かに、殺気だけが世界を染めていた。

ユエは髪を指先で払う。

黒髪が霧に溶け、赤い瞳が細くなる。

「お前も言葉を持たないってか。……ならば、斬って問おう。」

ノノルが、動いた。

音はなかった。だが、次の瞬間には槍がユエの喉元にあった。光が線を描く。ユエの身体が滑る。残像が三つ。

一瞬遅れて、斬られた竹が静かに倒れた。

「ふふっ速いな……」

ユエの声は氷のように落ち着いていた。

「けれど、見える。」

彼女の背後で影がうねる。

蛇の形をした影――黒蛇ユエの真骨頂。その蛇が音もなく伸び、ノノルの足を狙う。

ガンッ。

鋼の鎖が絡み、蛇の首を断つ。ノノルの槍がわずかに軌道を変え、霧を切り裂いた。

「……いい腕。」

ユエの唇がわずかに笑みに歪む。

「では――次は、“こちら”の番。」

瞬間、霧が反転した。

白だった空気が、墨のように黒く沈む。風もないのに、彼女の影が膨張していく。

まるで、月が闇を飲み込むように。

「“月影――朧”」

霧の中で、ユエの姿が消えた。ノノルの仮面の奥の瞳がかすかに動く。次の瞬間、背後から暗器が閃く。金属の鎖が弾け、竹が数本まとめて切断される。

――音が、戻る。

ノノルの身体が一瞬ふらついた。

仮面の下から、黒い血が垂れる。

ユエの声が、霧の中から響く。

「お前は、冷気を支配する。

 けれど――(カゲ)を支配するのは、この、わ・た・し。」

影が再び蠢いた。ノノルの足元に、蛇の影が十重二十重に絡みつく。ノノルは魔力を集め、槍に集約。まとめて薙ぎ払った。辺りに白い氷片が撒き散らされる。膨大な魔力により、辺りが凍てつく。


氷の世界が広がっていた。

 地面も空気も音すら凍りついたように、静寂だけが支配する。

 ノノルが一歩進むたび、足元の氷が鈍く鳴る。

 その中心に――ユエがいた。

「ほう……貴様、まだ立つか。誇っていい腕だ。我はノノル。最後に知りおけ。」

「知っているか?私は陰の化身。陰気は冷気に通ずる。この程度どうってことないのよ。」

 ユエの声は低く、だが確かな熱を帯びていた。

 それは血ではなく、“陰の化身”の神気。

「人の(エン)も、全ては理の中。我が主の理こそが全てを制する!」

 ノノルが手を翳す。氷刃が無数に生まれ、空間ごとユエを閉ざす。

 ――“凍界葬陣(トウカイソウジン)”。

 世界が凍てつく。空すらも。

 だが、ユエは笑った。

「その冷たさじゃ、“縁”は断てない」

一瞬にして辺りが暗闇に代わり、冷気を覆い尽くす。そして一瞬にして氷刃を抜け、ノノルの間近に迫った。

暗器が闇そのものの具現となってノノルの首元に迫る。氷の刃が砕け散り、霜の粉が黒い粒子へ変わる。ノノルが咄嗟に槍を引き戻し、防御姿勢をとる。

 しかし――ユエの牙はその腕を切り落とし、冷気を逆流させる。

「な……に……!」

「氷は割れる。けれど、えにしは繋がる」

 その瞬間、ユエの胸の護符が輝いた。

 ――縁の筆跡が、赤黒い光となって地面に浮かび上がる。

 「“陰神・縁字封陣えんじふうじん”!」

縁の結界の力を借りて地面に赤黒い亀裂が走り、ノノルの足を縛る。氷の陣と陰の陣が激突し、白と赤黒い閃光が交錯する。

 爆ぜる氷気。吹き荒れる風。

 そして――ノノルの氷刃が音を立てて砕けた。

 「……見事だ」

 ノノルはわずかに微笑んだようにみえた。だが、次の瞬間には氷の粒となって消えていく。

「主の理に背くわけにはいかぬ……ゴトムルに力を託す…」

 その声だけを残して、氷の霧とともに姿を消した。

 静寂が戻る。

 氷に映る自分の姿が、わずかに光を帯びて揺れている。

「……終わった、か」

 竹林の方角から、遠く轟音が響いた。

 ――ヤオの戦いの終わりを告げる音だ。

 ユエはその音に微笑んだ。

「あとは師匠か、首魁とキュレーが残っているな…。」

その時、遠くで結界の軋む音が響いた。

誰かがーー外で、禁忌を破っていた。



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