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双蛇ノ縁ーソウダノエニシー  作者: 環林檎


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第15話ー悠淵の里、儀式の前にー

夢蓮池に涼しい風が吹き渡る。ポツポツとまだ咲いている蓮が見えていた。

「美しいな。」

縁は黒曜の背で言った。

「こんなに広かったっけ…?」

ユエは馬上から見渡して、若干困惑しているようだ。

「蓮は地下茎だからな。我らもよく蓮根は食べるが、それでも広がって言っているようだ。」

とロルが言う。一行は夢蓮池の脇の石灰質の小道を行く。

「みなが頑張ってくれたおかげで、悠淵の里にはもうすぐつくぞ。」

ガロは仲間を励ます。

しばらく行くと開けた土地に出た。立派な石柱が2本立ち、三ツ鱗の文様が刻まれ、蛇の彫刻がされている。そして入口には数人の人物が立っていた。

「ガロよく戻った。陰陽の化身よ、早かれ遅かれ目覚めることは必然であったが、その力を抑える者と出会えたこと、感謝せよ。」

と一人の老婆が言った。杖をつき、白髪で背は曲がってはいるが、目はけいけいとし、深い知性が宿っていた。

「隊長!お早いお戻りで!その、、すごい狼に乗られた方はどなたです?」

隣から、長髪の若い男が声をかける。

「この方のことは婆様に急ぎ紹介せねばならぬ。今悠淵には時間が無い。婆様、こちらの女性は縁殿。今、ヤオとユエの陰陽の力を抑えておられる。更なる封印術について、婆様と話さねばならぬ。急ぎ、長老の家へ。」

ガロは馬を長髪の男に引き渡しながら言った。


「あー故郷って感じ〜。懐かしい〜。」

ユエは呑気に言う。

「ああ、私も懐かしい感じがする。建物も里の作りも変わっていないようだからな。」

ヤオが応じる。

「ヤオ、ユエ、2人は自由にしてて構わない。必要になったら、里の要人と共に呼ぶ。私はまずはばば様と話す。里といえど気配探知は怠るな、いいな。」

縁は2人にそう命じるのだった。


長老、婆様の家に置いてから、2人は向き合っていた。婆様は座り、微動だにしない。

「長老殿…?」

縁は不審に思い声をかける。

「縁殿、御身に会うのは1080年振りでございましょうか…。あの時の娘々でございます。」

婆様は涙を流している。

「まさか!あの鱗ほっぺの娘々か!?後宮を追放されさまよっていた、あの、」

縁は驚きのあまり声を高めた。

「そうでございます。縁殿に導かれ、泉と広い池のありましたこの池に移り住む運びになったこと、私は覚えておりますとも。悠久の時を生きる縁殿にとっては、短い間のことであっても…。」

縁は、

「いや覚えているさ。イュイ。立派になったなぁ。あの時はまだ人化しても頬に鱗が残っていたのに。ここを見つけて、私が持っていた古代蓮の種を託した。ここが大きな蓮池になって、将来お前たちが健やかに暮らせるようにと。一族も呼び寄せたのか?」

と婆様、もといイュイの手を取り言う。

「はい。ここを我らの本拠地として、一族のものは全てここに集めました。守りも固く、霧深きこの地は蛟にとって最良の地でございました。またこうしてお会い出来るとは、縁どのの名のとおり、えにしは巡るもの。陰陽の化身たるヤオとユエも、貴方様なら救えましょうぞ。」

イュイは希望に満ちた目で言った。

「そうだな。救ってみせるとも。まずはイュイ。あの二人を救うにはこの土地の神の力が必要だ。産土神はわかるか?」

縁は早速話を切替える。

「産土神でございますか、分かりますとも。となると、陰陽の化身を育んだ産土神の力を使って、彼らを鎮めると…?」

イュイは随分と頭の回転が早い。

「話が早くて助かる。今は私の血液をペンダントにしてそこから空間魔術を介して陰陽の力を循環させているが、それではいずれ持たなくなる。しかも最悪なことに魔族4人がおってきている。今夜にでも術式を行わなければ、後で面倒事になりかねない。できるか?」

縁は深刻な顔で言った。

「里の主なものを集めましょう。私から説明します。」

イュイは冷静なばば様の顔に戻り、返事をした。

30分後、長老宅に里の主な顔ぶれが集まった。もちろんヤオとユエもだ。婆様は厳かに口を開く。

「此度、陰陽の封印がとかれ、ヤオとユエがこの里に帰還した。これはここにおられる世界に数人といない冒険者ランクSSS、滝野縁殿のご尽力によるもの。今も陰陽の力をコントロールしてくださっている。だが、それも完璧ではない。今夜、この土地の土地神に力をおかしいただき、更なる封印術を施す。みなのもの、異存はないか。」

1人の歳経た老人が口を出す。

「グリード、滝野縁とは日本に住まうと聞いたが…なぜヤオとユエに出会ったのだ?」

縁は答える。

「私はこう見えて様々な気配に敏感だ。元々陰陽の乱れを感じてはいたが、静観するつもりだった。しかし日本国の帝より呼び出しがあり、陰陽の乱れの調査を頼まれた。我が日本国の帝は夢で未来を読むことが出来る。それに私がヤオとユエを、導く姿が映っていたらしい。こちらはいざと言う時に持たされた、帝からの書状だ。蛟ならば、その御名御璽が本物であることが分かるはずだ。」

と丁寧に和紙でくるまれた書状を取りだし、その老人に渡した。

「こ、これは。誠に日本国の帝の御璽に相違ない。しかし、なぜ今からなどと急ぎ儀式を執り行なわねばならぬ?」

老人は食い下がる。

「陰陽の力は異質にして強大。その乱れは極東の日本国にも広がり、それはこのユーラシア大陸でも同じこと。ヤオとユエの力を我がものにしようと、魔族が4人追ってきている。偵察を1人殺ったが、激甚のコキュートスとかいう所属だった。陰陽の力を利用する気だ。今日大規模探知を行ったが、昼前の時点で既に廟を出発していた。儀式を行うのは明日では間に合わない。今日だ。」

縁は言い切る。

「な、なんだと!急ぎ里の守りを固めましょう。婆様、私はここで抜けて護衛部隊の編成に向かってもよろしいか?」

ガロが泡を食ったように言う。

「はぁ。ジェンよ、私から話すと縁殿に約束しておったのに、そちが疑い深いから若造共が不安がってしまった。自重せよ。ガロよ、護衛部隊は任まかせたぞ。里に外出禁止令を出し、表の門を閉じよ。此度は極大の魔石の使用を許す。対物理結界、対魔術結界をはれ。住民の中から光属性と聖属性の魔術ができるものを集めて別働隊にせよ。わかったな。」

婆様は勤めて冷静だ。縁は感心し切りであった。

「で、縁殿、土地神、産土神だな、それをどのように使う?」

白髪だが背のピンとのびた初老の男性が聞く。

「4枚大きな符を準備してある。これを四方に貼り、産土神を呼び覚まし、ヤオとユエの体に少し乗り移っていただく。ヤオとユエには生涯、産土神と共にし、産土神は2人を育んだものとしてより強力な調整を行っていただく。」

と縁は答えた。

「そんなことが可能なのか?」

初老の男性は訝しんでいる。

「100%できるという確約はない。あくまで産土神次第だ。だが、ヤオとユエの生まれた地であるからして、勝算は高いとみている。我が子だからな。」

縁はあえて自信満々に言い切った。

「テナイ。縁様はこの里にゆかりあるお方なのじゃ。時間が無いゆえ今は話さぬが、私はこの方に絶対の信頼を置いておる。わしは宣言する。今からヤオとユエの術式の準備に取り掛かる!祠のある中央広場を使用する!急ぐのじゃ!」

婆様は威厳のある大声で言った。


縁はヤオとユエを連れて中央広場に向かう。そこには大きな楠の根元に祠があった。

ーこれが土地神の祠。大事にされているな…。ー

縁は状況を確認する。楠の木を起点に真円と五芒星を描き、その中央に2人を寝かせる。そして四隅に符を貼り、魔力を流す。そうすると土地神の力が活性化され、可視化される。あとは縁の交渉次第だ。そんなことを考えていると、

「ねぇ師匠?魔族もうそんなに近いの?」

不安そうな顔でユエが聞く。

「まだ距離的に大丈夫だ。儀式を執り行なう時間は残されている。ただその後は戦闘になる。お前たちの力は強い。里を守れるな?」

縁はニヤッと笑って言った。

「あたりまえですよ。生まれ里ですから、気合いも十分です。」

ユエが拳を掌底にぶつけて言う。

「頼もしいことだ。では、術の行使まで時間がある。それまでに身を清め、心を静かにして待っていてくれ。」

縁は2人の肩を叩き、踵を返した。



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