第14話ー悠淵へむけてー
ー私が軍属から離れて1500年あまり。途方もない年月なはずなのに、私にとってはあっという間だった。幾人もの親しい人を見送った。教え子も幾人か持ったし、朝廷にもまぁ、重宝してもらっている。私の体はいつまでも若々しいまま老いを知らない。私の人生とは、一体いつまで続いていくのか…。このヤオとユエとの出会いが全てを変える気がする…。ー
縁は月を見上げ考える。縁の出自は複雑だ。端的に言えば、彼女は人造人間であり試験管ベビーだ。強化人間、魔術実験体…ただびとからすれば惨いとも言える、そういう育ち方をしてきた。
今の縁があるのは、長い年月の中で、あまたの出会いがあるからだ。縁は全てに感謝している。
「白曜あとを頼んだ。」
縁は見張りを白曜と変わる。白曜は、
「主殿…、その、我らは主殿に出会えましたことを天命と感じております。感謝しております。どこまでも共にまいります。ですから、、」
と、何を言ったらいいのかという表情をする。縁は、
「気にするな。私も感謝している。だから、気を遣わなくていいよ。」
と優しく撫でた。白曜は目を細めて、気持ちよさそうにする。
「明日は走り通しだ。頼むぞ。では、おやすみ。」
縁は腰を上げ、自分のテントに入っていった。
朝日が昇る頃、一行は続々と目を覚ます。縁は早々に朝ごはんを準備する。今回は作り置きしておいた海鮮粥に揚げパンだ。悠淵の3人組は、海鮮を食べられて感激していた。海の旨みと、エビやイカが入った豪華な海鮮粥は、全員に大好評だった。
縁は食べながら1日の行動確認をする。
「陣形は昨日と一緒で。目的はなるべく早く悠淵に着くこと。それでよろしいか。」
ガロが口を開く。
「かまわない。馬には負担がかかるが、こやつらは我が里の中で最も優秀な馬達だ。ウォーフォース(戦争用に作られた膂力のある強い馬)ほどでは無いが、ゴブリンぐらいなら踏み潰す。魔族の件もある。急ごう。」
「そう言ってくれるとありがたい。食べ終わり次第、野営あとを隠蔽して出立だ。」
縁は頷いた。
***
時を遡ること数時間。夜中のこと。廟の残骸に人影が4つ集まっていた。
「戦闘があったのか。陰陽の気配は強く残っているが、ここを離れてしばらく経つようだな。」
激甚のコキュートス、ゴトムルだ。
「この魔法陣や、術式は世界各地のものですね。かなり強力な魔法陣。これで抑えられなかったとなると、相当な力になります。」
副官の女キュレー。
「この入口の文様は…鱗か?となると、蛇か、歳経た蛟か…。」
とノノル。
「ゴタゴタめんどくせぇなぁ。さっさと追いついて捕まえようぜ。どうせこの力を収めた女だったか、がいるんだろ?レイジンのやつしくじりやがって。若手のイキがりがよ。」
と、粗野な声はギィロだ。この4人は魔族。激甚のコキュートスに所属している。
「蛇か、蛟となると、この麓に蓮池があったはず。夢蓮池とかいう。どうせその辺を探せばしっぽが掴める。陰陽の力、我らのものとするぞ!」
とゴトムルが皆を鼓舞する。
「「「御意。コキュートス様の御為に。」」」
そうして、闇夜に悪意が動き出す。
***
食事が済み次第、出立する。朝日が眩しい。縁は最後尾で警戒にあたる。なんだか嫌な予感がする。縁は己ができる最大範囲の気配探知を行うことにした。だがこれは精神に負担がかかり、術の使用後6時間は、気配探知が出来なくなる。だが今はヤオとユエがいる。それを信じて縁は半径300キロの巨大探知を行った。
ー高い魔力反応が4つ。廟を出発してしばらくというところか。さすが魔族。移動速度が早いな。使役獣か?まぁいい。儀式は今夜にでも行わなければ、間に合うまい。これを伝えるのは、里に着いたあとだ。極度の緊張は、強い疲労を産む。私の使役たちにだけ伝えよう。ー
縁は即座に思考共有で使役獣達に伝えた。
小川のそば、昼食のつかの間の休憩。縁はオカカ、昆布、明太子のおにぎりを各自に渡して小休止する。馬たちも全身に汗をかいて、ごくごくと水を飲んでいる。
「ガロ殿、婆様とはどのようなお方だ?儀式の件を進めるためにも、人となりを知っておきたいのだが。構わなければ教えて欲しい。」
縁は濡れたタオルで顔を拭っているガロに聞いた。
「そうだな。齢1000年を超え、冷静沈着にして深い知性と、決断力のあるお方だ。」
と、心からの尊敬が見える顔で答えた。
「お婆様は、当時の私には近づき難いオーラを纏っていたな…。」
ヤオが500年前の記憶を呼び起こして言った。
「そうか。ならばこの儀式の必要性や、急いでいる理由はわかって貰えそうだな。」
縁はほっとした顔で答えた。
短い昼休憩を終え、縁たちはまた走り出す。夢蓮池はもうすぐそこだ。




