第13話ーカレー談義ー
美味しい食事をとり、先程まであった緊張感はあっさり消えてしまった。全員が満足そうに、食後の余韻に浸っている。
縁はゆっくり紅茶を飲みながら、
「ガロ殿には5頭の馬がいるよね。2頭はヤオとユエにあててもらって、私は白曜か黒曜に乗って行こうかな。そうすれば早くつく。」
と提案した。
「確かに。悠淵のものは封印がとかれて不安がっている。早くつければありがたい。」
とコーヒーを飲みながらガロは言った。縁は、
「実は訓練として、私もヤオとユエをローテーションして、1人を白曜か黒曜に乗せながら、1人を走らせようと思ってたから、ちょうどいいや!」
考えていたことを言った。
「「はぇー?!!」」
ヤオとユエは狼狽える。1人走らされるだなんて、たまったもんじゃない。2人はガロ達が来たことを感謝した。
縁は、
「では午後からの行動としては、全員騎乗して悠淵へ移動で。」
と言った。ガロは、
「それで構わない。ペースにもよるが、明日の夕方には悠淵に着くだろう。」
と言った。馬たちは大きな狗神達に若干怯えているが、
「お前たち、この大きいのはお前たちを決して傷つけやしないよ。むしろ守ってくれる。どうか落ち着いておくれ。よしよし、いいこだ。」
縁の声には不思議な温度があった。風に乗り、草木さえ静かになるような。馬たちは落ち着きを取り戻した。
「縁殿、何か魔術を使われたので?」
ミロが声をかける。
「いや、ちゃんと話せば家畜というのは理解してくれるものさ。」
と笑顔を返した。
…なんか、すごい人だな。…
ミロは呆れてしまったのだった。
空き地を出発し、戦闘をガロ達3名が、真ん中にヤオとユエが、殿に縁がつく。守りとしてはかなり手堅い。
…そうだ、肝心なことを忘れていた!夕食の時には魔族からの襲撃があったことを伝えなければ。ついつい単独行動のくせが抜けないねぇ。…
縁は重要なことを、すっかり忘れていたのだった。
悠淵の選んだ優秀な馬と、狗神の機動力は優秀で、徒歩の何倍ものスピードで進んでいく。途中水分補給を取りながら、夕方まで走り続けた。
「こちらの広場が昨夜、我らか休んだところです。こちらで野営しましょう。」
先頭を行くガロが全体に声をかけた。
「よし、ちょうどいい。ここで野営としよう。私たちのテントは空間魔術に格納してある。先にガロ殿たちは馬の世話とテントを張ってくれ。」
縁の頭の中では既に今晩の献立が始まっている。
「お、おう。わかった。」
ガロは縁の空間魔術の利便性に感動しながら答えた。
…さて、晩ご飯は何にするかな。好き嫌いがなさそうで、沢山食べれるものと言えば…カレーだよな!!!やっぱり。ビーフカレーが寸胴にいっぱい作ってあるから問題は米と、あぁ、ナンも作り置きがある。米をたくだけだな。…
縁はぶつぶつと独り言を言いながら決めた。
ヤオとユエは既に焚き火の用意をしてくれている。その焚き火をみながら、
…んー、カレーだけでは栄養バランスが微妙だなぁ。ブロッコリーと卵のサラダでも添えるか!…
と追加を考えた。
「師匠〜。今日のご飯は〜??」
ユエがニヤニヤしながら聞く。
「ビーフカレーだ。米とナンもあるぞ。あとブロッコリーと卵のサラダだ。」
「「「カレー!」」」
悠淵の3人組が声を上げる。
「ん?!どうした?!何が悪かったか?」
縁が慌てる。
「いえ、悠淵では積極的に外のものと関わらないので、スパイスが貴重なのです。」
ロルが答える。
「あぁなるほど。カレーはご馳走みたいなものなのか。なんか勿体ないな。」
縁は答えた。ガロは、
「ばば様にも進言しているのだが、なかなか外界との交流を持とうとしないのでな。”時が来ればわかる”の一点張りで。」
と、首をひねった。
…”時が来ればわかる”ねぇ何か知ってるなこれは…
縁は訝しみながら、そこには突っ込まない。
「まぁ、グレートブルのいい肉つかってるから、美味しいはずだよ。楽しんで食ってくれ。」
縁は微笑んだ。
寸胴を火にかけ蓋を開けると、スパイスの食欲を掻き立てる香りが夜気を押しのけて漂ってきた。
縁はいつもの調理台セットを出して、手早くブロッコリーを処理していく。もちろん茎も食べる。大きな鍋に塩を入れ、ブロッコリーをさっとゆがく。
…本当は蒸した方がいいんだが、量が量だからな。…
(調理法として蒸すという方法は、栄養を壊しにくいし、残しやすく優秀なのだ。)
別の鍋では10個の卵が塩茹されている。あとは卵をざく切りにして、たっぷりのマヨネーズ、粗挽き胡椒であえるだけだ。
「野営でこんなに豪華な食事が取れるとは…。」
ガロが並んだ料理に感嘆する。
「さぁ、冷める前にいただくよ。合掌。いただきます。」
全員が手を合わせて食事をとる。
「ガロ殿、食事中に申し訳ないが、聞いてもらいたい。」
縁が口を開く。ナンを口に運んでいたガロが目線をよこす。
「実はな、二日前、魔族がこの2人を狙っていた。」
「ゴホッゴボッ。」
ガロが思わずむせる。
「なんだと?!」
「私が1歩先にこの2人の信頼を得ていたから良かったものの、魔族はコイツを持っていた。」
縁は動揺を隠せないガロに隷属の枷を見せる。
「…これは、隷属の枷。奴らこんなものを!!」
ガロは怒りを隠せない。もちろんミロとロルも不愉快そうな顔をしている。
「偵察が1人だけだったからな。すぐに捉えて情報を聞き出している。激甚のコキュートスとかいう組織らしい。あと4人が追ってきている。目的は陰陽の力の掌握としか分からなかった。」
縁は真面目な顔をして言った。
「これまで跡を辿れないように隠蔽工作はしてきたが、相手は魔族。魔力の探知が得手。そのため、悠淵での儀式が狙われるのではと危惧している。」
「なるほど、土地神の介入があれば、大きな力が動く。魔族も馬鹿では無い。我らをおってきているとすると、儀式は早ければ早いほど良い訳だな。」
ガロは得心がいったようだった。
「あぁ。まだこちらに追いついていない状態で儀式を済ませたい。」
縁はこめかみを抑えながら言った。
「ここから先はスピード勝負ということですか、師匠?」
ヤオが尋ねる。
「ああ。そうなる。だが、お前が考えてるように昼夜走っていくとか、いうことはしないぞ。儀式には万全な状態で望んでもらいたいからな。」
ヤオは少し赤くなりながら、
「そうですよね、確か先走りすぎました。」
と述べた。ユエは、
「まぁ今はとにかく食べようよ。どうせよく寝て、よく走ることは変わりないんだから。」
と至極もっともなことを言った。
「ははは。ユエも真っ当なことを言うじゃないか。」
ミロが感心して言った。
「ミロさんは私にどんなイメージを持ってたんですかね…?もう一度ゆっくり肉体言語で話し合います??」
ユエは笑顔で言った。
「じょーだん!冗談だよ!」
ミロは慌てて言った。
お喋りはしているが、寸胴のカレーはどんどんなくなっていく。
「あー腹がはった!満足だ〜。」
ヤオが天を仰ぐ。大量に炊いていた米も、ナンも全く残っていない。寸胴も空っぽだ。
「縁殿、大変美味しかった。感謝申し上げる。」
ガロが丁寧に頭を下げる。
「気にしないでくれ。これから先、仲間として色々するんだからさ。今日はよく休んで欲しい。明日は少し早く出よう。」
縁は全員に伝えた。
見張りは用心して今日から複数人で行う(ただ縁と白曜と黒曜は独りで行う)。普通の冒険者パーティーよりもずっと楽なものになる。
縁は真夜中の月を見上げる。月の光が彼女の影を長く伸ばす。縁は深い思慮にふけった。




