第10話ー同郷のもの達への不安ー
見張りの最後の2時間は、ヤオとユエの担当だ。コーヒーを飲みながら、2人は気合を入れて気配探知を行う。早くから小鳥が餌を啄み、せせらぎが感じられる。ヤオとユエにとっては、これはまだ慣れない作業だった。しかし、自然にとっていかに自分たちが矮小な存在であるか、というようなことを感じていた。と同時に、その自然界に幅広く影響を及ぼす自分たちの陰陽の力について、各々考えをめぐらせてもいた。
ー私は陽の化身として存在している。卵で生まれた時から、白い光を放ち父母は大変驚いたという。産まれては、度々ボヤ騒ぎを起こした。それは陽の火の力を制御できないからだと、お婆は言っていた…。悠淵に行って我らはどのような扱いを受けるのか…。ー
ヤオは痛い頭を氷嚢で冷やしながら考える。
ー私は陰の化身として産まれたけど、今悠淵に行ってどんなことになるのかな?卵の時には黒い光を放っていたと言うし、時々家を氷漬けにして母様を困らせていたっけ…。お婆は陰の水の力が制御できていないということだったけど…500年封印されていてどう周りと接すればいいんだか…。ー
ユエも考えることは同じ。
2人とも悩みは同じく、500年封印され、里のものとどう接すれば良いかということだった。2人は全く同時にため息を着く。
「「はぁ〜。」」
はたと見つめ合う。そしてクスッと笑った。
「もしかしてユエも自分の力と悠淵のことについて考えていたか?」
ヤオが尋ねる。
「そうだね。500年ぶりだからどうしたらいいものやらって思ってたよ。」
ユエは肩を竦めて言った。焚き火に薪を足しながら、ヤオは項垂れて言う。
「師匠はその事も考えてくれているだろうか…。500年分のひらきは埋められない。師匠を頼らなければ自分自身で力も抑え込めない。そんな我らを悠淵のもの達はどう思うか…。」
「大丈夫だよ。ヤオ。今日の朝は割と大丈夫そうだな。」
唐突に背中から声がした。
「し、師匠!気配探知には何も動きはありませんでしたが!?!」
ヤオが驚いて言う。
「空間魔術の応用だよ。ま、ちょっとこういうヤツもいるんだぞ、という勉強さ!そんなに居ないけどな〜。」
縁は笑って言った。ユエは、
「びっくりさせないでよぉ〜敵だったら1発で殺られてたよ。」
冷や汗をかいたようだ。そんなふたりに構わず、縁は、
「2人とも、朝ごはんは何が食べたい?大抵のものはあるぞ〜。」
ニコニコしながら、頭で空間魔術の収納を確認していた。
「師匠、よろしければ甘いものが食べたいです。その、私は甘党でして…。」
ヤオが遠慮がちに言う。
「見た目は辛口が好きそうなのに意外だよね〜。」
ユエはヤオの肩を小突いた。
「よっし!それならフレンチトーストにしよう!卵液に漬け込んだ食パンと、フランスパンがある!」
縁は早速準備に取り掛かる。バターを取り出し、フライパンを焚き火にセットする。
「メイプルシロップはありますか!!!?」
ヤオが前のめりになって聞いてくる。
「当たり前じゃないかワトソンくん!一番搾りから3番まで揃えてるよ。それにアオイとウスハがいるから、各種蜂蜜もたっぷりあるぞ〜。」
ヤオは感動した様子でガッツポーズを決めている。ユエもホヤホヤした顔になっている。使役獣達も匂いにつられて起きてきた。
「主様、今日はフレンチトーストでありますか。我はメープルシロップたっぷり目にかけてもらえると助かります。」
白曜が目をキラキラさせながら言う。
「もう、甘党なんだから。」
黒曜が茶化す。それを見たユエは、
「白曜様も甘党なんだってね。やっぱり似てるとこあるじゃん!」
とヤオを茶化した。
「なに!ヤオも甘党か!気が合うではないか!長虫!」
白曜はニヤニヤしながらヤオの腰を叩いた。
「いたたたたた!!痛いです!確かに白いもの同士甘いものが好きなのですね!」
ヤオはもう長虫と呼ばれることは無視することにしたようだ。愛想笑いで誤魔化す。
辺りに甘〜い香りが充満している。
「さあ!できたぞ!!!食パンとフランスパンの2種類のフレンチトーストだ!シロップは瓶にあるから好きにかけていいぞ!蜂蜜もな!」
縁がそれぞれ大皿にフレンチトーストを山盛りにして置いた。
芯まで卵液が染みたパンは柔らかく、もはやぷるぷるの感触。綺麗なこげ目に、茶色いメープルシロップをこれでもかとかける。フォークで口に入れた瞬間、パンがジュワッと弾けてシロップと絡み合う。
「美味い…。今まで食べた甘いものの中でいちばん美味い…。」
ヤオが感動の涙を浮かべている。
「ヤオ殿、主様の甘い物はもっと沢山種類がございますから、楽しみになさってくださいね。」
アオイがまたヤオを喜ばせることを言う。
「本当ですか?!これ以上に甘くて美味しいものが?!」
ヤオはもはや美丈夫のクールな感じを忘れている。ユエはやれやれと言った様子で、
「ヤオ、ステイだ。興奮しすぎ!私も気になるけど!」
声をかける。
「喜んでもらえて何よりだ。まだ甘いもののレパートリーはあるから楽しみにしておいてね!」
縁は満足そうな顔で笑った。
朝ごはんはあっという間に済んでしまい、少し休憩をとった。(ヤオとユエはそのまま出発まで仮眠をとった。)その後、縁は野営あとの隠蔽工作をした。
その時、縁はふと顔をあげた。
ー何かが近づいている気がする。ー
こういう時の勘は外れた試しがない。縁は半径50キロの大規模探知を行う。
ーいた。ー
直線距離にして38キロ。早駆けの馬5頭に、魔力のある人型の生き物が3名。あくまで人型であって、魔力量は人ではない。
ーこれは、蛟だ。悠淵のものか…。ここは2人に探知で発見させて経験を積ませるべきだ。早速出発だ。吉と出るか凶と出るか…。ー
縁は気を引き締めた。
「みんな!休憩終わり!出発だ。ヤオとユエはこのまま気配探知を続けるように。何かあったら即報告。魔物が多くなってくるだろうから、白曜と黒曜は臨戦態勢に。では、出発!」
縁はヤオとユエに気取られないよう、努めて笑顔で言った。
ヤオとユエは少しずつ、気配探知の距離を広げながら進んでいく。
「直線距離5キロにポイズンバッドが複数。」
ヤオが声を上げる。
「道からは外れているし、眠っている。攻撃する?しない?」
ユエは縁に問う。
「向こうから攻撃してこないならしなくていい。気をつけるべきなのは、ハチ系のモンスターだな。この時期は気が荒い。」
「「了解。」」
2人はさらに意識を集中させる。
しばらく進んだころ、
「馬らしきものが5頭、この魔力量は…人外です!」
ヤオが大声をあげる。
「よし。探知は成功したか。ならユエももうすぐだな。」
「師匠。これは!蛟です。悠淵のもの達です!」
ユエも大声をあげる。
「そうだな、2人とも良く成長した。正解だ。もう少し先に進んだところに広場がある。そこで悠淵の使者を迎えよう。」
ヤオとユエは呆気にとられる。
「知っていたのですか?」
「え、いつから…?」
2人の疑問に縁は、
「朝からだよ。妙な勘が働いてね。大規模探知を仕掛けたら、近づいてきていた。さ、2人とも気を引き締めろ。同郷のものとはいえどう出てくるかわからん。」
あっさりと答え先にすすんだ。
ーええい、どうにでもなれ。ー
2人は己の師匠を信じるしか無かった。




