第8話:島民とパンイチとログイン待ち
――朝。波の音と共に、目覚める。
「よし、今日もログインすっか……って、まだ畑の水やりが先か」
VRMMOプレイヤー・カイト、16歳。
東の果ての孤島に暮らす少年は、**現実世界では完全に“島の手伝い少年”**として生きていた。
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■ 畑にて
「カイトぉー! 今日はばあちゃん家の漬物、運んどいてくれやー!」
「わかってるー! 午前中には届ける!」
島民のばあちゃんたちの中では、完全に“使い勝手の良い孫”ポジションに収まっている。
最近はゲームの話題を出すと、「そげなもんより米作らんかい」と一蹴されるので封印中だ。
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■ 自宅(昼)
午後になり、ようやくゲームにログイン。
パーティメンバーたちがすでに集まっていた。
「遅かったな、カイト。何してた?」
「漬物運んでた」
「ん?」
「ばあちゃんの」
「……島ってスケールでかいのか小さいのか、よく分かんないね」
ユイは苦笑しながら、ログインロビーでストレッチ中。
「俺なんか、コンビニでからあげクン買ってからログインしたっすよ」
と、パンイチ姿で普通に現れるだいちゃん。
「だいちゃん……その格好で外も出たのか?」
「いやさすがに履いたっすよ、短パン。でもこのパンイチスタイルに戻ってくると、なんか“帰ってきた”感あるんすよね」
「ある意味“自分の拠点”なんだな……」
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■ 先生のオンライン授業(?)
「今日の出席者は……全員ね。はい、じゃあログインボーナス計算の練習をしましょう」
「え、先生? それ、普通にプレイヤーとしてじゃなくて授業感出てるよ?」
「このゲーム、経験値とゴールドの効率、結構複雑なんです。ちゃんと理解してないと損しますよ?」
「先生、それは“授業”です」
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■ ほのぼの会話タイム
「カイトさ、現実の方では何してるの?」
ユイがぽつりと聞いた。
「えーと、今日はばあちゃんちに漬物持ってって、畑の水やって、あと……井戸の掃除もしたな」
「なんで井戸!?」
「え、普通じゃない?」
「普通じゃないよ!」
そのやり取りを聞いていた葵先生が、遠い目でつぶやいた。
「……私、最近ようやく“水道代”の計算ができるようになったのに」
「先生それは先生でどうなの」
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■ 今日のログアウト後
ログアウト直前、ふと思いついて俺は言った。
「ねぇ、たまには……俺の島に来ない?」
「島……って、リアルの?」
「うん。ネット回線は遅いけど、空はめっちゃ綺麗だよ」
数秒の沈黙。
「……虫多くないなら行く」
「パンイチでも泊まれるなら俺も行くっす」
「私は有給の調整がいるけど、前向きに検討するわ」
まさかの“リアルで会う未来”が少しだけ現実味を帯びた気がした。