第6話:理詰めのヒーラー、教師は今日も現場で冷静です
「ふぅ、無事にボスも倒せたし、次は上級ダンジョン……って、そんなに調子よく行くわけないよな」
俺とユイが軽く会話しながら、街へ戻ると、広場に見慣れない人物が立っていた。
彼女は、見た目はどこかおっとりした感じの、眼鏡の女性だった。年齢は…まあ、見た目通り少し年上かな。
顔立ちは美人で、服装も落ち着いたシンプルなデザイン。なんていうか、普通に現実世界でもいそうな感じだ。
「おーい、ユイ、誰?」
ユイがその女性に目をやると、即座に顔色を変えた。
「え、あれって……まさか?」
そのままユイは走り出す。俺はその背中を追いかけるように、慌てて駆け寄る。
「ユイ?どうした?」
「う、ううん…なんでもない、ただ…」
ユイは少し顔を背け、照れ隠しのように鼻をすする。
俺はその顔を見て、疑問を感じたが、とりあえず追及はやめておこうと思った。
だってユイがそんな反応をするなんて、よっぽどだし――
「よし、到着~!」
ユイが勢いよくその女性に声をかけると、その女性はにっこり微笑んだ。
「あら、ユイちゃん、久しぶりね。まさかこんなところで会うなんて思わなかったわ」
「ほんと…まさか、ここで会えるなんて……!」
どうやら顔を合わせるのは久しぶりらしい。
その女性は、少し意外そうに俺に視線を向けた。
「それで…君がユイちゃんの友達のカイト君?」
「あ、はい、カイトです。よろしくお願いします」
その女性が軽く会釈し、微笑んだ。
「私は葵先生。
あ、ちなみにユイちゃんが通っている進学校の教師なの。
…さて、ゲームの方はどうかしら?」
ユイが急に赤面し、慌てて言った。
「そ、それはもう!とにかく楽しくて! …あ、カイトと一緒にダンジョンも攻略したんですよ!」
葵先生はうんうんと頷きながら、俺たちのやり取りを見守っている。
「うーん、それにしても、君たちのレベルで既に上級ダンジョンに行こうとしてるのは、ちょっと無謀かもしれないわね。特にカイト君、戦闘スタイルがバランス悪すぎて…」
「いや、バランスはいいから!」
「無敵状態で暴れてるだけでしょ。ちゃんとした戦略を考えなさい」
どうやら葵先生、かなり理論派らしい。
ユイも俺も驚きのあまり言葉を失っていると、葵先生はさらに続ける。
「それに…私もいちおう、ヒーラーだから、少しだけサポートしてあげようと思ってるわ」
「え?本当に?」
「もちろんよ。じゃあ早速、カイト君、もう少し戦い方に工夫を加えた方がいいわね。無敵状態に依存しているだけじゃ、いずれボスに瞬殺されるわよ」
葵先生は、スキルのアドバイスもそうだが、メンタル面まで細かくケアしてくれるタイプだと感じた。
「ユイちゃん、カイト君、これからはもう少し冷静に戦っていきましょうね」
その言葉に俺たちもようやく安心した。たしかに、無敵状態だけに頼っていても、すぐに限界が来そうだし、前進するためにはしっかりと考えなきゃならない。
――その後、葵先生が本格的にパーティに加わることとなり、俺たちのパーティは4人組になった。
だいちゃんも相変わらず「パンイチ」で現れ、葵先生の教育がどこまで効くかが気になるところだ。
「先生、やっぱりヒーラーは頼りになるなー」
「まだまだ、これからよ。カイト君は特に、もっと学ばなきゃダメね」
「わかったよ、葵先生!」
「じゃあ、行きましょうか、次のダンジョンへ」