第1話:ラグの神、爆誕
ログインボタンを押した瞬間――
俺の視界は真っ白になった。
【接続中……】
音もなく、動きもなく、ただ、無機質な文字だけが浮かんでいる。
どうやら、島のネット回線ではこの程度の“遅延”は当たり前らしい。
俺は慣れていた。
……何せ、ゲームのダウンロードに3日かかった男である。
「まあまあ、急ぐ旅でもなし。のんびり接続を待とうじゃないか……」
その時、俺はまだ知らなかった。
“俺が止まっている間”、ゲーム内ではとんでもないことが起きていたことを。
*
VRMMO《VALHALLA》の初期エリア「初心者の森」では、今日も元気にプレイヤーたちが狩りに勤しんでいた。
その中でも特に注目を集めていたのは、フィールドボス「森の牙王(Lv.25)」との戦いだ。
「タンク、挑発よろしく!」
「ヒーラー、後方支援お願い!」
「あとちょっとで削りきれるぞ!」
緊迫する戦闘の最中――
ズドォォォン!!
突如、空から降ってきた“何か”が大地を揺るがした。
キャラ名「ka1to_Island」
初期装備。武器なし。レベル1。
だが次の瞬間――
ズバァァァァァン!!!
森の牙王、跡形もなく蒸発。
周囲のプレイヤーも、まるで台風に巻き込まれたように吹き飛び、ログアウトする者続出。
フィールドの木々が倒れ、地面に謎の亀裂が走る。
「な、なにが起きた!?」
「今の爆発、誰だ!?ボスが、ボスが一瞬で……!」
「てかあいつ誰!?レベル1!?うそやろ!?」
周囲の誰もが、パニックに陥っていた。
ただし――当の本人は、まだ何も知らない。
*
現実の俺。
ようやく接続が終わり、視界が晴れた。
「よし、入れた!……え?」
目の前に広がる光景。
地面に転がるプレイヤーたち、煙を上げるフィールド、そして沈黙するNPC。
まるで隕石でも落ちたかのような惨状だ。
「……バグかな?」
そうつぶやきながら、俺はゆっくりと歩き出す。
何もしていない。いや、本当に“俺は”何もしていない。
ただ、ログインして、立っていただけだ。
……ただ一つ、妙な違和感はあった。
足元が、ほんの少し浮いてるような感覚。
手を振っても、少し遅れて動くような妙なズレ。
――まさかこれが「ラグ」なのか?
でも、それを他人は誰一人気づいていなかった。
周囲には、**“俺は普通に見えている”**らしい。
ただ一人、NPCのおじいちゃんが震えながらつぶやいた。
「……まさか……神が……いや、ラグが……」
――俺はまだ知らなかった。
この時から、“ラグるたびに無敵かつ超火力”になり、
しかも“それを制御できない”という、とんでも仕様のキャラになっていたことを。
この日からプレイヤーたちは、俺をこう呼ぶようになる。
《ラグの神》
そして世界中の掲示板が騒ぎ始めた。
「なんかレベル1のプレイヤーがボス消し飛ばしてるんだけど!?」
「しかも本人、何もしてない顔で歩いてるんだが!?」
「VALHALLA史上初のチートじゃね?(※仕様)」
「公式、何してんだよ!」
その中で、俺は一人思っていた。
「……ゲームって、案外派手な始まり方するんだなぁ」