第10話:ユイの弓と、先生の黒歴史
ログイン直後、ユイは静かにうなっていた。
「はぁああああ……」
「どした? ログボ取り忘れた?」
「違う! なんかさ、みんなスキルとかレベルアップとかしてんのに、私だけ……地味っていうか……」
「いやいや、ユイの矢、普通に強いじゃん」
「パンイチが言っても説得力ゼロっすね」
(※だいちゃんは今日もパンイチ)
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■ 練習場:的当てチャレンジ
「見てろよー。今日こそ新スキル出すから!」
ユイは弓を引き、的の中心を狙って――
シュッ!
「……」
「うーん、めっちゃ真ん中には刺さってるけど、特に何も出なかったね」
「必中だけど地味!」
「いやそれ強スキルなんじゃ?」
ユイの「必中」は、的確すぎて演出が地味という致命的な欠点があった。
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■ 葵先生の唐突な爆弾投下
「必中……か。懐かしいわね。私のかつてのギルド仲間にもいたわ、そういうタイプ」
「え、先生、ギルド入ってたの!?」
「ええ。“†黒き月夜に舞う者たち†”って名前だったわ」
「ちょっと待って!? めちゃくちゃ中二な匂いする名前なんだけど!?」
「“†”ってそのまんまなのか!? 飾り文字じゃなくて!?」
「みんな名前が“†アビス†”とか“†漆黒の囁き†”とかで統一されてて……私は“†蒼刃の祈り†”だったわね」
「情報量がすごすぎて脳が処理追いつかない!」
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■ 黒歴史掘られ中の先生、冷静に分析を始める
「でも、あのギルドは強かったのよ。今思えば……精神年齢以外は」
「ちょっと冷静にならないで!?」
「特に“†奈落ノ焔†”の火力は、下手したら今のカイト以上だったわ」
「ラグより強いってどういうことだよそれ!」
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■ その頃カイトは
「“†奈落ノ焔†”……名前だけで強そうだな……。てか、“蒼刃の祈り”って、なんか先生っぽいの悔しいな……」
「いや、カイトくん? そこ悔しがるとこじゃないわよ?」
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■ ユイ、ようやくスキル発動
みんなが騒いでる中で、ひとり黙々と射っていたユイの弓が、ついに光った。
《スキル【魔貫必中矢】を習得しました》
説明:対象の弱点を必中で射抜く。※ただし演出は地味です。
「なんでそこ強調するの!?」
「システム側も自覚してんのかよ!!」
「でも強いわね。“必中”と“弱点”の組み合わせは、ボスキラーよ」
「演出が地味でも……! 私は……私は……!」
「泣くほど喜ばないで!? そんなに地味だったの!?」
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■ ログアウト直前
「じゃあ明日は、†黒き月夜†の元ギルド仲間が出てくるダンジョンいこっか」
「やめろー!? 私の黒歴史を掘り起こすなー!?」
「†蒼刃の祈り†、覚悟しろ」
「せめてその名前で呼ばないで!!」




