第9話:ラグ神回避!すり抜けスキル、爆誕!?
「えーと……次のダンジョンは『時の歯車』か。推奨レベルは……?」
「ちょい高めっすけど、今の俺たちならイケるっしょ!」
だいちゃんがパンイチで腕を組みながらドヤ顔をキメてくる。
「パンイチで堂々と“俺たち”とか言わないで。被害受けるのこっちだから」
ユイが冷たく返したが、だいちゃんはめげない。
「だってこのダンジョン、トラップ多いって聞いたからさ。装備脱いだ方が軽くて避けやすくね?」
「いや、避ける前に即死するんだよパンイチは!」
⸻
■ ダンジョン:時の歯車(内部)
ギミックだらけの歯車ダンジョン。足元にトラップ、壁からレーザー、床は回転。
ダンジョンというより、もはや物理の教科書に出てきそうな世界。
先生がすかさずメモを取りながらつぶやいた。
「この回転角度、たぶん毎分3.2回転ね……時間軸がズレてる可能性があるわ」
「先生!? まさか解析して突破する気!?」
「いえ、ちょっとした趣味です」
⸻
■ トラップ地帯にて
「お、これは通れそう――」
カイトが足を踏み出した瞬間、“接続中…”の文字がふわっと画面に浮かぶ。
――ピタリ、と時間が止まる。
敵も、味方も、罠の歯車も、動きが一瞬止まったように感じた。
その状態で、カイトはススス……と罠ゾーンを歩き抜け、敵の背後まで回り込んだ。
「……ラグってたな、今の」
でも、他のメンバーには何が起きたかまったく分かっていない。
「え、ちょっと!? カイトなんでそこにいるの!?」
ユイが驚いて叫ぶ。
「ワープした?!」
「まさか裏技か!?」
「違うよ。なんか……ラグってただけ。気づいたら、こうなってた」
「やっぱラグって最強なんじゃ……?」
⸻
■ システムメッセージ
《新スキルを習得しました》
スキル名:【すり抜け】
説明:ラグ発生中、一部の障害物・攻撃を“なかったこと”にする可能性があります。
「いや“可能性”て。バグの自覚あるだろこれ!」
⸻
■ トラップ突破
その後も“すり抜け”スキルにより、カイトは敵の攻撃をスルッと避け、罠の間をすり抜け、
ついにはボスのチャージ中の大技も背後に回ってカウンターを入れる始末。
「おい! ずるいぞカイト! ラグ芸ばっかりかっこよく決めて!」
「いやこっちもいつラグ終わるかヒヤヒヤなんだって!」
「ログアウトするまで無敵とか羨ましすぎるっす……俺もラグりたい」
「だいちゃん、あなたはまずパンイチ卒業してから発言してください」
⸻
■ ダンジョン攻略後
無事にボスを倒し、報酬をゲット。
だが、問題はそのあとだった。
「……これ、カイトしか罠抜けられなかったから、報酬が全員分になってないわね」
「つまり、“カイトが全部拾って後で山分け”スタイルっすね!」
だいちゃんが当然のように手を出してくる。
「いや、あげないよ? 俺、命がけだったからね?」
「けっこうな命じゃなかったぞ!? ほぼゴーストだったじゃん!?」
⸻
■ 帰り道
ログアウト間際、ユイがぽつりとつぶやいた。
「……あたしもなんか、スキルとか覚えないかなー」
「弓技強化とか来そうだけどな」
「いやそうじゃなくて、“あ、パンイチ見ただけでHPが減る”とかさ」
「それ呪いだからね!? スキルじゃないからね!?」




