プロローグ
東の果て、世界地図で拡大してやっと名前が出るような、ど田舎の島。
コンビニはない、信号もない、あるのは海と山と島民の根性だけ。
そんな島に――今年、とうとうインターネットがやってきた。
「ついに……時代が俺に追いついた……!」
朝の海風を浴びながら、島の高台に立つ一人の少年。
16歳、島の便利屋こと**三崎 海斗**である。
高校? 行ってない。なぜならネットがなかったから。
彼は今日、島で初めてのVRMMOゲーマーとして、歴史の一歩を踏み出す――はずだった。
「……あ、ゴーグル届いてないんだった。」
そう、彼のVRゴーグルはまだ届いていない。
なぜなら、配達に一週間かかったからだ。
――港に届いた荷物を、役場の職員が受け取り、
――郵便局の軽トラに積まれ、途中でタイヤがパンク、
――応急処置でリアカーに乗せ替え、
――最後はおばあちゃんが自転車で坂道を登って届けてくれた。
「文明ってのは、じっくり育てるもんなんだな……」
そして届いたその日。
彼はPCを起動し、念願のVRMMO《VALHALLA》のダウンロードボタンを押した。
【残り時間:72時間】
「……3日……!?」
かつて人は火をおこし、土器を作り、農業を始めた。
そして今、海斗はDLバーが1%動くのを見守りながら、3日間寝ずに画面を見つめ続けた。
島のじいちゃんに「それは何かの修行か?」と聞かれ、
海斗はこう答えた――
「これは、時代を動かす戦いなんだ……ッ!」
そして、ついにその時が来る。
ゴーグルを装着。
ログインボタンを押したその瞬間――
【接続中……】
視界が止まった。
キャラクターも動かない。
が、ゲーム内では――
敵モンスターが爆発し、NPCが吹っ飛び、
他プレイヤーが「なんだあれ!?」と叫ぶ中、
一人のキャラクターだけが静かに立ち尽くしていた。
彼の名前は――三崎海斗。
のちに“ラグの神”と呼ばれることになる男である。