魔心導師について
思念体という物質がある。らしい。
生き物の心や想いが形を成し、物や生き物に宿り、何かしらの影響を与える。らしい。
こう表現すると、どうしてかロマンチックな効果がある事を期待してしまうけれど、残念ながら僕自身がそれと関わった体験から判断するに、まぁまぁ酷いものだ。
小学生の頃からモテていた僕は、中学2年辺りから、女性周りのトラブルが絶えなくなった。二股とかワンナイトみたいな無責任な遊びに手を出した事は一度も無いし、どんなにしつこくても、どんなに好みではない女性からのアプローチであっても、不誠実な扱いなどしないようにしていた。けれどトラブルは多発した。中学3年に上がってからの半年間は地獄だった。
「魔が刺した」
誰もがそう言って、僕を貶めた。僕の周りの全てが、僕の周りの全てを辱めた。あまりにも……あまりにも理不尽なその日々に心が挫けたその時、彼が現れた。
そして、解決した。
詳細については言って聞かせる事ではないし、言葉にしたくないから語らないけれど、彼曰く、僕は思念体に憑依されていたのだという。その思念体によって、クラスメートからの嫉妬や、僕にフラれた女性達の心が、想いが、僕にそうあれと、不幸であれと願い、群れとなり完成した思念体が、込められた願いに従い僕を不幸にしていたのだと。
――曰く、思念体になるほど強い想いの場合、良き想いならそのほとんどが行動に移され想いでは無くなるが、悪しき想いはそのほとんどが行動に移す事が許されないため、溜まり、澱み、思念体となるのだという。故に思念体のほとんどは悪しき感情から生まれており、悪しき感情が願うものは決まって誰かの不幸であるため、思念体は大抵が悪者なのだと。
思念体が物に憑依すればトラブルでも引き起こそう。人に宿れば悪意となろう。
「魔が刺した」
と、誰もが言う。
そうならないために、あるいはそうなった者らを元に戻すために。
魔が刺す心を導く者として、彼のような人達が存在するという。
彼は自らの仕事をこう名乗った。
魔心導師と。