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相棒と世界最強  作者: だんちょー
9/43

9話 全身全霊

 



 迷宮の翼のメンバー募集は誰一人取ることなく今年は終わりを迎えた。

 問題があったとはいえ、本物の原石である仲間を6人殺害したアークは謹慎処分と降格になったらしい。


 そしてその問題の発端である僕は…どこのギルドにも所属できないでいた。


「でてけ!罪人なんか取るわけねぇだろ!」


 蹴り飛ばされて外に出される。


 これでギルドの応募総数35件。

 全部門前払いか顔を見られるなり出てけと言われた。


 僕の顔、名前はこの冒険者の街全土に知れ渡った。

 あの日、あの場所にいた冒険者が広めているらしい。


 罪人がこの街にいる。

 そいつの名はエクス。

 白髪でチビ。

 ゲロ吐き。

 妖精の綴り書を読んだことがない。

 さらには能無しでもあると。

 

 街全体の冒険者が結託しているのではと思うほど、僕の悪評は広がっていた。

 


「はぁ…」


 さすがにため息が出るものだ。


 無一文。働き口なし。

 一張羅はボロボロで体も洗えてないから臭いしベタベタ。食べ物はゴミ箱を漁る毎日。


「…輝かしい未来とは」


『それは俺様のことだぜぇ!ひひゃひゃ!』


「………」


 聞こえない。何にも聞いてない。


『おう、白髪のちびすけェ?いつまでこんなとこいんだァ?俺様を早く外に連れ出せよォオイぃ……まァ、聞こえてねぇかァ』


「……次だ」


 あの日、剣を受け取った時、コイツは喋り出した。







『オイオイオイオイ!こんな小便臭ェ小僧が次の俺様の持ち主かァ?勘弁してくれよおィぃ!』


 僕はさぞ場に似合わない間抜けな顔をしていたことだろう。


 剣がしゃべったのだ。

 そんな話は聞いたこともない。


「受け取ってくれるかい?」


 これはたぶん粗悪品。

 呪いの剣だ。

 じゃないと説明がつかない。

 アークは僕にこの悪趣味な剣を握れと言っているんだ。


 僕の中でこいつは良い奴かもって思ってた評価が一瞬で性悪になった。


 でもここで断るという選択肢はない。

 貰わなければ。

 あとで捨てるか売り飛ばせば良いんだから。


 しかし問題があった。


 僕は剣を握ることがどうしてもできなかった。


 もう一度剣を振ると決めたのに、僕は一年以上剣を持てていない。


 持つと体が拒否反応を起こして嘔吐してしまうのだ。

 でも、僕は剣士だから剣を手に戦わなければいけない。


 今なら持つことができるだろうか。

 試してみる価値はある。


 僕は両手で剣を受け取った。


 ここまでは大丈夫。

 問題は柄を握った時。


 もう剣はもらった。

 試す必要なんてない。

 ないけど、今ここで握らなかったら…一生手に取れないような気がした。

 今、後悔するのは良い。時間が経てば笑い話だ。


 僕はゆっくりと柄を握り、鞘から剣を引き抜いた。


 それは刀身が黒い剣だった。

 何か……膨大な力…想像もできないほどの力が眠っているような、吸い込まれそうになる程黒い剣だった。


『……?なんだこいつァ?変だなァ?嫌な感じが一切ねェ…』


 剣が何か喋っていたけど、全く頭に入ってこなかった。


 目眩と頭痛、さらに一年前の記憶がフラッシュバックし……耐えられず僕は吐いた。


 あまりの光景に周りも絶句する中、僕は…



 ーーーああ。やってしまった



 と、後悔した。

 その吐瀉物は手に持ったしゃべる剣に降りかかったのだ。



『……テメェ。俺様の美体になにしてんだこらァ!!テメェの人生なんてあっという間だぞォ?死ぬまで呪ってやるからなァ…!??』


 こうして僕はこの剣に本当の意味で呪われた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





『俺は……前に進む。だけどお前なら…いずれ追いつけるだろ?俺の見たあの後ろ姿は…目指すべきひとつだ。いつか必ず這い上がって来い。待ってるぞ』



 路地裏で寝転がり、思い出すはあの後のこと。

 ルークは今、中規模の成長途中のギルドへと入団した。


 当初、ルークは何を思ったのか僕と一緒にいることを選んだ。

 それは誰でもわかるほどバカな選択。


 『お前といた方がスリリングだろぉが』


 オークごときにビビっていた人間が何を言ったのか、僕はその言葉の後、馬鹿笑いをした。気を遣ってくれたのがわかるが、僕といても実りはない。



 ーーーー絶対にギルドに入れ



 負けず劣らず、ルークをひたすら引き離した。

 ついてくる彼を撒くのに鬼ごっこだってした。

 結果は惨敗だったが。。。


 一緒にいればどっちも不幸になると思ったから。


 お互いにこれが最善だと思ったから。




 ーーー僕は追いつくどころか最強になるから



 拳を交わしたのが二日前。


 だからこんなところで燻ってはいられないのに…。


『…ひひゃひゃひゃ!!!顔の原型留めてねぇぜ!?どんだけ殴られてんだよォ!?反撃しないともっと顔面でかくなっちまうぞォ〜!?ひゃひゃひゃ!!』


 今、目の前にいるのは、あの時、会場にいた迷宮の翼のメンバーだった。

 路地で食い物がないか探している時に鬼の形相で現れた。


「…テメェのせいで弟は死んだ。一瞬では殺さねえ。じわじわと生きてるのが苦痛になる程追い込んでから殺してやる」


 道理も強さも理不尽だった。


 何か。何かないか。

 勝つのは当然無理だ。

 逃げる方法を……逃げる?




 ーーーどうして逃げる必要がある?




 こんなやつに背を向けるのか?



 ---嫌だ



 ーーー逃げない



 ーーー戦って死んだほうがマシだ



「…絶対…逃げない…ッ!」


 死んでも良い。

 逃げるぐらいなら、こいつに一矢報いたい。


 胸に大量の空気を入れてゆっくりと吐き出す。


 体中痛いけど、死なないように痛めつけられるだけだったから動ける。


 あとは、武器。


 腰に携えた剣をみる。

 振れない。

 だけどこれしかない。


 死ぬより、ゲロ吐いてたほうがマシだ。


 キィィィンッ!


 勢いよく鞘から剣を抜き出す。


 黒い刀身を見れば、腫れた酷い顔が映る。

 そしてやっぱりだめだった。


 喉の奥から迫り上がってくるものを堪えられず吐いてしまう。

 だけど、ほとんどなにも出なかった。

 ここ数日ほぼなにも口にしていないから。


 好都合だった。

 ただ目眩と頭痛と吐き気に襲われるだけ。


 出るものは出ない。

 これなら戦える。


「ゲロ吐きの罪人風情が……俺と戦うつもりか?身の程を弁えろッ」


 威圧されただけで足がすくんでしまいそうだった。


 でも失うものはなにもないから。


 怖くなんかない。


「雑魚は雑魚。剣を持ったからなんだ?てめぇは弱者なんだよ能無しィ?ランクがねえ時点で俺には勝てねえ。わかるよなぁ?…死に急いだって殺してやらねぇぞ…ゴミクズが」


「う…る…さい…ぞ…おぇ…っ……かか……ってこ…い!!ハゲ…やろう……」


 頭に血管が浮かんでよほど怒っていることだろう。


 だけど相手は剣を抜かない。

 殺すつもりがないからだ。


 その余裕が足元を掬われることになるんだ。




 ーーーこの一振りは、神をも殺すーーー




 そんなのは嘘。

 だけど嘘じゃない。

 そう思っている。

 そう信じて振るう。

 そう、僕が決めた。


 一切の淀みのない剣は、それを可能とする。


 極限まで脳を振り絞れ。


 目も筋肉も思考も全てを一体化させろ。


 この一撃に全てを。


【一振全撃】


 振り下ろされた拳に殺傷能力はない。

 それを避けるように剣は懐へと入り、下から真上へと大きな体を斬り払った。


 ごはっ…!!


 拳に打たれた僕は数十メートル吹き飛んで壁にぶつかった。

 かろうじて意識が残っている中、斬った相手を視界に入れると、傷跡からは血が吹き出していた。


 …ただそれだけだった。

 斬れたのは薄皮何枚かぐらい。

 致命傷ではなくかすり傷程度だった。


「…殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺すコロスコロス殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロス殺す」


 ただ、そんなかすり傷でもよほど気に食わなかったのか怒り心頭だった。


 背中に背負った大剣を抜いて歩み寄って来る。


 剣を振らないと


 立たないと


 でも、もう力が入らなかった。





☆☆☆☆☆→★★★★★

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