6話 逆境
がらがらがらがら……
ガタッ!
「…んむぅ…」
エクスは今、とても居心地が悪かった。
たまに小石を踏むせいか、馬車は跳ね、お尻に振動が伝わる。
(ちょっと痛い)
これが3日も続けばお尻は真っ赤に腫れ、かなり痛かった。
でも、これぐらい耐えられないで何が最強だ。
お尻も最強を目指してこそ最強なのだ。
「ふふふっ!!!」
急に笑い出した僕をギョッとした目で見る馬車に乗ったお客さん達。
「笑ってる兄ちゃんはなんで【冒険者の街】に行くんだい?」
御者の人がそう尋ねてきた。
ここにいる全員聞かれた質問だ。
冒険者の街【ローグ】
そこは世界中の猛者が集まる場所。
世界で一番『本物』が誕生する都市。
そして、世界で唯一、未攻略のダンジョンが存在する街。
一人目から五人目までみんな同じ回答だった。
そりゃそうだ。冒険者の街なんだから。
みんな
『本物』になるため
と答えた。
ーーー僕は
上に指を刺し、こう答えた。
「もちろん最強になるためだよ」
きょとんとした顔の御者さんが目に入る。
きざったらしかっただろうか。
もしかしてカッコ悪かっただろうか。
じじいはなんかあったら指上げとけって言ってたけど。
「ははは…悪い悪い。あまりにも様になってたもんでよ。本物様かと思っちまった」
なるほど。
まぁ、僕の器を考えれば、本物の中の本物だしね。
「いいな!!お前!なんかこれからやってくれそうな雰囲気あるぜ!ランクはいくつなんだ?」
筋骨隆々のお兄さんが肩を組んで質問をしてくる。
「僕はランク無しだ」
そう言った瞬間、場が静まり返った。
「ちっ…能無しかよ」
誰かがそう言った。
「悪いことは言わない。冒険者の街に行っても…ギルドには絶対に行かない方がいい」
もう誰も僕のことは見ない。
見ようとしない。
まるで最初からいなかったかのように扱われる。
これがジジイの言ってた差別と軽蔑か。
本当に
ーーくだらないーー
能無しだからなんだ?
強いかどうかなんて見てもないし聞いてもないだろ?
僕の何を見た?
能無しだからと弱いと決めつけるのはなんで?
ひひぃぃーーん!!!
突然馬が鳴いて力無く横たわった。
その馬の首筋には一本の斧が刺さっていた。
そして数秒後、近くの森から現れたのはオーク。
オーク
それはランクIに分類される魔物。
しかし発達した腕力はランクIIに分類される。
後衛職がいれば楽々倒せる相手だが、、、
見た感じこの馬車に後衛職はいない。
「おいおい…まじかよ」
馬車に乗っているのは能無し一人にランクIが五人と御者。
全員でかかれば前衛職でも倒せなくはない相手だが…確実に誰かしらは重傷を負うだろう。
「…こんなところで終われないわ!」
そう言っていち早く逃げ出した女性。
これで勝ち目が減った。
「う…うわあああ!!」
また一人、一人と減っていき、
残ったのは僕と、肩を組んできた兄ちゃんだけだった。
さすがにもう逃げられない。
というか逃してくれそうにない。
だけど、
ーーー元から逃げるつもりはない
「おい…能無しぃ……!俺が時間稼いでやるから逃げていいぞ…っ…」
声は震え、膝は笑っている。その顔は無理に笑い引き攣っていた。
今すぐにでもここから逃げたいはずだ。
逆境でこそ、その人の心は見えるというが……この人は強いのかもしれない。
「君、名前は」
「はぁ…!?今そんなこと…聞いてんじゃねぇ!」
「名前だよ。教えて」
彼はオークから目を離せないでいるけど僕は真っ直ぐ彼の眼を見る。
「…ルークだ」
「苗字は?」
「ねぇよ!貴族様じゃねえんだ!」
「そっか。オークみたいな名前だね」
そう言った瞬間ルークは視線をこちらに向けてきた。
「お前から捻り潰したろか?ん??」
「ふふっ!それだけ威勢があれば大丈夫だ」
僕はそう言って、オーク目掛けて走り出した。
「…!おい!」
グラアアアァァァァッ!!
振り下ろされる大きな拳
それを剣で……剣で……?
腰に手を持っていくがあるはずの感覚が一向に掴めない。
自分の顔に血の気がなくなっていくのを感じる。
なんとか体を逸らして躱したが、スピードの出し過ぎと無理な体制での避けで顔から地面に突っ込んだ。
ズザアアァ…
「……やるなお前!」
顔は血だらけになったがすぐに起き上がってオークと距離を取る。
「なぁ!!何か武器持ってない!?」
諸事情で僕は武器を持っていない。
今あるのは己の肉体のみ。
「なんで武器持ってねぇんだよ…。これかこれしかねぇ」
呆れたようにそう言うルークだが、帯剣した剣と懐からナイフを取り出した。
僕はダラダラと冷や汗をかく。
「…他には?」
「ねぇって!!それより…くるぞ!!」
オークが地響きを鳴らして走ってくるが
僕は逃げずにそのまま正面に立つ。
あれから2年。
もうあんな思いはしたくなくて、負けたくなくて、死に物狂いで日々を修行に充ててきた。
能無しだからなんだ?
人間の限界がそこだと思うのか?
ランクがないからってできることはあるに決まってる。
今度こそは
出来うる全てのことをしてきた。
血を吐いて倒れるぐらい走った。
腕の感覚がなくなるまで棒を振ってきた。
毎日重りをつけて生活もした。
ジジイにしごかれて、対人戦もした。
避けなければ死ぬほどの魔法を躱して躱して躱して躱して…いなし方も覚えた。
体の動かし方も体術も覚えた。
魔物や魔法の知識だって、頭に叩き込んだ。
二度目の敗北は
ーーーーありえないーーーー
☆☆☆☆☆→★★★★★
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